入学式と日本タンポポ

 この春、植物を愛する人たちは”マ・キ・ノ”という3文字に沸いています。
かくいう、わが父も朝の連ドラを楽しみにしている一人です。私も学生時代に野外実習では、「誰か、牧野持ってきてねー!」と先生から言われ、じゃんけんに熱が入った覚えがあります。その頃にはきれいな写真掲載の図鑑になった牧野先生の本はとても素晴らしいワクワクが詰まっておりましたが、やはり本、重たい。今はアプリがありますものね。
私たちが日常目にする植物のほとんどは、学名に“マキノ”か”リンネ”が絡んでいます。(”リンネ”の場合は、シーボルト先生が日本にいた時代に、よく出来たリンネ先生の弟子が日本で新種をたくさん見付けて、リンネ先生に報告したのが由来です。)
 これまで、私にとって図鑑の中の文字でしかなかった”マキノ”の文字に、一人の人間の像が結びつくことはなかったので、この春の番組宣伝は新鮮にことのほか新鮮に映りました。

 そして、悟りました。

 どこの植物学者も同じ穴のムジナなのだな・・・。
結構なため息です。

 そんな春、うちの子が小学生になりました。ジジはしきりに孫の学校のことを気にかけてくれます。そんな姿を見ていると、忘れていた記憶が蘇りました。

私の小学校入学式の思い出。
 なんと私、入学式をサボっております。

 確か、小学校の体育館についたのは、新入生退場のタイミングだった気がします。みんなが行列して体育館から出てくるのを入り口で拍手で迎えました。担任の先生の慌てふためいた表情に、何も知らない私はとても不思議に思ったのを覚えております。

 理由はもちろんおジジです。中学校教員だった母はその日、新任中学校の入学式に行っており、私の当番は父親。父が入学式についてくる話を聞いた時から私は半ばあきらめの境地にありましたので、後で入学式がどうのこうのと大人たちが話しているのを聞いても大きく動揺することはありませんでしたが、この春になり我がことを思い出すにつけ、大人たちの嘆きと落胆は十分理解できる母親に育ちました。

 さて、うちのリトルマキノはその朝、私を連れて引っ越したばかりのアパートからのんびりと車で出発いたしました。地図を見ながらでしたが、彼のランドマークは建物ではなく、大きな木と山なみでありますので地図には反映されません。口の中でひとり呟くのは曲がり角にある銀行や郵便局の名前ではなく、旧家の松や枝垂桜のすばらしさばかりです。枝垂桜の樹形を見たいがために余計なところで曲がったりするため、私もすぐに現在地を見失ってしまいました。やっとのことでたどり着いても、小学校には駐車場がありませんので、車を止めるところをグルグルと探し回ります。そんな折、校庭横の側溝にタンポポの群生がありました。「見ろ!あんなところにあんなふうに咲いているのは、もしかしたら・・・。」と車を路肩に停め、一人で車を降りてしまった父。え、私、ここで一人にされるの????
一応言いましたよ、私も。「お父さん、今日は遅刻しないように、ってお母さんが言ってたよ。もう行かなくちゃダメなんじゃないの?」


 しばらくして、本当にしばらくして、タンポポから帰ってきたリトルマキノは答えました。
「行きたいけど行かれないんだ!どこに車を止めるんだっ!それに、あれはすごいものなんだよ。後ろからカメラ取ってくれ!」
で、その日のフィルムは全てタンポポが映ることとなりました。

 後になって母は私に問いました。なぜ父をしっかり連れて行かなかったのか!?と。
その時は、とても申し訳なく自分の不甲斐なさを反省したのですが。いやいや、それ、その発言、おかしくね?どっちが保護者だよ。

  自分のことは自分で、という教育方針のもと、自分のことの中には親の付き添いもしっかり管理、は我が家の当たり前でありました。
うちの子にも頼もうっと。

 いろんな一年生の皆さん。おめでとうございます。
たくさん色んな面白い体験をしてくださいね。面白ネタは普通と違うところから始まります。


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