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三人の記憶:藪の中③~黒田くん2~【少年小説】

「小鹿先生、実はもう一つ感想文持ってきました」
「え?どういうこと?」
「春岡くんが書いたんです」

同学年で違うクラスの春岡くんがなぜ書いたのか分からなかったので、黒田くんに聞いてみた。

すると、春岡くんと黒田くんはある小説家つながりで仲が良かったようだった。

電話もする関係で、昨夜、今回のことを話したそうだ。春岡くんは天方くんとは同じ中学校出身だ。

天方くんとは部活動も同じで確かバドミントン部だったはずだ。

春岡くんは両方の人間と交流がある関係だった。


「読んでもいいかしら?」
「許可とってます。春くんは藪の中の感想文なら3人書くのが当たり前だって言ってました」

春岡くんもギャグセンスにたけた作家タイプのたぶん我が高校でいちばん上手な文章家だ。

教員ということを忘れて読みたくなり読ませてもらった。読むと正直ショックを受けた。作家の文章といわれてもわからないほどの印象を受けた。

要約すると、

「天方くんは学区の関係で、春岡くんはほぼ転校生のように天方くんと同じ中学校に通うことになった。
バドミントン部に入ったときに天方くんと知り合った。天方くんはすぐ春岡くんに声をかけて友達になったそうだ。
心細かった春岡くんにとってはすごくうれしかったようだ。
二人ともギターが趣味で春岡くんが初めて中学校に入って遊びに来てくれたのが天方くんだったそうだ。

天方くんは癖が強かったが、面白いところもあり、仲は良かったようだ。

ところが、高校に入学したときに春岡くんは気付きだしたのだ。
それは天方くんにとって春岡くんは、黒田くんの代わりの存在だったのではないかということに。
春岡くんと黒田くんはそこまで似ているとは言いかねたが、天方くんにとってはよく似た存在だったのかもしれない。

悪く言えば春岡くんは黒田くんの代用品にすぎなかったのだ。
その頃から春岡くんは天方くんと一定の距離を取り始め観察をしだした。

あるとき、春岡くんは黒田くんと知り合い意気投合した。お互い天方くんのことに触れなかったのだが、あるときにふとしたことで二人が天方くんの話をしだしてから、お互い感じていることが同じだったことに気づいて、天方研究が始まったという。

天方くんは性格がすぐかわる多重人格の傾向があるとか、サイコパスの特徴があるとか、さまざまな性格を作り出しているのではないかという疑いまで持つようになったそうだ。

天方くんがあるときに図書室で体を寄せあって小さな声で笑い合っている春岡くんと黒田くんと出くわしたとき、天方くんは何も見なかったように二人を無視して部屋を出ていったそうだ。

そのときの天方くんの目は憎しみと恨みに満ちた何かにとりつかれたような状態だったそうだ。しかし、天方くんはその後何事もなかったかのようにその話を春岡くんにはしなかった」

という内容だった。


「小鹿先生、どうです?春くん才能ありますよね。面白かった~」
「ねえ、この内容は全部事実なのかしら?」
「僕も初めて読んだこともあるからわかりません。彼に聞いてみたらどうですか?藪の中の3人に聞くのが先生なら原作と少し似た設定になりますね(笑)」
「図書室でのことは本当なの?」
「事実ですけど、僕にはそんな風には見えなかったから、彼の創作かも」「そう」
「先生、そろそろ失礼します。手紙とか書いてくれたら返事します」
「ありがとう」

なんだか、不穏な空気を感じだしていた。天方くんと関わるには注意したほうがいいと、直観は伝えてくる気がした。

【つづく】

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