二〇一六年十月の短歌
夏過ぎしトスカーナの丘ただゆけばこちらへおいでとイトスギ揺れて
足指を壁蝨に喰われし搔痒は焼却したし思い出に似て
ささやかな沈黙すてきで「秋だね」の言葉のみ込む駅までの道
目覚めてもまだ夢のなかにいるような窓を開ければ霧のミュンヘン
金曜は彼に逢うかもしれない日虫刺されの痕そっと隠して
東京で育てたプライドTシャツの「TOKYO」の文字的存在
夕暮れにテーブル越しにキスをする若いふたりの細いくびすじ
かたわれの死語り慣れし未亡人頬の産毛が金色にひかる
君眠るベッドをそっと抜け出して昔のひとを思い出す、雨
不機嫌な人追い越して街を行く新しい靴はまだ痛むけど
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