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【少年・青年小説 食シリーズ】「東京に食べるためにやってきた⑤~経堂のドトールコーヒーのジャーマンビッグドッグ1~」

大学3年になって、都内のアパートに引っ越した。

相模大野では1.9万円で6畳にキッチン1畳くらいにトイレ付き。
経堂では、さすがにそんなに安くはなく、2.5万円で共同トイレ…
しかし、6畳あって、北西角部屋の2階建て2階…悪くなかった。

経堂を選んだのは…相模大野の同じアパートの同級生が経堂に先に越していて、遊びにいったときに…あまりにも飲食店…特に安い定食屋が多く、
活気があったのが印象に残り…それで、同じ街でアパートを探したということがあった。


同級生のアパートは農大側で、ユキオのアパートは北側で、かなり遠かった。しかし、駅の北側に決めたのは正解だったとあとあと思った。

経堂は…当時は立体交差ではなく、あかずの踏切で知られる、南北が分断されたような、南北の個性がはっきりと異なるおもしろい街だったのだ。


南側はチェーン店もあるし、農大があるせいか、学生が多く、活気があり、
当時はなんとバスがあの狭かった商店街を走っていたのである。
そのごちゃごちゃした感じが、リトル下北沢的で魅力がある街であった。

反対にジョイフルのある北側はもっと地元の商店街という性格が強かった。
当時はいまとは違って、銭湯も多く、商店街は人が多く、活気があった。
南口の活気とは違った生活する人たちの活気で、総菜も安いし、
定食屋も安かったのだった。

ユキオが最初に不動産に来たときに食べたものは…
大石家というラーメン屋のラーメンライスだった。
400円のラーメンと700円のチャーシュー麵にライスしかなかったと記憶する。

その後、シュウマイとかがメニューに加わったが、そのぐるぐる巻きのチャーシューがすごくおいしく、スープがあふれるくらいどんぶりになみなみそそがれている醤油味がなんだかなつかしい感じがした。

麺も中部地方でたべるような縮れたもので、なじみやすかったのかもしれない。

青い小ネギがたくさんあって…東京は白ネギが多かったので…このみだったのだろう。シナチクもおいしかった。海苔もある。

茶碗のライスの値段は忘れたが…たぶんライスを足していたと思う。
最後に茶碗めしにぐるぐるチャーシューとラーメンスープに麺などを押し込んで、水でしめる快楽で…ユキオはこの街に住むことを決めたのかもしれなかった。

アパートから経堂駅までは11分というのが不動産の情報だったが、
ユキオは寄り道ばかりしているので、正確には何分かいまだによくわからなかった。

それくらい、この街は魅力的であった。

当時、経堂駅の改札は変わっていて、地下に入り口があった。
ホームは地上だった。
当時の経堂駅は引き込み線というか…京王線の桜上水とおなじく、車庫のある駅だったこともあって、広い駅というイメージがあった。
準急も止まるし…鉄道がやや好きなユキオはそれも気に入っていた。

ドトールコーヒーが駅のすぐそばにあって…
かつて別の喫茶店を改装したのか…天井には羽根だけの扇風機が回っていて…雰囲気のある内装であった。

ユキオはドトールコーヒーが大好きであった。
何がいいって…ジャーマンドッグが180円という破格値であり、
この手のホットドッグにしては味もいいし、
3つ食べても540円である。
いつか、ここでジャーマンドッグを食べられなくなるまで食べてみたいと思っていた。

ある日、そんなユキオに衝撃の光景が飛び込んできた。
ある老齢の小柄の白人の方が…280円のジャーマンビッグドッグを
2つ食べているのが目に飛び込んできた。

なんと…なんてうまそうに食べるんだろう…
あの老人は…

ドイツ出身なのか?
勝手に妄想していた。
2本をゆっくり食べていた老人は…
食べ終わるとまた何かを注文に行った。

ビッグドッグかと思ったが…結局、
コーヒーを注文していた。

ユキオはなぜかがっかりした。

その後、同店内で、何度か老人がビッグドッグを2個食べているのを見かけることがあった。

そのたびにユキオはいつか3本のジャーマンビッグドッグを買って一気に食べたいと…そんな気持ちになるのだった…。


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