インディチャンプの距離適性

2019年に安田記念、マイルCSを勝ったインディチャンプですが、ここ2走は芝1400m戦を使い、3、4着。メンバーの質を考えれば物足らない内容となってしまいました。

この2レースでの個別ラップはこんな感じでしょう。

2020阪神カップ
1:20.1:12.6-10.9-11.4-11.2-11.3-11.1-11.6

2021阪急杯
1:19.6:12.5-10.7-11.4-11.2-11.2-11.0-11.6

走破タイム差が、そのまま馬場差と見て問題なく、通ったコースも似た感じで2レースは同じようなパフォーマンスだったと思います。ラップ推移からしても通過順が示す通り、2020阪神カップの方が前半抑えて走らせたイメージですね。これは平均完歩ピッチを見れば違いがよくわかります。

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2020阪神カップでは序盤、スムーズな追走ができていたとはあまり言えません。初の1400m戦だったものの、位置取りよりも折り合いに気を付けていたような感じです。その分、道中の最遅完歩ピッチ区間は残り600~500m区間となり、余力を溜め込んで一気にスパートするようなレース運び。ただ、思いの外、末脚はさほどキレませんでした。

鞍上福永祐一騎手の意識としては、末脚がキレなかった感触以上に位置取りが悪かったという感覚が大きかったように想像します。2021阪急杯では1列分ほど前に付けようという意識で挑んだ一戦だったように思いました。その2021阪急杯での道中の最遅完歩ピッチ区間は残り900~800m区間。序盤のみならず中盤でも溜める意図はあまりなく、早めの競馬。結果、最速完歩ピッチ区間は前走より100m前倒し。一旦は3着馬を交わし去るような勢いでしたが、終盤は脚色が鈍り交わせないまま4着入線。グラフに赤線を入れてみましたが、0.400秒/完歩を超える区間は2020阪神カップより少ない、つまり道中の溜めが足らなかったという形です。鞍上の工夫が良く感じられるレース内容だったものの、追走と末脚の程良いバランスを見付けられないままの1400m戦だったように思います。

参考までに1400m戦における他馬との比較データを見てみましょう。比較馬は2021阪急杯を完勝したレシステンシア、過去の阪神カップの勝ち馬グランアレグリアとイスラボニータです。

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レシステンシアはインディチャンプ以上にピッチを上げてスタートダッシュを決め、道中はインディチャンプよりもゆったりとしたリズムで走っています。スパートでさほどピッチが上がらないのは前に行く馬の宿命というか、レース序盤に労力を割いて位置取りのマージンを得るスタイル。とはいえ、レシステンシアの方が幾分ピッチの幅が大きい走りとなっています。言い換えれば道中の溜めが効いている内容ですね。また、グランアレグリアもインディチャンプより道中の溜めが効いている波形と言えます。

イスラボニータはまさにインディチャンプと対極をなすピッチの持ち主。1:19.5で走破した2017阪神カップではスタートからゴールまで179.2完歩で走破。一方、インディチャンプは1:19.6で走破した2021阪急杯を203.2完歩で走破。この2頭は1400m戦だと完歩数が24も違います。平均ストライド長では7.81mと6.89m。その差は何と92cm。ほぼ同じような馬体重ながらも体の造りが全く異なる2頭です。近年で私が思う個性派のトップ2がこの両馬で、イスラボニータはいつも形容されたようにチーターを思わせる滞空時間の長い走り。インディチャンプは例えば坂路調教だと更に脚の回転力が凄まじく、絶えずウッドチップを巻き上げているような感じで、脚元が視認しづらいくらいです。

そんな対照的な2頭ですが、大変そっくりな部分も持ち合わせています。スパートのちょっとした合図に対する反応力が超敏感で、進路が空いていれば一気に脚を使ってしまいます。いわゆる手応え詐欺になりやすい典型例の2頭で、身体的特徴は大きく異なるものの、性格は非常に似ているんじゃないでしょうか。一気に熱しやすく、当然冷めるのも早い。実に親近感がわく2頭なのです。

次は安田記念とマイルCSでの走りを、この1400m戦と比べてみましょう。1400m戦は中間部が重複しますが、前後半800mずつのグラフで考えたいと思います。まずは前半800mでの平均完歩ピッチです。

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勘のいい方はすぐに気付いたかもしれません。勝利を挙げた2019安田記念、マイルCSでは、しっかりスタートダッシュを効かせています。早々と好位を取り切り、その分、早い段階から脚を溜めに掛かっているんですね。負けた2020安田記念、マイルCSでは、1400m戦2レースと少し近いイメージです。特にスプリンターが数頭参戦した2020安田記念では、前半200mから追走での負荷が大きい走りとなっています。

アーモンドアイ 2020安田記念 振り返り

この記事でアーモンドアイが苦戦した要因を書きましたが、それはインディチャンプにとっても影響はありました。

では後半800mも見ていきましょう。

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追走負荷が大きかった2020安田記念も、赤ラインを超すピッチで300m走れた点は大きかったと思います。とにかくインディチャンプの好走のカギは、「いかに中盤を溜めて走れるか」。これに尽きます。特に池添騎手がテン乗りとなった2019マイルCSは、スタートからゴールまで、緩やかで大きな曲線を描くように、インディチャンプにとって極めて理想的で実にスムーズな競馬をさせていました。ラストスパートでの力の入れ具合は絶品。至高の名騎乗という見事な内容でした。

いわゆるタイムトライアル的に走る場合、限りなく平均的なペースで走るのが理想的なのですが、インディチャンプはそういうのが得意ではないタイプだと思うんです。前述の性格ゆえ、同じ状態をキープし続けるのが苦手というか・・・。また、坂路調教のラップからもわかるように、猛ピッチ走法ながらも意外とトップスピードが高くありません。件の1400m戦2レースは、総括的に見てスピード負けしたという印象が強いです。特に対レシステンシアという視点で見れば、そんなイメージが浮かび上がってきます。したがってマイル戦がベストだとして、2000m戦か1200m戦か、どちらがレースしやすいかと言えば、私は2000m戦の方があっているのではないかと推測します。

真の意味での距離適性は、最も高いパフォーマンスを期待できる距離を示すことになりますが、競馬の勝ち負けは相手あってのモノ。適性外となる距離条件のレースであっても絶対的能力の違いで勝つことはたくさんあります。今春のG1を考えた場合、昨年二度もやられたグランアレグリアが出走予定の大阪杯よりも、高松宮記念を目指すのには戦略的に十分意味があり、何とかいい競馬を見せて欲しいですね。

高松宮記念で好走できる最大のポイントは、1200m戦であっても「いかに中盤を溜めて走れるか」。中山芝1200mコースとは違い、中京芝1200mコースは3~4コーナーが180度少々回るレイアウト。この区間で脚を溜められる可能性があります。そのためにはやはりスタートダッシュをしっかり決め、何とか馬群から離されずにレースを進めることが必要。レース序盤である程度負荷が掛かっても、スプリンターの多くは平坦的なスピードで走るのが得意ゆえ、中盤を緩めた時のマージンはインディチャンプに分があるはず。そして内枠を引いて3コーナーからインピッタリで回ってくること。スプリンターと遜色ないどころかそれ以上のピッチ走法ですから、距離ロスなく走るメリットは十分にあります。3コーナー手前から緩やかに坂を下る形になりますが、じっくり溜めて4コーナーから徐々にスピードアップし上り坂を迎える形になれば、後は進路が空くかどうかの神頼み。このスプリントG1へのチャレンジ、ちょっと応援したくなりました。

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※2021/03/31 追記

勝ち馬から0.1秒差の3着でしたが、インディチャンプは実に良い走りを見せてくれました。その走りの内容を少し振り返ってみましょう。

まずは前半600mにおける過去走との100m毎平均完歩ピッチの比較。今回の高松宮記念のみ実線のグラフとなっています。

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スタートダッシュ、バッチリ決めていますね。おそらくキャリアハイとなるほどにピッチを上げてダッシュしていきました。その結果、ほぼ中団の位置を取ることができ、前半300~400m区間では0.400秒/完歩以上までピッチを緩めることができていました。1400m戦の前2走より余裕を持った追走状態で、ガツンとラストスパートが行える態勢を築けたとも言えるでしょう。

次は後半600m。

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残り500~400m区間の平均完歩ピッチが今回最も緩んでいるように、中盤しっかり余力を溜め込めています。この記事で書いた好走条件そのものの走りで、道中はほぼ完璧な形だったと思います。また、その影響によりラスト200mでも脚をよく回転させています。ラストスパートも含め、鞍上福永祐一騎手のエスコートは実に見事な内容でした。

しかし残念ながら3着止まり。勝てなかった要因は様々あると考えられますが、その中から2点ピックアップしてみましょう。上位3頭およびレースを引っ張ったモズスーパーフレアの全区間平均完歩ピッチのグラフをご覧ください。

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福永祐一騎手が懸命に押してスタートダッシュさせた一方、勝ったダノンスマッシュは余裕たっぷりのスタートダッシュ。しかし、前半200m地点ではダノンスマッシュが少し前にいました。これは1200m戦における適性の違いがクッキリ浮かび上がった事象と考えていいでしょう。今回の高松宮記念での勝ちタイム1:09.2だと200m平均ラップは11.53。この値に相当する1600m戦での200m平均ラップは11.8~11.9程度。1200m戦と1600m戦では200mに付き0.3秒ほど平均ラップが違います。要はこの2頭、持ち前のスピードレンジが違うわけで、それはスタートダッシュのみならずラストスパートでも同じこと。リアルタイムでレースを見ていた時、4コーナーまでのインディチャンプの様子から、「これはキッチリ差し切るな」と正直思いましたが、思いの外、インディチャンプの末脚の伸びがもう一つと感じたのは、あくまでもダノンスマッシュとの相対的なイメージによる部分もあり、インディチャンプの1200m戦における絶対スピード能力が勝つまでには少し至らなかった結果と言えるでしょうか。また、現役屈指のスピードランナーであるモズスーパーフレア以上にピッチを上げても、スタートダッシュ力は歴然とした違いがあるのはおもしろいところ。これは距離適性プラス、逃げ馬と差し馬の違い、といった要素も含まれています。ラストスパートにおけるインディチャンプのピッチの上昇ぶりも、他の3頭とは異彩を放っています。

そしてもう1点。逃げたモズスーパーフレアの平均完歩ピッチを勝った昨年と比べてみましょう。

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昨年ほどピッチを上げなくても楽にハナに立ち、中間部の3~4コーナーでも昨年より若干ピッチを緩めて走っています。道中は今年の方が楽に走っていた形です。しかし最後の直線部分、残り400mからは昨年ほどピッチを上げることができず、終盤は明らかにバテています。昨年ほどのデキになかった可能性が当然ありますが、私は悪化した馬場の影響も大きかったのではないかと見ています。4コーナーからホームストレッチ中程まで、キックバック、即ち芝の塊が多く蹴り上げられていて、とりわけ馬場の内目はその様子が酷かったです。インディチャンプもモズスーパーフレアよりは外目とはいえ、馬場の状態が悪いラインを通っており、残り400m過ぎた辺りの、ピッチのピークを迎える辺りで大きくノメっているシーンが見られました。

また、ホームストレッチで高く蹴り上げられた芝の塊は、馬場の外へ流れて落ちています。ホームストレッチでは内から外へ風が吹いており、それは3~4コーナーでは追い風の形となります。終始外を通った上位2頭の、4コーナーからのスピードの乗りが目立っていたのは、馬場状態プラス風の要素もあったかと推測します。馬場悪化が内を通るべきインディチャンプにとってマイナスに働いたかと思うのですが、この風の影響を含めたトラックバイアスは直線部分なら額面通りに受け止めて問題ないものの、コーナー部分では、インディチャンプは距離ロスが少ない恩恵があるわけで、相殺されてプラスマイナスゼロになるのか否か、その判断は難しいですね。また、馬場悪化がなければ内外もっとタイトな馬群となるはずであり、4コーナーからの進路取りの難易度が上がるのは当然でもあるでしょう。

何はともあれ、インディチャンプのスプリント戦への挑戦は、実に興味深い結果となりました。いかに戦うべきかを実践していた陣営に拍手を送りたいですね。今回ビシッとスタートダッシュを決めた部分は、今後に必ず繋がるモノであっただろうと思います。

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