見出し画像

「歴史総合」の教科書から、発見した学びの変化ー後編ー

 『わたしたちの歴史—日本から世界へ』(山川出版社)
 目次
巻頭資料 歴史の舞台
東アジア、南アジア・東南アジア、西アジア、ヨーロッパ、アメリカ大陸、アフリカ大陸                            歴史の扉 
1 歴史と私たち 学校の歴史
2 歴史と資料 学校給食の歴史 
第1部 近代化と私たち
①交通と貿易/ ②産業と人口/③権利意識と政治参加や国民の義務/④学校教育/⑤労働と家族/⑥移民                    1 18世紀の世界とアジア 考えてみよう! 琉球と蝦夷地
2 産業革命
3 アヘン戦争と日本
4 日本の開国
考えてみよう! 江戸時代
5 日本開国期の国際情勢
6 開国後の日本社会
7 市民革命と国民統合
考えてみよう! 国民国家と多民族国家
8 明治維新
9 富国強兵と文明開化
10 日本の明治初期の外交
11 大日本帝国憲法の制定
12 日本の産業革命と日清戦争
13 帝国主義
14 日露戦争と韓国併合
いまの私たちにつながる課題
[自由・制限]どっちがお得? 自由貿易と保護貿易
[対立・強調]意見がぶつかるのも前に進むため?
第2部 国際秩序の変化や大衆化と私たち
国際秩序の変化や大衆化への問い
① 国際関係の緊密化/②アメリカ合衆国とソ連の台頭/③植民地の独立/④大衆の政治的・経済的・社会的地位の変化/⑤生活様式の変化      1 大衆運動の芽生え
2 第一次世界大戦
3 第一次世界大戦と日本
4 ロシア革命とその影響
5 社会運動の広がり
6 国際強調
7 アジアの民族運動
8 大量生産・大量消費社会
考えてみよう! 大衆文化としてのスポーツ、野球
考えてみよう! 大衆文化としての映画
9 世界恐慌
10 独裁勢力の台頭
11 日本のアジア侵出
12 第二次世界大戦
13 第二次世界大戦と日本
14 第二次世界大戦の終結
15 戦後国際秩序
16 冷戦の始まり 
17 日本の戦後改革と日本国憲法
18 日本の独立
いまの私たちにつながる課題
[統合・分化]1つの民族=1つの国家?
[平等・格差]歴史のなかで女性は?
第3部 グローバル化と私たち                    グローバル化への問い
①冷戦と国際関係/②人と資本の移動/③高度情報通信/④食料と人口/⑤資源・エネルギーと地球環境/⑥感染症/⑦多様な人々の共存      1 第三世界の登場
2 冷戦の固定化と「雪どけ」
3 冷戦の展開
4 55年体制と安保闘争
5 高度経済成長の光と影
6 ベトナム戦争とアメリカ
7 経済構造の変化
8 日本の経済大国化
考えてみよう! 日本の政府開発援助
9 アジアの経済成長
10 社会主義の停滞と新自由主義
11 冷戦の終結
12 冷戦後の地域紛争
考えてみよう! 国連平和維持活動
13 地域統合
14 現代世界の諸課題 
15 日本の諸課題
いまの私たちにつながる課題
[対立・協調]激動の時代、命をかけて平和をつくった人々!
[開発・保全]地球は、そして私たちは、どこへ向かうのだろうか?!
用語解説、年表、索引、現代の世界、現代の日本

 前編に次ぐ3冊目の【ダイジェスト版】にはこのようにまとめられているが、ここで挙げる第1〜3節それぞれに「いまの私たちにつながる課題」という小テーマの見出しで生徒自身が生きている今の時代を一つの視点として調べながら過去の経緯について考えていくような工夫がされている。一つの歴史を見て知るだけではなく、どのような共通点があって、共通点を自分の中で一つの道筋を見通しながら、学び始めると以下の学習指導要領で記述している文科省のねらいが達成されたものと考えなければならない。

学習指導要領 歴史総合の目標
 社会的事象の歴史的な見方・考え方を働かせ,課題を追究したり解決したりする活動を通して,広い 視野に立ち,グローバル化する国際社会に主体的に生きる平和で民主的な国家及び社会の有為な形成者 に必要な公民としての資質・能力を次のとおり育成することを目指す。
(1) 近現代の歴史の変化に関わる諸事象について,世界とその中の日本を広く相互的な視野から捉え, 現代的な諸課題の形成に関わる近現代の歴史を理解するとともに,諸資料から歴史に関する様々な情 報を適切かつ効果的に調べまとめる技能を身に付けるようにする。
(2)近現代の歴史の変化に関わる事象の意味や意義,特色などを,時期や年代,推移,比較,相互の関 連や現在とのつながりなどに着目して,概念などを活用して多面的・多角的に考察したり,歴史に見 られる課題を把握し解決を視野に入れて構想したりする力や,考察,構想したことを効果的に説明し たり,それらを基に議論したりする力を養う。
(3)近現代の歴史の変化に関わる諸事象について,よりよい社会の実現を視野に課題を主体的に追究, 解決しようとする態度を養うとともに,多面的・多角的な考察や深い理解を通して涵養される日本国民としての自覚,我が国の歴史に対する愛情,他国や他国の文化を尊重することの大切さについての 自覚などを深める。

 この太字で挙げられていることについて、さらに煮詰めていくと聴覚障がいのある生徒には最も苦手なところではないだろうかと思う。その理由はなぜか。この疑問を私の考えで執筆していく。

 聴覚障がいのある生徒には最も苦手なところではないだろうか。という疑問であるが、実はここに《言語活動の充実》というキーワードが関係している。耳がきこえない障がいが備わっていることは、つまり自然的にたくさんのことば(語彙)が脳の中に伝わってこない。そのために目で見ることば(語彙)の情報量が一般より少ないのはよくあることである。その中で、家庭環境や学校の教育環境によっては、きこえる人よりも低い認知をする児童生徒が多くいるわけである。このような児童生徒に対して一番求められるのは音声言語も一つの選択肢としてあるが多くは、手話言語や視覚でわかる言語活動の充実が必要である。手話言語ができないなら、筆談(板書の活用を含む)やICTによる視聴覚教材の活用が最も大事な鍵になる。

 しかし、社会科教育においては他の教科でよくあるようにことばの意味を理解するだけで、身につくような教科ではない。あらゆる多角的な視点から統合していく、つまり【多面的・多角的に考察したり,歴史に見られる課題を把握する力】が目標になる内容が示されているので、ことばの数(情報)の量が少ないとこのような力が身につくというのは大変難しいものがあるじゃないかと私はこう見る。以下、一つの授業例として「日本国憲法の平等権」の授業を取り扱った投稿を読んで頂ければ大まかに分かるだろう。(後日、投稿する予定である「社会科の授業実践からみる本来の学びとは」を参照。)

教科の内容に出てくることばそのものを自分の言葉(説明)で状況を変換したり、イメージしたものを掲示できる伝える力を育むという「歴史総合」の目標である【日本国民としての自覚,我が国の歴史に対する愛情,他国や他国の文化を尊重することの大切さ】を身につく指導法が達成できるかどうかというのは、教職員の理解と指導力が問われてくるので十分に発揮できるかどうかは人それぞれ重いだろう。耳がきこえない障がいその特性をしっかり把握した上でことばの認知をどのように配慮するかという専門性の理解が十分に理解した前提でないと、きこえる人(一般)の教え方では通用しないということをはっきりと断言する。

ろう学校の指導現場だけではない。現在取り組んでいる各地のNPO法人の教育機会の情報を見てもきこえる人の視線で取り組んでいることには、まだまだ十分に安心できるものではないということを指摘する。オンライン授業の実践でも同じ課題が共通しているので、私はオンライン授業の実践を通して、ことばの身につく指導そのものを気をつけていく必要があると常に心掛けている。またきこえない人がきこえない子どもたちに学習指導をするという放課後活動、児童ディサービスなどが全国各地にある。この環境では、社会科における重要な働きをしっかり果たしているのではないだろうかと期待が持てる。それは先ほど述べたように、手話言語や視覚言語をたくさん見せることで耳がきこえない代わりに目で見ることが強く活かされてくるので色々な見方や考え方を自分自身で出せるように成長できることを知らないうちに与え、育てていけるという効果が発生する。これはきこえる人(一般)で見る自然的に言葉が耳に入り、脳に伝わって蓄積されるのと同じような意味をもつのではないだろうか。と私は考える。

 「歴史総合」の3冊のダイジェスト版を読み、また学習指導要領の変わったポイントを見る限り、新しく学ぶ児童生徒には私たち以上に日本国民としての自覚,我が国の歴史に対する愛情,他国や他国の文化を尊重することの大切さを身につける人間にならなきゃいけないんだという日本としての願いが込められているものなんだ。と感じた。一方で、教職員の私たちが過去に学んできたこと、身につけてきたことを再整理してどのような指導をしていくべきかという新しい専門性の技術が問われてくる。これは感情論でいえば、古い指導法でこだわる人もいればあまり変える必要はなく内容をちょっと工夫するだけでもいいと考えたりするなど多様な視点の声が多くある。難しいところではあるが、答えは一つだけではない。色々な方法を実践することによって、良いものは得ていく。ダメなものは改善するという授業改善や評価の繰り返しをどのように気をつけていくのか。という振り返りの機会は、教員一人だけでは気付かないこともある。 

 一人で抱え込まないで、チームでお互いに議論する(意見交換する)という職場環境づくりが大事に関わってくる。そういう意味では、教員の教材研究の中で、主体的な学びとして子どもたちに考えさせるという負担軽減になることも一つの手立てになるキーワードが生まれたことに私は、ぜひ期待したいところである。