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今だから言える聴覚障がい教育①

4月に入り、GIGAスクール構想や働き方改革、コロナ禍による新スタイル学習の整備など新しいことが進められているようだ。ここでいうと、聴覚障がいをもつ児童生徒が通う特別支援学校(以下、聾学校)においては、もう少し原点を改めて考え直すきっかけにして頂きたいと願う。

 以下、大学の履修にあたって提出したレポートをいくつか投稿する。訂正・加筆をした上でぜひ読んで頂ければ幸いである。第1回目のテーマは、「障がいのある子どもの特性と教育、保護者への対応」で私なりの考察を述べたものとしている。(※執筆当時は大学時代のものであり、特別支援教育制度が導入されてまだ浅い頃である。当時と比べて背景は変わっている部分はあるが、太字で示しているところはまだ進展していないことを感じていただければと思う。)

1.聴覚障がいをもつ子どもの特性とは
 まず聴覚障がいは、伝音性難聴と感音性難聴の2つを主に分かれている。聴力は60dB を基準に100dB 以上が重度の難聴である。私は、生まれつき感音性難聴の障がいであり、補聴器を主に聴覚口話と手話を併用したコミュニケーションを用いて生活をしている。聾学校の教育では、補聴器を着用する生徒が多く在籍していたが、近年は人工内耳の生徒が少しずつ増加する傾向にある。これについては次節でお話ししたい。
 聴覚障がいをもつ子どもによく見られる特性では、補聴器を着用しているから聞こえのいい生徒と同様に周囲の音や音声を聞き取り、聞こえを発達できる役割をしていると誤解していることが多くコミュニケーションのズレが起きたりして対人面との接触に課題が残る。また幼児時から音が分からないために、日本語の習得に時間がかかり、健常児(耳の聞こえる児童生徒を指す)と比べて1〜2学年分の学習の遅れが出てしまうため、進学より就職が多く、就職にも色々と苦戦することが多かったといわれている。これらは、平成21年以前の教育環境で育った聴覚障害者の成人が口を揃えてよく聞く経験談である。
 一方で障害者権利条約に手話は言語であることを認めることができ、聾学校では手話を活用した授業をする風景が当たり前のようにみられている。この教育環境で育った生徒から進学することも少しずつ増加するなど特別支援教育制度の変化で良い方向性に向かおうとしていることがわかる。聴覚口話ではなく、手話を用いて会話をすることで自分が耳の障がいを深く理解し、社会参加できる心構えを意識していることがみられる。手話を言語として誇りにもつことも当たり前になってきたばかりである。
2.教育環境の変化と人工内耳
 子どもの特性は様々であり、教育環境の変化も考えていかなければならない。一人一人の教育的ニーズを実態把握するために聴覚検査法などを駆使し、行動観察を深め課題を改善するために自立活動の充実を盛り込むことが求められる。その中で人工内耳については、感音性難聴の改善のために登場しただけで聴力を改善するのに 40 あるいは45dB 止まりである。依然として「聴覚障がいがある子ども」の域を超えることはできないのである。つまり、補聴器・人工内耳ともに改善に限界があるなら最も必要としていることは、音の聞き分けであり語音弁別能が低いということが共通の指摘する点である。例えば、「たまご」と「たばこ」、「にんじん」と「にしん」など口の形が同じに見えて擬音が違うことを読み取れるかということである。
 この語音弁別能を上げるための指導が聴覚障害教育の重視する部分であり、音の聞き分けがうまくできないなら視覚的なコミュニケーションとして手話を活用するといった手段の獲得が必要である。例を挙げるなら、「アヴェロンの野生児」が物語っているのと同じだ。つまり、聴覚障害者の言語は、「手話」であることを第一に教科指導、生活指導の中で教員が積極的に活用し、見るままに自然に学べる環境を構築することが望ましいと考える。
3.今後に求められる保護者の対応と教師の役割
 保護者の対応については、最近、医療機関から「耳が聞こえないので人工内耳を勧めます。」といわれるままに、乳幼児時から頭部を手術し、成長するとスポーツなどに支障を起こしてしまうために運動の制限をしてしまうなど本人の意思をうまくコントロールできないトラブルがあるとよく聞かれることがある。保護者は、生まれてくる子に耳が聞こえないことに対する不安が大きく、医療の話に惹かれてしまうのがあってはならないこと。聾学校などがセンター的機能を発揮し、教育相談の活用を積極的に行うように整備し、聴覚障がい児にあった教育的ニーズの対応の仕方が多様化しているということをもっと伝えなければならなないという意識を学んでいくことが教員一人一人に必要でもあると考える。聴覚活用の知識だけではなく手話やろう文化のこと、聾学校での教育についてマスコミなども同様の情報を提供していくことも必要だ。その必要性を最近、日本各地で制定が広がっている「手話言語条例」に盛り込むことでいつかは変わってくるという大きな期待を寄せて願いたいというのが私の考えである。


【参考文献】
「特別支援教育の基礎・基本ー新訂版ー」国立特別支援教育研究所 著(2015)
「視覚・聴覚・言語障害児の医療・療育・教育」篠田達明 今野正良 土橋圭子 著
「聴覚障害児の言語発達−手話からみた幼児の人工内耳への疑問−」高田英一