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楽しくて、ただそれだけで。

 上京して3年経った頃、ふとそういや実家に一度も帰ってないことを思い出した。忌避の念があったわけではなく、今思い出してびっくりする程度には今の生活が楽しすぎた。
「明日地元帰るんだけどなんか食べたいもんある?」
 チャットグループの友人たちはここぞとばかりに反応してきた。

「急」
「どこだっけ実家」
「え、生まれ都内じゃないの?」
「こわ」
「そういや家族の話聞いたことねぇ」
「人から生まれた? ちゃんと」
「茎があるとこを地元って呼んでる?」
(メッセージの送信を取り消しました)
「タンポポなん?」
「じゃあ近所じゃねぇか」
「千葉なの?」
「なんでピーナッツ消したの」
「なぁんでお前だけ知ってんだ」
「家族構成を教えろ」
「じゃあお前めっちゃいるってこと?」
「え、お前めっちゃいるじゃん」
「今こいつのどの話してんの」
「文字でハモんな」
「ハモの定義をさぁ」
「じゃあピーナッツで」
「ピーナツな」
「ナッツかナツかはどうでもいいんだよ」
「あーもーピルクル落とした」
「沿岸部に生息する大型肉食魚で、京料理に欠かせない食材として扱われる。生鮮魚介類として流通する際には近縁種のスズハモ M. bagio (Hamilton, 1822) も一般に「ハモ」と称されており区別されていない[1]。」
「いやハモのwiki」
「てか下手人は」
「送んな」
「地元帰ろうとすると下手人扱いなん?」
「みんな仲良く牢獄や」
「ピルクル無事?」
「ノー無事」
「床が下痢しろ」
「罵倒? 罵倒だろうけど」
「全部飲んだ」
「ピルクルを?」
「言葉を」
「なんだこいつ」
               「じゃあネギで」
「待て待て待て」
「葱も有名なの?」
              「楽しみにしとけ」
「急だって」
「せめてピーナツ」
「譲り始めちゃったよ」
「可哀想だとおもわんか?」
「黙っちゃった」
「ネギにそんな自信あったのかよ」
「じゃあネギでいいよ」
              「じゃあネギ、ね」
「一丁前に傷ついてんじゃねぇぞ」
「聞いてきたのそっちだろうが」
「どっちきても最悪食えるように鍋の用意しとこう」
「で結局千葉なん」
                  「ばーか」
「言うこと欠いてそれかよ」
「友達か? こいつ」
「また友達から始めようよ」
「優しさだよこれは」
「次何言ってもこれから友達になるんだからな」
「前向きじゃん」
「今知り合いなんだよ」
「こんな向上心あふれる知り合い嬉しいわ」
「よろしく」
「よろしく」
「ピーナツをよろしく」
「ピーナツによろしく」
「ケンシロウ?」
「は?」
「は?」
「ブラックジャックだろそこは」



 賑やかなせいで充電が残りわずかになったのを確認し、電車を降りる。
 3年ぶりに降り立つ地元は、なんか平らになっていた。

「急に帰ってくるもんだからびっくりしたよ」
 母は息子の帰省を驚いたのも束の間、流れるような仕草でコーラと素麺を出してきた。
「風強かったでしょ」
「そうね。桜散るね」
 春先の素麺......。美味しいけど......。
 まだふた口ほどしか食べてない皿に、素麺が足される。
「2時間ぐらいだっけ? こっちまで」
「あぁうん」
 そういえば一人暮らししてから氷でキンキンになったコーラをあんま飲んでない気がする。これはなんというか、美味いけど、全体的に夏だな。
「全体的に夏じゃない? 美味しいけど」
「しょうがないよ、近くにあったんだから」
「春まで近くに素麺が......?」
 わんこそばよろしく追加されそうになる素麺を爆速で吸い上げて散歩に出ようとすると。
「なに、誰かと約束でもしてるの?」
「いや、ネギ買いに来た」
「あ、そ」
 一応ボケたんだけど......。
 久々に会う母は、昨日ぶりみたいな感じで「行ってらっしゃい」と言ってきた。
「行ってきまーす」

 マジで誰とも約束せず、ただ地元に現れてしまった。
 小学校までの通学路をなぞりながら、無言で歩き続ける。
 帰る時に落花生パイを買うことに決めた。
 数分歩くと公園に差し掛かる。下校中に寄り道したり、休日に何となく集まった友達とよく遊んだ公園。
 見ると遊具の数が減っていて、というか一旦ゼロになった後に足されたみたいだ。知らん遊具がある。

 公園に入ると、よく言われるアレに陥った。
「こんな狭かったか、ここ」
 見回すと、当時の記憶と共に数歩で端から端へ行けるイメージが脳裏を飛び交う。
「小動物だったのか......?」
 んなわけないが。

「物珍しそうに見るじゃん。新参?」

 急に掛かってきた声に思わずビクつく。
「何、見られたくなかった? ごめんごめぇん」
 そこに居たのは、1人の女。
 近所のコンビニの袋を手から提げ、突っ立っている。
「どうも」
「どうも、観光?」
「え、いや」
「なわけないよね〜」
 そう言いながら女はベンチに座り、袋から唐揚げが数個突き刺さった串を取り出した。
「ここの人?」
「三年前まで住んでましたけど」
 けど、のせいで不貞腐れて聞こえただろうか。
「あ〜上京組。じゃあハタチかそこらでしょ」
「まぁ、はい」
「んじゃアレだ、小学校だとヒマリと同級生だ」
 女の口角が上がる。見たところ年上のその風体は、楽しげなその口によって少しだけ若く変化する。
 ヒマリ。確か同級生に居たような......。
「あ、そこの団地に住んでる......ヒマリのこと知ってんですか」
「知ってるも何も、お隣さんだもん。よく遊んだよ」
 いつのまにか食べ尽くされた唐揚げ串を軽やかに振り、女は続けた。
「久しぶり、覚えてる〜?」
 唐突な挨拶に困惑した。こんな漫画に出てくるような女と交流した記憶......。
「......あ」

 小学生の頃、休日によく遊ぶ仲間が3グループぐらいあった俺は、常にこの公園に居て誰かしらと遭遇しては遊んでいた。
「王かもしれない......」
 今となっては何がどうして王なのかはわからないが、そんなことを時折呟きながら友達を待つ時間はとても楽しかった。
 ただその日は昼を過ぎても誰も来なくて、まぁそんな日もあるかと思いつつ心の中では(全員絶交だ)とか悪態を吐いていたところ、そこに1人の女がやってきた。

「なに、1人で遊んでんの? 器用だなぁ」
 女は近所のコンビニの袋を手から提げ、ニヤニヤとしていた。
「あんたこそ1人じゃん」
 クソガキ。でも事実そう言った。"1人"って単語で相手が喰らうと思って。
「そうかなぁ、今は2人じゃーん」
 そう言いながら女はベンチに座り、袋から唐揚げが数個突き刺さった串を取り出した。
「あ、食べる?」
 一瞬でひとつだけ無くなった唐揚げ串が、まっすぐこっちを向いている。
「......食べるけど」
「あげないけど」
 笑いながら女は、残りの唐揚げを瞬く間に食べ尽くした。
「なんなの!?」
「なんなんだろうね〜」
 徐々に募ってきたイライラが、幼い俺の語気を強めさせる。
「ねぇ帰ってよ!」
「なんでよ、ここはみんなの公園じゃん」
「そうだけど、あんたは違うもん」
「どう違う?」
 今まで教室内ではもっとわかりやすい屁理屈が蔓延していたから、こう、手玉に取られた問答には不慣れな俺は、そこで閉口してしまった。
「ごめんごめぇん、意地悪、は......するつもりだったけどいじめたいわけじゃないんだよ」
「何言ってるかわかんない......」
 女に泣かされるという、少ない常識と時代遅れのプライドが、辛うじて涙腺を閉じ続けていた。
 今思えば自分の精一杯の攻撃が全く効いてないことと、唐揚げを食べられたかもしれない希望の撃沈で、わけわかんないほどズタズタではあった。
「ねぇ、友達になって欲しい子が居るんだけど」
 唐突な言葉に面食らう事なく俺は返す。
「いや、あんた友達じゃないよ」
「あたしじゃなくて、お隣の子」
 どうだこれが返す刀だ参ったか! としたり顔でいたら普通にこっちが話を聞けていなかった。すごくやりづらい。
 食べ尽くされた唐揚げ串を軽やかに振り、女は続けた。
「いや〜、引っ込み思案っていうか、友達作る勇気が無くてねぇ」
「誰の話」
 当時の俺は、無意識に友達を求めていた。家族仲が悪いとかそんなことは無かったから、孤高の狼的な一種の反抗みたいなものだったのだろう。
 来ない友達を頭の隅っこに置いたまま、俺は新しい友達を作ろうとした。
「ヒマリ。あんたそこの小学校通ってんでしょ。じゃあ同じとこだよ」
「ヒマリ? 誰......あ」
「え、知ってんの?」
「知らないよ、だって学校来てないじゃん」
 女が一瞬優しく微笑んだ気がした。
「正解正解。なに、4年生?」
「そうだけど」
「なぁんだ、さっさと言ってよ」
 言うタイミング無かったよ、と今なら言ってやりたい。
「ヒマリはさ、頑張り屋さんだからあんま学校行けてないの」
「頑張り屋さんは学校行くでしょ」
 今この言葉を思い出して、強く後悔している。救いがあるとすれば、それをヒマリが聞いていないということだけ。
「まー、そうかもだけど」
「ヒマリってここ来るの?」
 当時の俺はと言えば、あんな心無い言葉なんてすぐに忘れて、ヒマリそのものに興味を示し始めている。そうだ、そうだった。
「来るよ。誰も通らない、学校やってる時間に」
「なんであんたそれ知ってんの」
 女は、どうやら高校生のようだった。ブカブカした上着でわかりにくかったが、制服の上に羽織っていると、この時気付いた。
「あたしはほら、どこにいても自由っていうか」
「え、ズル。サボってんだ」
「自由だからね〜」
「じゃあ俺もサボる」
「言ってらぁ。まぁ、それが出来たらヒマリにも会えるんじゃない」
 女は確か、俺にヒマリの友達になって欲しいと言ったはず。俺はその後、それを守ることになる。
「出来るよ、絶交したし、あいつら」
「どいつらよ。い〜のかな〜、そんな簡単に絶交して」
 絶交、軽々しく言っていたがその軽さに相応しく次の日には普通に話すようになったがそれは割愛。
「とにかく、ヒマリがいるのな。覚えたから」
 俺は、明日、絶対に学校をサボってここに来ることを決めた。その英気を養うために、女の返事も聞かずチャリで公園を後にした。

 次の日、めちゃめちゃバレて先生に止められた。
 別に暴れん坊でもなかった俺が急に何をするのかと、クラスの全員が俺の様子を窺っていたことを思い出す。
「だから、サボるだけなんだよ!」
 先生に向かって堂々とそう言ったことは今でもはっきり覚えていて、それがこれによるものだというのをすっかり忘れていた。
 それから数日、まるで仲良く喧嘩するように俺は学校の脱走を画策し、その度にバレた。
 校庭の端っこに担任と2人で佇む。担任はそろそろ呆れたような顔で、いい加減俺の思惑を知りたいといった様子だった。
 怒られることを一つの勲章と感じ始めていた俺は、鼻高々になったついでに口を滑らせた。
「ヒマリがさ、今公園で遊んでるんだよ」
 一瞬、担任の顔が「?」になったのを俺は見逃さなかった。
「あのさ、クラスメイトのことぐらい覚えとけよな」
 今の俺なら、まだしたことないけど土下座できる。人生で唯一本気で謝るならと言われたら、あの時の担任と答えるだろう。
 呆気にとられた担任から逃げるようにして、俺はついに学校からの脱走に成功した。
 そもそものプランは、昼休みが始まったと同時に脱走し、昼休み中にヒマリと会い、5時間目が始まる前には学校に戻るというウルトラCだったのだが、今思えば往復だけでも昼休みの時間ギリギリだったためこの策は愚策でしかなかった。
 俺をなぜそれだけ熱中させたのかは、わからない。ただ、友達が多い自負のあった俺が、友達になってあげなくもないけど? みたいな上から目線のプライドで動いていたことは一部事実だと思う。
 で、公園に着くと、ブランコに誰かが揺られているのが見えた。
 その傍らにはあの女の姿。
 息を切らせて現れた俺を、その誰かは訝しげに、女はにこやかに眺めていた。
「遅かったね〜」
「ね、ねぇ、あの子誰?」
 流石の俺も、こんな自分の登場が人をビビらせるかもしれないということは直感的にわかった。
 わかったからといって、対処が正しかったとは思えないけれど。
「俺は、お前の友達!」
 肩はずっと上下していて、およそ冷静ではない同い年の異性を前に、その誰か、確実にヒマリである彼女は、言葉を失っていた。
 その代わりに女が言う。
「ヒマリ、初めて出来た友達、だってさ」

 その日、俺はとにかく自己紹介をして、ヒマリにも自己紹介を求めて、担任からは何も聞かされてなかったヒマリの人となりを、少しだけ知った。
 気付くと公園には母が来ていて、事態の飲み込めない俺は何故か、
「今日は迎えが来たから終わり。また来るから」
 と、あたかも予定していたかのように別れを告げた。
 母に怒られた記憶はない。何か満足げに、ただ俺に楽しかったかどうかを聞き続けてきた。
 俺はそれに素直に答えなかったけれど、思い出した今だから言える。
 楽しかったよ。

 それから定期的に俺は学校を脱走した。担任は追いかけてきたけど、でも校門まで近づくと「待ちなさい!」とか言いながら校庭の隅で立ち止まり、いつしか「行ってらっしゃい」と言うようになった。
 やっぱ担任には土下座をするべきな気がする。謝罪と恩義が同じぐらい、いや、後者の方が大きくある。

 定期的に、俺はヒマリとあの女との3人で、公園で遊んだ。クラスで流行ってるものとか、そういう話をしながら、あんま走らず、のほほんと。
 それは小学校の卒業式まで続き、いざ中学に入学すると、俺は脱走癖がぱたんと止んだ。
 部活が楽しくなってしまった。
 いや、ここであえて間違っていたかのように振る舞うのは違うな。
 部活が、その時は一番楽しかった。
 最初はもちろんヒマリに会う時間を作ろうとしたが、部活を乗せた皿が天秤を傾かせた。
 それに、距離が変わった。小学校までは走ればまぁ10分かそこらだった公園が、中学では自転車で15分ほどになった。
 加えて、授業をサボった同級生が、みんなの前でこっぴどく叱られる様を見て、
「うわぁ、授業ってサボっちゃだめなんじゃん」と思わされたのも一因だった。
 言い訳ばかりだと、今だから言える。当時の俺からすればどれもが正しくて、それにヒマリが埋もれてしまった。
 昔から俺は、目先の楽しさが更新されればほかのことなどどうでもよくなってしまう性格なのだと今更気付かされる。

 そして中学では終ぞヒマリに会うことはなく、高校も同様だった。あの女の年齢にいつのまにか追いついていたことも、とうに気にしなくなっていた。
 そのまま俺は上京し、二十歳を迎えた。そういえば成人式にも出なかった。帰るに帰れない友達が居たから成人の日を記念して朝まで飲んだんだった。
 ヒマリは、あれからどうしてる?

「変わんないね、あんたは」
 女は、あの時より確実に大人になっていたが、その悪戯めいた笑みはそのままだった。
「あんたも、って言いたいけど、気付かなかったな俺」
 そのままだったのにな。
「しゃーない。あんたあの時小4で、あたしは高2。7個違うのが10年会ってなきゃ、ねぇ?」
「ごめんって」
 ここに今、俺と、女の2人。
「元気にしてた?」
 あとひとり、いていいはず。
「見ての通りかな」
 俺の友達、女のお隣さん。
「よかったよかった」
 聞くに聞けな
「なぁ、ヒマリは?」
 聞くしかないだろ! あの時、最後の言葉すら覚えてないことを俺は謝らなきゃいけないんだから! 言い訳なんて全て心の中で終わらせて、ただ、約束すらせず消えたことを謝らなきゃいけないだろ!
「ヒマリかぁ」
 女は、ベンチに背を預け、空を仰ぐ。
 その瞬間、とても嫌な予感が俺の背中に走る。
「ちょ、ちょっと」
 その返事を、俺が聞く権利ってあるのか......?
「待たないけど。ヒマリはねぇ」
 ちょ、ちょっと待って!
「上京して、今年晴れて服飾の専門学校を卒業したってさ」
 ......。
「は?」
「今は絶賛一人暮らし中〜。あたしという姉擬きを置いて、ヒマリは元気に暮らしているよ」
「ちょちょちょ、ん、え? あ〜、あ? ん?」
 なんだ? これあれか? 肩透かし、だ。
「ちょっとちょっと、あんたまさか、ヒマリ死んだとか思ってる?」
 ねぇねぇだとかおいおいだとか言ってくる女の声は、聞こえてるけど届かない。
 なんだってんだよ、じゃあ天を仰いでたのはなんだったんだよ。
「あんたが居なくても、ヒマリは根気強く生きてたよ」
 その言葉に、喜べばいいのか悔しがればいいのかわからない。
「言っとくけど、今あんたはとっても失礼なガキですよ」
「ちょ、黙って」
「自分がいなきゃヒマリが生きてけないなんて、そんなケータイ小説みたいな話があるわけないだろうに」
「いや、性格悪いってあんた!!」
 そこには、ケタケタと大声で笑う姿があった。こいつ......俺をおちょくるためにあんな......。
 ひとしきり笑い終わって、なんなら出てきた涙まで拭ってから、俺の目を急に見てきた。
「ごめんごめん、10年見ないうちにこんなアンニュイになってるとは思わなくて。遊んじゃった」
 一息ついて、女は続ける。
「でもね、あれからヒマリ、本当に頑張ったんだよ。あんたさぁ、毎回無理やり学校から脱走してたんだって?」
「え」
「卒業式の日かな、ヒマリの小4の頃の担任が来たんだよ、ここに」
「なんで」
「あんたが教えたんでしょ、あの時間なら会えるって」
 女は続ける。
「ヒマリに会いたかったんだって。あんたがやってたように、雑談したかったんだ、って。その中で教えてくれたの。あんたの脱走について」
「なにそれぇ.....」
「で、あんた覚えてるか知らないけど、そのせいでめっちゃ服ボロボロだったじゃん」
 合点がいくとはこの事で、中学で部活に勤しんだにも関わらず母が服を買ってくれる回数が極端に減った。あぁ、結構無茶してたんだな俺。
「毎度毎度ボロボロで来るもんだから、いつしかヒマリ、あんたがいつまで着てもヘタレない服を作るんだって服飾の勉強始めたんだよ」
 そこで服飾!? え、あ、え?
「てことは、え」
 また女はにんまりと笑う。
「ヒマリは、あんたのことずーっと忘れてなかったのになぁ」
 なんだよそれぇ......。
 俺ばっかバカじゃんか。ヒマリとの時間作って、いつしかそれが楽しくなって、そのことが今のヒマリの原動力になって? わけがわからん。理路整然としすぎてる。俺がヒマリとこの女を忘れてたことだけがバグ。
「ねぇ、あんた都内の大学?」
「え、そうだけど......」
「じゃあさ、あたしがそっち出向くし、3人で会わない?」
「え、マジ? いいの?」
「いいのも何も、ヒマリはあんたに会いたがってるよ。わざわざ言わせないでよこんなこと」
 俺は、どれだけの言葉を尽くすべきだろう。
 俺のことを恨んでいてもおかしくないはずなのに、会いたいとまで思ってくれているなんて。
「友達って、すごいね〜」
「すっごいな、ほんと......」
 そうして俺は今、東京に帰る電車に揺られている。



「で?」
                    「え」
「え じゃなしに」
「その子とはどうなったんだい」
             「まだ会ってないよ」
「は?」
「は?」
「下手人がここにいたか......」
           「いや、昨日の今日だし」
「だとて!!!!」
「連絡先など!!!!!」
             「ヒマリのは無いよ」
「んっでやねん!!!!!!」
             「あいつ伝いだもん」
「その女伝いで連絡先をもらえと言ってんだが!?!?」
「こいつなんもわかってねぇな」
「「すげぇ土産話だぞ」でするオチとは思えないな」
「しかも落花生パイ買ってこないし。ネギすら」
「お前はあの素鍋の味を忘れたのか」
「素鍋💢」
「最悪ピーナツ鍋でも食おうとしてたそれを下回るかね」
           「いや、それはごめんて」
「じゃあせめて良いオチを寄越せよ」
「付き合え」
「付き合えバカ」
                 「早いだろ」
「遅いだろバカ!!!!!!!!!!!!」
「もう一回言っとけ」
「ばか!!!!!!!!!!!!!!!!」
                    「圧」
「圧も掛かるわマジで」
「んで? いつ会うの」
                   「明日」
「明日!?!?!?」
「あと一日寝かせたらこんな誹りを受けずに済んだのにお前......」
               「いやだからさ」
「なんだよ」
「事によっちゃお前画面を介してバチボコだけど」
「早く言え」
           「送り出して欲しいんだ」
「な」
「なに」
「お前はずっとなんなんだ」
「背中押せってこと?」
「俺らにかまけてたのに???」
              「良い友達として」
            「友達に会う勇気くれ」
「こいつ......」
「前乗りしろ」
「さっさといけ」
「頑張るな」
「頑張れ」
                  「頑張る」
             「また土産話するわ」
「待ってるよバカ友達」
「これ俺ら忘れられるパターンじゃねぇの」
「そしたら無理やり会いに行けばいいだろ」
「脱走しようぜ」
「自主休講なんだから楽だろ」
「追われてェ〜〜〜〜」

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