ニンベン師R①

※この物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません

 みなさんは、「ニンベン師」という職人を御存じだろうか?
表の稼業ではない。裏の世界で暗躍する闇の仕事人だ。もちろん、職業安定所やその他の表の職業紹介所からなることはできない。

 「ニンベン師」とは偽造の「偽」という漢字の偏から生まれた警察用語のようだ。警察官は捜査の際に盗聴や傍聴などを警戒し、連絡時には隠語を多く使用する。代表的なものを書けば「チャカ(銃のこと)」や「サンズイ(汚職事件のこと)」などだろうか。その隠語の一つで「ニンベン師」という言葉ができた。

 「ニンベン師」の仕事は文字通りあらゆるものの「偽造」である。公文書・私文書を問わず様々なものを偽造する。偽造したものは当然別の犯罪に使用される。「ニンベン師」の職業は、有印私文書偽造や公文書偽造の罪などにより犯罪行為である。また偽造した書類を使用して犯罪が行われた場合には、詐欺の共犯となることもある。非常にリスクの高い仕事である。

 しかし、世の中ハイリスク・ハイリターンは世の常。高度な技術を持つ「ニンベン師」は数が少ないこともあり、犯罪組織から重宝されている。数ある犯罪組織の中で、「ニンベン師」を抱え込んだ組織は成功しやすいという。逆に言えば、成功している組織は優秀な「ニンベン師」を抱えている、とも見れる。

 当記事は、そんな「ニンベン師」の世界を垣間見るべくある二人の「ニンベン師」にインタビューした履歴である。あくまでもインタビューした内容は実在の内容ではないことを重ねてお知らせしておく。手口や重要な情報が広まることは私自身も犯罪に巻き込まれかねないので、秘匿している。ただ秘匿している中にも彼らを取り巻く環境や仕事ぶり、どういった仕事内容なのかを少しでもお伝えできれば、と考えている。

「ニンベン師」・R(48歳・女)

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