テレビとサプライズとクレームと。
テレビ局には視聴者の方からの意見を受け付ける部署があり、MBSではそれを視聴者センターと呼んでいます。
届く意見は様々で、番組の感想、激励、質問、指摘、疑問、苦言など多岐にわたります。放送した内容に誤りがあった場合、いただいた指摘をもとに訂正放送をすることもあります。
もう14年前の話ですが、MBSが行った『オーサカキング』という夏の一大イベントの演出を任された僕は、ロザンさんが出演する火曜日のステージ企画として『ロザン宇治原三線ショー』を計画しました。
宇治原さんの成長物語を2か月間描いて本番…という想定でしたが、宇治原さんの「音符じゃなくて図形で覚える」という独特かつ高性能な学習能力が炸裂し、なんの苦労をすることもなく三線を習得していきました。ストレートにいうと、想定していたより面白くなりませんでした(宇治原さんすいません)。
そこで僕らスタッフが相方の菅さんに「太鼓でサプライズ乱入して、いいところを持っていくオチにしたい」と相談したところ、菅さんは快諾してくれ、宇治原さんには内緒の練習が始まりました。
迎えた本番、宇治原さんはもちろんノーミス演奏で、集まった数千人のお客さんは大盛り上がり。最後の1曲で大団円…と思いきや菅さんが乱入し、スタジオ爆笑、お客さん大喜び、宇治原さんポカン…という最高のラストを迎えることができました。少なくとも僕は。
その数日後。
出社すると、僕のデスクに週刊少年ジャンプくらい分厚い紙の束が置いてありました。なんだろうと思っていると視聴者センターの人が近づいてきて
「亀田興毅戦以来の大クレームです」
と一言。亀田興毅に何があったかはいったん置いときますが、そのクレームの内容の大半はこうでした。
「宇治原さんがかわいそう」
「感動してたのにふざけて終わってガッカリ」
別に反論するつもりはありません。実際、嫌な思いをされた方もいたと思います。「おいしい」という感覚を持っていない方がいるのもわかります。
当時はTwitterがなかったので紙の束が僕のデスクに置かれただけですが、今だったら”炎上騒ぎ”になっていたのかもしれません。
僕らは本番の翌週、舞台の裏側を放送しました。ロザンの絆が感じられるVTRだと思ったのですが「これで許されると思うな」という意見が視聴者センターに届きました。
視聴者センタースタッフの「亀田興毅戦以来のクレームです」は一生忘れられないフレーズですが、それでも誰からも「謝罪しよう」とは言われませんでした。こちらが提供した料理の味に、お口が合わなかった人がいた。それだけのことだとみんなが理解してくれていました(この時は、お口に合わなかった人の数がかなり多かったですが)
2022年の今ならどうなっただろう、とたまに考えます。もちろん、誰かを傷つけてまで放送したいとは思っていません。でも「お口に合わなかった人」がいた時、それをテレビ局としてどう捉えて、どう対応すべきなのか。
「お口に合わずすいませんでした」と謝罪している番組を見ると、難しい時代になったなと思います。その度に、大事なのは「謝るべき時にちゃんと謝ること」だと肝に銘じています。
今後も色々な番組に携わる中で、失敗することも多くあるでしょう。ただ「宇治原さんの三線以来のクレームです」と言われるのだけはなんとか避けたいなと思っています。
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