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1998年7月10日のミュージックステーション

1990年代、それはそれはCDが売れて仕方なかった時代。僕はCD売り上げランキングにくぎ付けでした。正確には、B'zのCDが発売した週のランキングにくぎ付けでした。

僕がB’zファンになった1993年にはオリコン1位が当たり前だったので、気になるのはその売上げ枚数。

前作より増えただの減っただの、今のようにインターネットが発達していなかった時代だったので、毎週発売されていたオリコン誌の週間ランキングのページをドキドキしながらめくっていました(申し訳ないですがお金がないので立ち読み)。

ただオリコンより早く順位が発表されるのが、ミュージックステーションで放送されるCDシングルランキングでした。CDが水曜に発売されて、2日後の金曜の放送でランキングが発表されます。翌週発表されるオリコンの順位と近く、結構信頼していました。

そんなランキング発表の中で、人生で一番ドキドキしたのが1998年7月10日のミュージックステーションです。高校3年生の夏でした。

放送2日前の7月8日に発売されたのがB'zの『HOME』です。ただ、同じ日にL’Arc~en~Cielも新曲を発売したのです。それも3枚同時に。

ラルクもブレイクしていましたが、1997年からさらにブレイクして、まさに飛ぶ鳥を落とす勢いでした。そして1998年に3枚同時発売したのが『HONEY』『花葬』『浸食-lose control-』です。

僕は震えました。3曲ともめっちゃいいし、とくに『HONEY』は突き抜けていくようなキャッチ―なメロディーが印象的で、ヒットしないわけがないと思いました。僕はラルクも普通に好きだったのですが、今回ばかりは勝手が違います。

3枚同時発売はすごく話題になっていました。ラルクはB'zの連続1位の記録をきっと阻みにきたのでしょう(なんの裏付けもないですが)。

ラルクが『HONEY』でど真ん中を狙いに来た一方で、B'zが発売した『HOME』はそれまでのB'zにはない、ミディアムテンポの“いい曲”でした。

これが『ZERO』とか『ねがい』みたいなノリのいい曲だったらまた違ったのですが、僕はそれにも「これでラルクに勝てるだろうか…」と勝手に心配していたのです(余計なお世話の極みですが)。

発売日に『HOME』を購入して家に帰ると、僕は目を疑いました。ラルクの3枚のCDがテーブルに並んでいるのです。

弟でした。4歳下の弟はラルクファンで、3枚のシングル全て購入していたのです。まさか敵がこんな近くにいるとは。

「買うとしても来週買えや!!」

と叫びたくなる気持ちを抑えて、弟から借りたラルクのCDをMDにダビングしました(するんかい)。

そして金曜日がやってきました。夜8時、Mステが始まります。食事を終えてテレビの前にしっかりスタンバイ。松本さん作のテーマ曲が流れると「テーマ曲作ってんの誰やと思ってんの!松本さんやぞ!わかってるやろな!」という全く意味のない圧を、テレビの前から番組に送ります。

階段からB'zの2人が降りてきました。そして続いて階段の上に現れたのは、ラルクです。なんと2組ともMステに生出演するのです。恐ろしいキャスティングです。

番組は進み、ランキングコーナーへ。ドキドキとハラハラがマックスです。もしラルクが1位を獲れば、スポーツ紙に「ラルクオリコン1位!B'zの連続1位記録途切れる!」みたいな見出しが踊るでしょう。

そして何よりB'zの2人が1位を逃した瞬間をテレビで目の当たりにすることなるのです。辛すぎます。ご本人たちがどこまでショックを受けるかは全くわかりませんが、ファンとして見たくない…。

1998年はB'zがデビュー10周年を記念して初めてベストアルバム『B'z The Best Pleasure』を発売し、とんでもないヒットになっていました。世の中の空気は「B'zすげえ」です。

だからこそ、です。ここで1位を逃すと「B'zも一区切りついたね」みたいなことを言われるかもしれない…と関西在住の高校3年生(私)は勝手におびえていたのです。

ランキングは5位まで発表されました。まだB'zもラルクも出てきていません。ということは『HOME』とラルクの3枚が上位4つは確定です。

Mステ「No.4!L’Arc~en~Ciel浸食-lose control-」
私「おぉぉ…(俺は花葬よりこっちの方が好きやけど…)」

当時Mステのナレーションは確か外国人の男性でした。ワイプにはラルクのメンバーが映し出され、ランキングはどんどん進みます。

Mステ「No.3!L’Arc~en~Ciel 花葬!」
私「おぉぉ…(そうなんよ。ここまでは予想通りなんよ…)」

残すは2曲。『HOME』と『HONEY』の一騎打ちです。

Mステ「No.2!L’Arc~en~Ciel HONEY!」
私「おぉぉぉぉぉ!!!」

やりました。B'zの1位確定です。テレビの前で思わずガッツポーズ。なんて平和な高校3年生なのでしょう。志望校がずっとD判定しか出ていないのだから、ご飯食べたらさっさと勉強した方がいいと思います。

『HOME』のMVが流れ、ワイプの中でほぼノーリアクションの2人。こちらとえらい違いです。

番組はランキング1位発表からそのままB'zのブロックへ。『HOME』と『The Wild Wind』2曲の演奏を穏やかな笑顔で眺める茶の間の私…これが1998年7月10日のミュージックステーションの話です。

しかしあれから25年以上が立ち、すっかりランキングが気にならなくなりました。音楽も多様化し、CDも売れなくなり、特典付きのCDが数を伸ばす時代になりました(というか特典なしのCDをほぼ見ない)。

B'zもその活動期間が長くなるにつれ、シングルをリリースしなくなりました。去年発売されたシングルは約6年ぶりです。去年のシングルも1位を獲っていましたが、別に2位でも3位でも僕は何も思わなかったでしょう。

みんなが好きなものが好きであることが大事な時代はとっくに終わり、自分の好きなものが何なのかが大事…という時代になったと思います。

もうあんなにランキングに熱狂することはないと思いますが、あの1998年7月10日のミュージックステーションは、おじいさんになっても覚えているでしょう。

個人的には甲子園よりもW杯よりも熱かった、高校3年生の夏の思い出です。

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