とーます模話のこざこざシリーズ 18「レッドツェッペリンとディープパープルのはざま②…第三世界の音楽とクラシック音楽」
【ディープパープルはハードロックの名曲のバンドとして、
レッドツェッペリンは自分の広範なロック体験のテキスト、
ガイド本として…】
前回、そう書いた。
今回は、高校時代以降、それがより具体的には、
どうなっていったかに少し触れたい。
Aくんは黒人音楽のレコードコレクターであった。
広範な知識をもっていて、
彼にはブルースをよく知らないころに、
先生としていろいろ教えて導いてもらった。
そんなひとだ。
同学年だったが、
大人びていて、知的レベルが高いひとであった。
「ミュージックマガジンなんかの解釈だとさ、
黒人音楽だとかさ、カリブ海の音楽、ブラジルの音楽、
アフリカの音楽なんかを〈第三世界の音楽〉って、
とらえているんだよ。もちろん、ポップミュージックに関してだけど…
つまり、ワールドミュージックなんかの流行を、
第三世界の音楽の逆襲的にとらえる傾向もあって、
もちろんそれは白人の文明に対するってことね」
ロックのルーツを知りたくて、
米国の黒人音楽を聴き始めた私には、
あまりピンとは来ない話だった。
「Aくんさあ、じゃあ、白人の音楽の世界への復讐みたいな
感じなわけ?」
「そうじゃあないんだけど…実際はさ…ポップミュージックに関しては、
いまの米国の音楽は黒人音楽が席捲しているともいえるわけで…特に、ロックンロールがはやってから、
その傾向は顕著なわけ。もちろん、公民権運動とか、黒人差別とかの
問題は並行して進んできたけど、音楽は飛躍的に浸透してきたのは事実だよね。復讐はさておき、浸透したってことね。大衆音楽の世界では文化的な優位性を第三世界の音楽が勝ち取ったという視点もあるってことだね…」
「ジャマイカの音楽とか、カリブ海の音楽もってことだよね…そうすると…白人対黒人みたいな構図でとらえているってことなのかな?」
「復讐でなく浸透…」
Aくんは、基本は無口なので、
話が通じなかったり、理解されないとなると、
口数は減る傾向があった。
私もよく理解できなかったので…会話は終わってしまった。
あまり、ピンとこないなりに、
その後、第三世界の音楽というものを、
自分なりにとらえるようになっていった。
当時バンドをやっていた。
5歳以上、年下の人間とやっていたのだが…
ロックをあまり深く知らないボーカリストSの
とんちんかんなロック理論には頭を抱えることがたまにあった。
Sが尊敬する先輩がディープパープルが好きで、
彼が「ディープパープルはロックをクラシック音楽の視点で解釈し、
新しいロックをつくりだしたすごいバンドだ」といっていたらしい。
Sは自分の意見はあまりなくて、影響を受けやすいところがあった。
Sは受け売りの言葉を熱く私に語り、
要するにレッドツェッペリンとかより、
ディープパープルがイケてるという話を私にしたのだ。
1972年のマシーンヘッドが発売された年の話ならまだしも、
そのときもう少しで1990年になるという頃の話だ。
うんざりした私は、
SにAくんからきいた〈第三世界の音楽〉の話をしようと思ったが、
Sに伝えたところで、理解できるはずもないので…
しごく簡単にAくんからきいた視点で、なんとか話をしたのだった。
「Sさあ、おまえが自分でそう思ってるなら、それでもいいと思う。
でも、誰かの受け売りだろ?
ロックってのはね、黒人の音楽の影響を受けた音楽なわけよ。
クラシック音楽的に解釈ってのはね、
一時期はやったものではあるんだわ。
プログレッシブロックっていわれてさ…
当時は進歩的だって思う人もいたのよ。
白人的な世界の音楽ではない黒人の音楽を、
白人的に解釈して新しい音楽になったって…
そういう時期もあったみたいだけどな…
ちなみにジャズってのは白人が黒人音楽の影響を受けたものを音楽化したものだよな。それが、軍隊の払い下げの楽器を比較的裕福な黒人たちが
白人の音楽を学んで吸収して、黒人の〈第三世界の音楽〉的な解釈を入れてさらに黒人音楽としてのジャズを発展させるわけじゃない?
それは〈第三世界の音楽〉の立ち位置から白人音楽に歩み寄ったパターンだよな。
黒人の音楽ってのはいわゆる〈第三世界の音楽〉って解釈もあってさ、
つまり白人の文明とは異なる文明の音楽なわけ。
異質な文明へのリスペクトをもってその〈第三世界の音楽〉から、
その影響を持ち込んで創作したレッドツェッペリンと、
〈第三世界の音楽〉の入り口からロックを持ち帰って、
白人の文明そのもののクラシック音楽そのまんまにやることと、
どっちが進歩的だって思われてるかわかるでしょ?
ディープパープルはおれも高校時代はまったし、好きだったし、
いまもきらいじゃあないよ。でも、ディープパープルを学ぼうとは思わないし、バンドでやろうとも思わん。
いまレパートリーにしているWhoとかストーンズとかスモールフェイセズとかはさ…黒人の音楽の影響を受けた白人のロックミュージシャンたちじゃん。彼らのことをもっと理解したいと思ってバンドでやろうとしているオレとFとは合わないんじゃないの?
常々思ってるけど…おまえの思ってるロックってさあ、
やっぱり理解できにくいんだよ。おれの世代には。
ロックじゃなくちゃならないって意味は、
おまえにはあるのかなあって…わかんないんだよね。
すきじゃないなら、ほかでバンドやったら?」
25歳くらいの私には、その程度のことしか言えなかった。
Sとは、その後もバンドを何年か継続したが、
ディープパープルの話は二度とすることはなかった。
Sもディープパープルをその後きいている話は聞かなかった。
レッドツェッペリンをバンドでやりたかったが、
技量の問題が大きいこともあり、実現できなかった。
その後、私とFがやろうとしたブリティッシュビート以上に
黒人音楽寄りのロックは、
ついにステージでは披露されないまま…
バンドは終わることとなった。