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日記:20231026〜エリック・マコーマック「ミステリウム」〜

【ネタバレを含む感想です】

 むかし読んだ時はよく分かんなかった小説を読み直してみようシリーズ。
エリック・マコーマック『ミステリウム』を約10年ぶりに再読。

 短編集『隠し部屋を査察して』1冊で世界一大好きな作家になったマコーマック。『ミステリウム』が出た時は待望の新刊でものすごく期待しながら読んだのだけど、ぜんぜんピンとこなくて落胆した。
 読み返してみると、メタ・フィクショナルで魅惑的な導入から一気に心を掴まれた。こんな面白い小説に、なんで10年前の自分はピンとこなかったんだ。
 
 たしかにキャリックで奇病に犯された人々が、言葉を逆さまに話し出したり、異常なほどの大声になったり、感情が目まぐるしく変わったりしながら、とめどなく喋り続け、喋る言葉がなくなった時に死ぬというモチーフは、マコーマックの短編に見られる奇想と比べるとややおとなしく感じないでもない。
 とはいえ、町の記念碑や墓地、図書館の本が子供じみた侮辱的な破壊を受けるという事件に漂う無意味な暴力の薄気味悪さや、キャリックの住人たちが口々に語り手に話す内容と、それを臆面もなく語り続ける住人たちの態度の異常さが醸し出す不気味さには、マコーマックならではの気持ち悪さがある。

 作中で唐突に挟まれるブレア長官の犯罪理論が、文学論のパロディになっていたり、いかにもポスト・モダニズムっぽい仕掛けが凝らされているけど、語り手であるマックスウェルと、「事件」の中心人物であり手記の書き手であるエーケンがよく似た風貌だったという点に、小説と作者の関係性が仄めかされているように感じた。
 「解くべき謎を提供することに関心のある犯罪者」が、本書の語り手とそっくりであることは、この小説の書き手こそ読者に謎を提供する犯罪者自身であることを示しているのではないか。

 積み重ねられた謎を追い求めた結果、もともと事件は何も起きていなかったという結論に至る構成は、『鵼の碑』をはるかに早く先取りしていたようにも思った。
 
 
 


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