第67回まひる野賞受賞作自選10首①
「四月の息」稲葉千紗
見上げれば眩しいばかり三月の世界の淡さはやさしさとして
知ることが増えてゆく子のランドセル傷がつくたびやわらかくなる
大声は出さない出せないわたしにも流れを止めぬ小川ありけり
スニーカーのつま先に穴をあけたまま子は走り出す前だけ見てる
背が伸びてまた新しい夢を見る十三歳の白いくるぶし
親が子に嘘ついて子が親に嘘ついて死なない程度に死にたい気持ち
剪定をするようにして育ておりずんずん伸びる子らの枝葉を
息継ぎのような雨が降る冷蔵庫に牛乳寒天冷えゆく午後を
横断歩道ぴんと手を上げるまっすぐがそのまま君の未来だといい
みぞおちのあたり温もる取り込んだ洗濯物を両手で抱え
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