猫目探偵鯖虎キ次郎の冒険「鋼の嘴」19

□翼

 そのころ、瑣末警部は科捜研にいた。
 目の前のステンレスのテーブルの上に、銀色に光る翼のようなものが横たわっている。
 ボール状の基部に取り付けられた薄い金属片が、扇状に広がっている。全体としてはコウモリの羽のような形に見えた。基部からは、何本ものリード線が飛び出し、その先端は引きちぎられたようになっていた。
 痩せた研究員が、興奮した面持ちであちこち点検している。

「これは、スゴイ……」
 
 昨日、大東文化大学の女子学生が、川越街道の歩道に落ちていたこの物体を拾い、交番に届け出たのだった。

「警部、これはすごいですよ。こんなとんでもない代物が道端に落ちてるなんて、日本って国は……」
「これは何かの翼か?」
「確かにこれは翼ですね。こんなに軽量で、複雑な制御のできる機構を作るのはまさに神業ですよ。おそらく、このボール状の基部に、羽ばたきさせるための別の機構がついていたにちがいない」

 工学部出身の研究員は、翼から飛び出したケーブルに、電極クリップを取り付けた。彼がPCを操作すると、翼のいたるところに取り付けられた超小型のモーターが動き、翼の形状がいきもののように変化した。
 研究員は、しばらくその様子に見とれていたが、ふと気づいて報告書に目を通した。

「しかし、警部、志村坂上と雑司が谷で目撃されたロボットには、翼の記載はありませんね。二本足で歩いていたということですが、この翼、関係あるんでしょうか」
「なんとも言えんな。まったく無関係かもしれないが、二足歩行の殺人ロボットが、今度は空を飛ぶ力を身につけようとしているのだとしたら…えらいことだ」
「空飛ぶ殺人ロボット?」

 ふう、と瑣末は暗い溜息をついた。


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