【少年・青年・中年・老年小説集】「モノベさん外伝…〈仙人と遇った話①〉」
昨日の土曜日、ある喫茶店で占いをしてもらったあと、
池袋にバスで行き、天龍の支店で餃子を食べてきた。
酒が飲めないモノベユキオは、
食べることが最大のストレス発散であった。
8本の餃子を完食し、
湯呑みくらいのご飯も完食しても
まだ食べられる感じだったので…
地下鉄で自宅に帰る前に、
牛丼チェーンに入ることにした。
意外に客が入っていない。
確か、バックパッカーにも人気があり、
繁盛しているという話を以前きいたことがあったので、
なんだか不思議な感じだった。
タブレットで注文する方式にかわっていたので、
少しユキオは手間取ったが、
アタマ増しにして注文した。
牛丼を食べるのは実に久しぶりであった。
客はユキオだけだったので、
すぐに出てきた。
顔がにっこりする。
食べ物が大好きなのだ。
しかし…ほどなく、ユキオの顔は曇った。
「これ…アタマ増しを頼んだのに…」
店員にどんぶりをもって確認しに行く。
明らかに顔が怒っていたのだろう…
店員が身構えた表情で対応した。
くだらないので詳細は書かないが…
ユキオはアタマ増しなのに少なすぎる異議を唱えたところ、
秤で計測していますと言われたのである。
「これはまだ手をつけていないので、
もう一度ははかってください。
●●家の決まりの重さはいくらですか?
その重さかどうかを確認させてください」
結果は…断られただけだった。
不満なら、お金を返しますといわれると思っていたが、
そのままであった。
納得いかないが…
頑なな店員の前に、
そこまでおなかが減っていないこともあったのか、
ユキオは引き下がってそのまま食べきった。
味はおいしいが…
昔たべた牛丼は並盛でももう少し量があった気がする。
いったい、この店はどうなってしまったのか…
昔のユキオならば、
抗議の意味で何も食べないでそのまま出て行ったところだったが、
さすがに還暦すぎてまでそんなことをすることは
はばかられた。
言いたいことは伝えたし…
食べるだけは食べた。
もう二度とこの店はこないだろうなあ、
残念な思いで、
店を出た。
一人の社宅に戻ったユキオは、
買ってきた野菜などを冷蔵庫に入れて
シャワーだけ浴びて、
すぐに寝た。
明日は日曜日だ。
ノープランで寝たいだけ寝よう。
その夜は、普段の日課のストレッチなどもせずに寝た。
疲れがたまっていたのか…
一度目が覚めたときの時間は
夜中の3時であった。
食べたいものも食べたあとだったので、
ストレスも軽くなっていた。
トイレにいったあと…
またユキオは心地よい状態で、
眠りに入った。
夢が始まった…
明晰夢といわれる夢を、
ユキオはしょっちゅう見ていた。
今夜もそいつが始まった。
明晰夢の特徴は、
自分が眠っていることのはっきりした自覚があることだ。
そして、夢も非常にクリアな映像で…
起きるとなぜかその色彩を忘れがちだが、
見ているときはもちろん鮮やかな色が見える。
ユキオはこの明晰夢をある意味、
とてもたのしみにして生きていた。
現実の経験は、
限られた範囲の中でのストーリーしかないが、
明晰夢は毎回ことなるストーリーが多いからだ。
多いからだというのは、
実際には同じパターンの明晰夢が繰り返されることもあるからだが、
現実よりはいろいろなストーリーを体験できるからユキオにはたのしかったのだ。
ユキオは、夢の中でその世界に没頭しようとした。
懐かしいような情景が出てきた。
どうやら、これはユキオが育った故郷の細い山道なのかもしれない。
急な坂を上り切ったとき、
杖をもった老人がこちらを見ていることに気づいた。
「ああ、お久しぶりです」
ユキオは自然にそんな言葉を発していた。
「ユキオくん。元気か?…いつものところに行こうか」
「ええ、お願いします」
ユキオは老人とともに空中に浮かんだと同時に
広々とした山地を見下ろすように
空を移動していた。
夢を見ているユキオは、
登場人物中のユキオと同一人物なのだが
ただ眺めているような感じでもあった。
ただ、わかることは
ユキオはこの老人のことを懐かしい人だと
感じていることであった。
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