見出し画像

日記:20230303

前の職場で仲の良かった女の子たちと電車に乗っている。土曜午前の丸の内線はガラガラで、シートに寝そべっている人もいる。だんだん電車が混んできて、白いヘルメットをかぶった高齢男性が3人乗り込んでくる。女友達の一人が、高齢男性に気に入られてべたべた体を触られているので、隣の車両に連れて逃げる、という夢から覚めて起床。


くしゃみとオナラが同時に出た。体がまっぷたつに裂けたかと思った。


パク・ミンギュ「三美スーパースターズ最後のファンクラブ」
を読む。
とても良い小説だった。少年期を回想する第一部、ほろ苦い青春小説の第二部、青春が過ぎた後の挫折と回復を描いた第三部、それぞれが瑞々しく読み応えがある。

弱小プロ野球チームとB級悪役プロレスラーは、どうしてこんなに琴線に触れてくるのだろうか。終盤、日本人の藤本氏が広島カープの思い出を語る場面で、自然と涙が出た。

自分もプロ野球記録となる1試合19三振を奪われたり、主力選手を不誠実に扱い他球団に放出したり、代打逆転サヨナラ満塁優勝決定ホームランを記録したりしながら、プロ野球団の中で唯一、日本シリーズで勝利することがないまま消滅した近鉄バファローズのファンで、その後、合併球団の余り者を寄せ集めて新規参入し、記念すべき第1戦で岩隈久志の好投で見事に勝利しながら、次の試合で26-0というNPB史上最大得点差試合で1安打完封負けを喫しながら、震災を経た2013年には田中将大の24勝0敗という神が勝った活躍で日本一になったものの、その後はオーナーの現場介入で金をかけて補強している割には優勝から縁遠い東北楽天ゴールデンイーグルスのファンなので、主人公の気持ちは痛いほどわかる。

序盤の饒舌体が好き嫌い分かれるところで、特に野球に興味ない人はそこで離れてしまいそうな気もするけれど、二部の息苦しいほどの濃密さ、三部の清々しさは一読の価値がある。
とりわけ比喩表現がものすごく的確で、主人公の内面的な動きが我が事のように伝わってくる。デビュー作でこの描写力はすごい。

僕がやるべきことはーーー彼女がドアを閉めて思いきり泣いたり、思いきりおしっこしたり、いつゲロを吐いてもいい清潔なトイレになってあげること。たとえ便器のデザインやインテリアがダサくはあっても、決してついたてで二個に仕切ってあったり、大勢が共用で使ったりするのではない、広い、誰もいない、常に清潔な彼女ひとりのためのトイレ。

すごく小さいとき僕は墨を塗った紙を虫めがねで焼いて遊んだことがあったが、解雇の辛さはあの感じに似ていた。つまり、胸の真ん中が熱くなり、焼けるのだ。墨が焦げる匂い。全体的な熱さではなく、焦点がはっきりした熱さ。そしてその熱気が広がっていく。墨が激しく燃え、煙が上がり、穴があく、大きくあく。胸、または心みたいなところにあく。灰になる。道を歩いているといつも、そんな虫めがねが上空三メートルぐらいのところで僕を追いかけてくるような感じ、そういうことだ。

思い返せば過ぎた五年間、僕が売ったものは自分の能力ではなかった。それは僕の時間、僕の人生だったのだ。

考えてみれば、人生のすべての日は休日だった。

それとあとがきに記されていた「生まれたときには作家ではなかったが、死ぬまでは作家でいることにした」という言葉がとても印象に残る。過去の自分を救済しながら、未来への意志を感じる言葉。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?