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私もあなたも小田急線でどうしようもなく幸せだった~小田急線のフェミサイドに捧ぐ~

拝啓、あの日のあなたへ。

今日の私は、あの日のあなたと何ら変わりはないでしょう。
さっきまで私は、久しぶりに会った友人と楽しく会話し、アルコールは摂取していないものの、もう酔ってるのと同じくらいのテンションで語り合い、普段なら言えないことを言い合いました。
お互いが簡単に会えないからこそ、身近な人には心配させるからと言えないことを言い合いました。
楽しくて、時間が「溶ける」という表現はこういうことを言うのだなと実感しました。終電がもうすぐだと知って、私たちは急いで駅に向かい、別れました。

あの日のあなたが何をしていて、何時になっていたか、私は詳しく知らないけど(知るのはあなたのプライバシーに触れる気がして嫌なのです)、私はさしずめ、「幸せそうな女性」として、満員になった小田急線に飛び乗りました。
少し羽目を外してしまったと反省ながらも、楽しかった時間を思い出して、くふくふとマスクの下で笑いたい気持ちです。

そう、私は本当に「幸せそうな女性」で、現に幸せです。

あの日のあなたと、私は、ほとんど同じ。

だけど、私は詳しいことは何も知りません。
知ってしまったら、もう二度と、電車に乗れなくなりそうだから。

何の理由もないであろう、男性の咳払いや、カバンから何かを取り出そうとする手に、何かの意図を感じて私では居られなくなりそうな感じがするから。

私が知っているのは、ただあなたが、「幸せそう」な帰路で被害を受けたということ。
それが、如何に卑劣で一方的で人道的に反していて許されない最低な行為であったか、ということだけ。

あの日のあなたは、今日の私のように、何事もなく、家に帰るべきだった。そうなる権利が私たちには生まれながらにしてあるはずだった。

何であなたが、傷つけられなければならなかったの。
私も、あなたも、本当に何も変わらないのに。

私は今も、その理由を見つけることができない。
そして、あなたが傷ついても尚、明日再び「あなた」がどこかで存在してしまう社会であることが、本当に悔しい。

尊いあなたが傷づいてもなお、反省しない、この社会が憎い。
「あなた」が最後の人になるように努力している人達がたくさんいるのに、それを嘲笑うかのように存在するたった1%にも満たない、悪意のある人が存在することが怖くてしょうがない。
善良な人を警戒しなければいけない、私がつらい。

本当に、今日の私とあなたは何の変わりもない。
それでも私は家に着き、あなたはそうではなかった。

私はそれが本当に悲しくて悔しくて、怒り狂ってしまいそうで、もう、本当に、知らない方が幸せだったと何度でも思う。

私は、ただ、私にもあなたにも普通に布団に入って眠る未来がほしかった。


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