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【ロック少年・青年小説集】「25歳からのバンドやろうぜ1~初めてのステージに立ってみよう⑰【人生初ステージ7】~」

司会進行の女子に呼ばれてユキオはステージに向かった。
リハーサルなしのため、素早くアンプとギターにシールドを差し込み、床においてあるチューナーで改めてチューニングをした。

Fたちのバンドが終わったばかりで、客席もまだ騒がしかった。
かなり受けていた印象がユキオに多少の緊張をもたらしたが、いざステージに立ってみると、思ったほど舞い上がった状態にはなっていなかったことは意外の感じがあった。

やることが多く、時間の余裕がなかったことがよかったのか…。

マイクスタンドにもカラーテープをつかい、ピックを貼り付けておく。
アンプの設定を始めてみると…かなり大きなものであった。
こんな大きなアンプで音を出したことがない。
グヤトーンとあった。

いつもの設定に近い状態にして鳴らしてみると…!

すげえ。
なんてパワフルなアンプなのか…。

ユキオの中古のフェンダーストラトキャスターがこんないい音を出すとは…ユキオはまるでスタジオで個人練習を楽しむように試し弾きしながら、自分のギターが出すパワフルで厚みのある音色に興奮した。

ステージを見渡すと、Sはもう準備ができていて客席の女子たちと話してたのしそうに笑っていた。

後の3人が遅れて出てきて準備を始めたばかりだ。
Fは余裕の表情で演出にサングラスとマスクをしている。
2回目のステージのせいか、全く緊張していない。
えらく機嫌がいい。

Sは客席にあいそをふりまいている。
Dも一緒だ。
たのしそうだった。

Kの準備が遅れていた。
K以外は準備が整った。
ユキオはなんだか興奮しているのかステージを歩き回ってみんなに声をかけてまわった。

「お早くやろうぜ」Sがいきがって虚勢を張ってマイク越しにKを促す。

ユキオは試し弾きで演奏曲以外のリフを弾いて待っていた。
意外と一部の客席が反応しているのでトレインケプタローリンやブラウンシュガーとかを弾く。

客席がざわついて前に男性客が出てくる。
よくみるとWやYも前の方に出てきている。

Kの準備ができた。
合図がSに届いた。

「おまたせしました○○○で~す」
爆笑が起こる。

バンド名は情けない擬態語でFがつけた傑作だ。

ステージなれしたFがSのエムシーと重ねるようにイントロをひきだす。
Kがせっかちなドラムたたきだす。
練習でもできなかった絶妙なタイミング。
ユキオがリフをひきだす。
Sのボーカル…PAがろくにきこえないが…前列が予期しない盛り上がりになっていることがわかった。


ユキオはもう力を入れなくてもギターが鳴っている。
いつもよりわざと雑にラフにリズムを弾いた。


1番が終わると歓声が上がっていることがわかった。

これは…思ってもいない反応。
スクラッチさせたあと思わずジャンプしていた。
ピートタウンゼントを真似した。

しかし…ジャンプの着地でブリッジがわのストラップピンが抜けた。
あわてて膝でギターを支えながら弾いて1曲目が終了。

エンディングを弾きながらストラップピンをはめ直してすぐ2曲目。

スターリンのロマンチストはコード進行が早くストラップピンが気になるが激しく弾くしかない。

また途中で抜けた。
またまた膝で支えるしかない。

前列がライブハウスのようになっている。

もっとやれ的な盛り上がりは予想外にうれしい。

3曲目の前にチューナーの横にカラーテープがあることに気づいて応急処置をした。
ストラップピンをカラーテープでギターのボディーに貼り付けてみた。
なんとかいけそうなのでイントロに入った。

ドカドカうるさいロックンロールバンドが始まった。
ギターは鳴っていた。
客席のうけもよかった。

しかし長いギターソロは人前では弾いたことがない。
多少不安がよぎる中、曲は進んでいった。