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【少年・青年小説 食シリーズ】「東京に食べるためにやってきた⑧~東京といえば立ち食いソバ1~」

ユキオは立ち食いソバが好きだ。
20代は1日すべて立ち食いソバの日もあったほどだ。

初めて上京したころのことだ。
用事があって、水道橋に降りた。

神田川が見える。
同じ名前の立ち食いソバ屋に入った。
はじめて東京で食べる立ち食いソバだった。

コロッケそばを注文し、柳の木越しに、
神田川が見えていたカウンターで食べた。
遠州の立ち食いソバとは比べ物にならない、
値段の安さとコストパフォーマンスに目を見開いた。

「出し」の違いが決定的であった。
遠州の立ち食いソバは出しが弱い。
御前崎もあり、鰹節も有名な静岡県なのに、
だしのおいしいお店という記憶があまりない。

カツオも鰹節も最高のものが手に入るはずなのに、
食文化として、立ち食いソバに関しては遠州は東京にはかなわない。
そう感じた。

しかも、このコロッケ…うまい。
少し甘めだが…いける。
少し入った白ネギとあいまって、
ユキオは食べることを中断できなかった。
気づくと汁もすべて飲み干していた。


東京に来て、本当によかった。

ユキオは、その後、東京に点在する
立ち食いソバを都度利用し、
そのレベルの高さに驚くのであった。

故郷の普通のそば屋と同等か、
それ以上のレベルの立ち食いソバがいくつもある。
特に、神田周辺、東京駅に近いあたり、
そば屋レベルのそば粉が入っている店もある。


とはいえ、ユキオは二八そばという逆の八二そば…
小麦がほとんどでそば粉はほんの風味程度の、
太い麺を使うような立ち食いソバも大好きであった。

神保町に行くと、立ち食いソバのはしごをする。
いちばんのお気に入りは、揚子江菜館のある通りの、
かどやのごま油の一斗缶が積み上がっている、
「ウナギの寝床」のようなカウンターの立ち食いソバ屋だ。

ライスが100円で、どんぶりに入ってくるし、
野菜の天ぷらの種類も多いし、
冷やしめんもおいしい。

麺は特別おいしいわけではないが、
天ぷらとコストパフォーマンスにひかれて、
ここでは1日3回食べることもある。

交差点にある梅もとも大切な店だ。
交差点には他の店もあり、なかなか味がある。
しかし、ユキオは梅もとに満足していた。


梅もとでは、たいていカレーそばを頼むか、
春菊天そばを頼むことが多い。
汁が多く、それも好きな点だ。
お金に余裕があれば、キツネそばに春菊をのせるとか、
稲荷ずしとかも頼む。


小田急線ででかけるなら、
箱根そばは外せない。
東京の立ち食いソバでのすばらしさは、
かき揚げのどっしりとした存在感であろう。

関西のかき揚げより、
玉ねぎが多く、うどん粉も多いこともあるが、
それもまたよし。
かき揚げとソバでおなかが膨れるというのが、
東京立ち食いソバの美点であると、
ユキオは思っている。

箱根そばは、新宿駅小田急線改札にある本陣もうまいが、
やはり、沿線にあるホームにある立ち食いソバの味の方が、
濃い味がして好きであった。
本陣は関西風なのか、汁の色も薄く、
肉の味付けも淡く品がいい。

ユキオはやはり、相模大野だとか本厚木駅などのかき揚げそばや肉そばなどを好んだ。うどん粉たっぷりのかき揚げの醍醐味が、ここにはあるからだった。

うどん粉かき揚げの白眉は、品川駅常盤軒のかき揚げであろう。
イカ揚げせんべいのような硬くて歯茎に刺さりそうなかき揚げを、
汁たっぷり、真っ黒いこぼれそうなくらいたっぷりのどんぶりの汁をしみこませたり、かりかりの部分は残し、ぶくぶくのてんぷらとかりかりのてんぷらの両方をたのしみながら、ぼつぼつする歯ごたえのそばを食べるあの独特なうまさ。

通りかかったら、ユキオはホームや改札内にある立ち食いに行っている。
余談だが、品川駅常盤軒はカレーライスも絶品なので、
ユキオは両方食べてしまうことがあった。
仕事が終わったあと、うっかりホームの天そばとカレーライスを食べてしまい、あとは何も食べられないということもあった。


秋葉原、神田界隈は、もう立ち食いソバの聖地といっていいであろう。
かめや、二葉、かのや…チェーン店であろうが、激戦区ということで、味のレベルは高まっているように思う。

富士そば、小諸そば、ゆでたろう…そのほかの新しい店もできてくる。
ラーメンもどんぶりもある立ち食い…
ユキオは、健康に配慮しなくていいのなら、
いつも立ち食いソバでもいい…それくらい、
この手の店が好きなのであった。


余談だが…一時期はまった飯田橋にある椅子のある立ち食いソバ屋がある。
そこでは、ライスがあるのだ。椅子に座り、天ぷらそばにライス。
それで500円しない。

仕事で飯田橋に行っている期間、
ずっと愛用した。

東京には、チェーン店でなくても、味のある立ち食いソバ屋、
もしくは椅子のある立ち食いソバ屋がまだある。
ユキオの立ち食いソバ愛はまだまだ続く…