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とーます模話食べ物シリーズ:忘れえぬ外食記2「三州屋①」

銀座にある三州屋に何回か通ったことがある。

2丁目で働いていて、
給料日の後には「選びに選んだ末に」行く、
何店かのひとつに、三州屋はあった。

収入が高いわけでもなかったので…
給料日の後に、普段の外食では行かない店にいくことで、
モチベーションを保っていた頃だ。

予算は1500円から2000円。
実際はせいぜい1000円ちょい。
それでも、40代前半の自分には…
ぜいたくな外食であった。

銀座には当時、好きな店がいくつかあって…
普段づかいにはチョウシ屋のコロッケかハムカツかメンチカツを
食パンで。コッペパンもあったが、やはり私は食パン派であった。

いまは結構高くなってしまったようだが、
当時は240円くらいでコロッケサンドが買えたと思う。
それを480円分くらい買っていたかもしれない…

あとたのしみはジャポネという炒めスパゲティの店だった。
ジャリコという名品があって…大盛りで食べていた。
それでも500~600円くらいだったか?
カレーがかかったものもおいしかった。
粉チーズがかけ放題で、
とてもたのしみにしていたが…
仕事の休憩の関係上、行列に並ぶのはなかなか難しく…
途中で会社に戻ることもあったくらい…長蛇の列は有名だった。


給料日の後のちょっとぜいたくな食事で使っていた店をいくつか挙げると、

三州屋、
大和、
天龍、
近為あたりだったろうか…

スイスやカイヴァルにも一度行ったくらいか…
穴のあくほどガイド本を読んでは、
あやしいほど店の前にたたずんでは入らない…
そんなことを繰り返して…
結局はいつもいくところはおんなじ
というパターンであった。


三州屋は飯田橋にもあって…
どちらもぜいたくな食事のときに利用したことがある。

庶民的な店といわれているが、自分には高級な店に入る。
ときどきいく三州屋は、とてもたのしみであった。

三州屋は、名前からすると
「三河」であって、
愛知県の東部の旧国名である。

同店の食べ物もおそらく三河に根差した料理ではないか…
そう思わせる味である。

遠州出身の私には、同店の味はなじみがあり、
とてもわくわくする。
三州屋の好きなところは、
ごはんがおいしく、味噌汁が「赤だし」。
漬物もついていておいしい。

私は…ごはん、味噌汁、漬物がおいしければ、
あとはなんでもいいという気分になるたちだ。

おまけに出てくる魚の煮つけや照り焼きが…
これまた自分好みの味でおいしい。

三河は徳川家康の出身地で…
江戸に移った際には、当然三河や遠州から、
要するに、地元から江戸に移った人々は少なくなかったと思う。

東京の味は、おもに関東圏の味のまじりあったものかもしれないが…
三河、遠州の影響は当然あったと思う。

遠州にいたとき…「赤だし」はお祝いなどで飲む、
ちょっと高級な味噌汁であった。
いまでも、遠州のちょっといい和食店では
赤だしを出すところも少なくないと思う。

私の記憶でも、とんかつ屋のある店では赤だしに
しじみだとかが出てくることがあった。


いまだに、赤だしが出るとうれしい。
ごちそうだと感じるし、
酸味のあるあの味を恋しくなるときもある。


関西に住んでいた時に…東京出張をする同僚や上司に
三州屋をすすめたことがある。
何度か足を運んだ関西人も、
すべてが好みとは言わなかったものの、
煮魚をおいしいと言っていたと思う。


関西と関東、大阪と東京の比較を、
「美味しんぼ」では、誇張して作品化されていたが、
あんな極端な人間は、いまやどちらにもいないかもしれない。

関西に住んで、食べ物を通じて、関西がなんとなくわかった気になった。
それは、沖縄に住んで、沖縄の食べ物を食べて、沖縄がなんとなくわかった気になったことと同じで…それは福岡でもおなじだった。

遠州から東京にでたときも同じだった。

人間は、その土地の食べ物を食べて、その味をからだに体験として記憶したときに、なんとなくその土地のことがわかる気になるような気がしている。

幸い、遠州出の私は、どの土地にも大好物があり、
その土地特有の食べ物で大好きで欠かせないものがある。

三州屋を東京以外に住んでいるひとにすすめるのは、
三州屋を通じて、東京の文化的な背景を感じ取れたらいいなあ…
などとおせっかいだが、そう思っているからだ。

関西のひとでも三州屋の味をおいしいって思えたらいいなあ…
本気でそう思っている。

私が…沖縄でグスミチやチマグーをユニオンやかねひでで特売で買って、
沖縄の調味料で食べたり、花ぐすくのーまんじゅうを久茂地りうぼうであらそうように買ったり、チューリップのランチョンミートの特売を箱買いしたりした頃、なんとなく沖縄のことが体に入ってきたような気になった。
福岡で長なすの安いのを遠くまで買いにいったり、かしわめしやがめにやおきゅーとやごまさばなんかを食べて、ウエストのうどんに丸天にごぼてんを普通にたべるようになった頃に福岡のことがなんとなく体で感じられたように…
神戸でぼっかけ焼きそばをオリバーソースのどろを大量にかけて食べたり、
大阪第1ビルから第4ビルまで隅々を歩きながら、結局駅前の花だこでたこ焼き食べて、立ち食い寿司を食べて帰ったり、玉出の総菜にゴゼンの惣菜半額を大量に買ったり、一銭洋食が元々は東京で始まったと知って一度は食べてみようといつも思いながら…天満宮の帰りは結局中村屋のコロッケを並んで買った。そんなことをするうちに…なんとなく関西が少し体で感じられるようになったように…人と会話をするだけでなく、その土地の食べ物は、その土地のひとに近づけるような気になる…自分はいつもそう思っている。

その土地の名物の食べ物だけでなく…その土地で売られて、
ずっと食べられているものを食べることは…
普通に食べられているものほど、
重要な情報だと思っている。