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映画感想文

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もともとfilmarksに書いていたものです
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松居大悟「ちょっと思い出しただけ」

松居大悟「ちょっと思い出しただけ」

 ちょっとじゃなく、めちゃくちゃ思い出してしまう時もあるよね、という人生讃歌だった。人を思い出すこと、人に思い出されることの愛しさを抱きしめたい。

 "花束“を観た時からの自分の変化を観測できた。時間はあまりにも無情だな、と乾いた笑いが出た。笑いでもしなければ、孤独さに立ち尽くしてしまいそうだった。でも観終えた時、むしろいろいろな繋がりが胸の中に満ちてきて、花束の時とは違う涙が込み上げてきた。

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樋口真嗣「シン・ウルトラマン」

樋口真嗣「シン・ウルトラマン」

 メフィラスの地球人への態度は、植民地時代の先住民に対する帝国主義者のようだった。
 にも関わらず、連発された「(日本で人口に膾炙した様々な名言)、私の好きな言葉です。」が作中でも好意的に捉えられ、現実世界でも「メフィラス構文」として人気が出たことを、恐ろしい現象だと思う。

 メフィラスは現地の文化をなぞることで親しみを感じさせる人心掌握術を用いているに過ぎない。そこに敬意は感じられず、文化の盗

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竹林亮「14歳の栞」

竹林亮「14歳の栞」

 14歳だった自分が閉じ込めていた色んなやわらかい感情が、スクリーンに現れた。
 見せてもらっていいの?というためらいすら感じた。今作が実現できたこと自体が希望だ。

 作中で映された谷川俊太郎の
「あなたは愛される 愛されることから逃れられない」
この言葉が今作の見方としてあると思った。

 人は他人と関わらずに生きることはできず、誰かを愛さずには生きられない(恋愛的な狭義の愛ではない)。
 し

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濱口竜介「ドライブ・マイ・カー」

濱口竜介「ドライブ・マイ・カー」

 雪上でのハグでは言葉の可能性と限界を、つまり「雄弁は銀、沈黙は金」を見せつけられた。
 感情を伝える、という一見シンプルな行為の、なんと難しいことか。

 西島秀俊は言葉で伝えようとする人間だった。だが妻への愛してるという言葉にはどこか虚な響きがあった。愛しているのは本音であるが、浮気を黙殺しているという影が滲みでていたからだろう。職業柄、感情を表現する言葉や技術自体には何も問題がないが、心を押

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