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[英國行事]春の訪れメイ・モーニング

 4月1日にこの街にやってきたときは、水仙、ブルーベル、チューリップといった春の儚いお花たちがいっせいに咲き誇り、その重厚な街並みと落ち着いた雰囲気を一目で気に入ってしまいました。それから1ヶ月。お花はライラックや藤へとバトンを渡したものの(ブルーベルはずっと咲いています)、「4月も3月みたいなもの」と聞いていたとおり、まだまだ冬コートが必要な肌寒さがつづいています。そして迎えた5月1日。特別なお祭りのために早起きをする日です。


May Morningとは

 5月1日といえばメーデーですが、ここオックスフォードでは「メイ・モーニング」をお祝いします。500年前からつづくこの伝統。早朝6時。街の中心にあるモードリン・カレッジ(Magdalenと書いて「マグダレン」ではなく「モードリン」と読む)の塔のうえで、聖歌隊がラテン語で歌い、街のために祈りを捧げます。その後、街のあちこちでバンドの演奏やモリス・ダンスと呼ばれる伝統的なダンスが踊られ、人々は三三五五それぞれの家へ、寮へと帰っていく。

オックスフォードの夜明けは早い

 聖歌隊の歌がはじまるのは朝6時。街の中心にあるハイ・ストリートはふだんはバスが行き交う大通りで、観光客もたくさん。けれど今日はここが歩行者天国になって、みんな空高くを見上げ歌に聞き入るそうです。調べると朝5:30ごろから人が集まり出すとのこと。

 さいわい、わたしは街の中心までバスで10分弱のところに住んでいます。ただ、逆に言うとバスがないと歩くのはちょっと大変。朝5時代のバスはだいたい30分に1本のようで、余裕を持って朝4:30に起き、5時ごろフラットを出発。こんなに早起きしたのははじめてですが、意外ともうお外は薄明るい。月も見えるけれど、ウールのコートにマフラーで厚着をしたわりにはそれほど寒くありません。「春、来るんだな」という気配をさっそく味わいます。

5月1日の日の出は5:35。夜も20:30ごろまで明るいです


 バス停には小さい子どもを連れた家族連れが(早起きがんばったんだね)。こんなに朝早いのに通りを街の中心に向けて自転車が何台も疾走していきます。うん、今日で間違いありません。やや遅れてやってきたバスも満員ではありましたが、意外とふだんとそれほど変わらずスムーズに到着しました。降車時、ついついいつもより大きな声でthank youと運転手さんに伝えてしまいます。

人で埋まっていく大通り

 トリニティ・カレッジ、ボドリアン図書館……日中は賑わうあたりも、この時間は観光客らしき人の姿はありません。その代わり、オックスフォード大学生や地元の人々が足早にモードリンを目指す。「ため息橋」を抜けて、クィーンズ・レーンを進むと、ハイストリートに出ます。通りは大きなトラック3台を横向きに停めて大胆に閉鎖され、歩行者天国に。

 5:30ごろに着くと、まだそこまで人でごった返しているという感じではありません。春のお祭りなので、ライラックやアイビーで作った花冠をかぶったり、帽子に花をあしらったり、イギリスらしく手編みのお花帽子をかぶっている人も。お花のくたっとした様子から察するに、昨晩からパブなどで飲んで徹夜明けという人も多そう。

早朝に響き渡る澄んだ歌声

歌がはじまるのを今か今かと待つ人々

 1509年に完成した高さ44メートルの塔の上を見ると、こちらに手を振っている人たちが。群衆もめいっぱい手を振り返します。そして6:00の鐘と同時にあたりは静まり返り、聖歌隊の歌が始まります。少年たちの高音を、カレッジ生の低音が支える「Hymnus Eucharisticus」(聖体讃歌)。そして街に祈りが捧げられたあとは、「Now Is the Month of Maying」という春の訪れを祝うバレット(ballett)という声楽曲も歌われます。マイクとスピーカーで中継されるので、どこにいてもよく聞こえます。カレッジの寮で寝ぼけまなこで聴いている学生もいるかもしれません。そして拍手。

 かつてはこの先のモードリン橋から学生がチャーウェル川に飛び込んだりもしたそうですが、怪我人が出たりしていまはそういう流れはありません。テンション高めに話す学生たちはいるにはいましたが、大混雑のなかでも混乱はなく、粛々とみんな来た道を戻っていきます。そのなかには、民族衣装の人々や、緑の葉っぱで覆われた「ジャック・イン・ザ・グリーン」という、愛知万博のモリゾー、キッコロみたいな人(人?)も。そしてラドクリフ・カメラ前など街のあちこちで「モリス・ダンス」と言われる伝統的なダンスやバンドの演奏などのパフォーマンスが始まっていきます。

ジャック・イン・ザ・グリーンと民族衣装の人々

 スコットランドの伝統的なタータンを着た人たちがバクパイプにあわせて男女が次々と組み合わせを変えて踊るカントリー・ダンスや、アイルランドなのか緑一色でビールを飲みながらパフォーマンスする集団など、イギリス各地の伝統文化をゆるっと見られるのもよいところ(下は当日のタイムライン)。

 実はモードレン・カレッジの向かいには、イギリス最古の植物園オックスフォード・ボタニック・ガーデンがあります。事前にチケットを買うと、ここで焼きたてのクロワッサンやホットチョコレート片手に、優雅に歌に聞き入ることができたとか。引っ越してすぐ年間パスポートを買ったのに、うっかりしていて予約終了していました(会員は20£、一般は25£)。

 ただ、カフェやサンドイッチスタンドが早朝から空いていますし、セント・オールデーツ教会では無料のコーヒーとベーコン(どういう状態?)が振舞われているとか。わたしも1時間弱ほど見て周り、コーヒースタンド(ミニマムでモダンな店内がかっこいいNew Ground Coffee)で苦〜いフラットホワイトと甘酸っぱ〜いルバーブのペイストリーで目を覚まして家路につきました。

 BBCの記事によると、今年の人出は14,000人ほどだったとか。いよいよオックスフォードにも春がやってきました。

今日のひとこと

5月1日といえばフランスでは「ミュゲの日」。カバード・マーケットの花屋さんに行ってみたら根っこ付きのすずらんが売られていました(1つ3£)。とっさに英語がでてこなかったけど(lily of the valley!)こちらも買って帰りました。

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