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論文「東大インカレサークルで何が起こっているのか ―「東大女子お断り」が守る格差構造-」を読んで

けい先生です。元論文は、著者である藤田優さんが東京大学教育学部在学時(2016年)に執筆した卒業論文を、2022年に加筆修正したものです。下記リンクから全文を無料で読むことができます。

東京大学において、「東大女子お断り」のサークルが問題となっている。これは東大女子の加入を禁じ、東大の男子と他大学の女子のみで構成される東大のインターカレッジサークル(以下インカレサークル)のことで、主にテニスやバドミントン、バスケットボールなどのスポーツサークルで多く見られる

 本稿では、 “なぜ東大女子は排除されなければいけないのか” という疑問を出発点とし、「東大女子お断り」を掲げるインカレサークルへのフィールドワークを通じて、インカレサークルの内部で何が起こっているのか明らかにした。調査方法としては、東大インカレサークルまたは学内サークルに所属する男女へのインタビューに加え、その中の1つのインカレテニスサークルに対する参与観察も行った。その中で、東大インカレサークルには男子優位のジェンダー秩序が存在し、「東大女子お断り」という閉鎖構造がそれを維持する二重の差別構造となっていると分かった。

 東大インカレサークルにおける二重のジェンダー差別構造は、ジェンダー意識の低さに伴う罪悪感の無さ、偏差値ヒエラルキーに基づく男子の傲慢さと他大女子の低姿勢、インカレサークルに対する東大女子の嫌悪感など様々な要素が絡み合って成立していると推察される。東京大学という、国内で大きな影響力を持つ大学のサークル活動において男子優位の非対称なジェンダー秩序が再生産されていることは非常に大きな問題であると言えよう。

「論文概要」から抜粋 太字強調はけい先生

発表当時全国紙でも取り上げられ、社会学者の上野千鶴子さんが高く評価していたものです。この度初めて論文を読みました。気になった具体例を少し挙げてみます。

  • 食事作りやお酌、練習後に行く飲食店のドアの開閉に至るまで、ご飯にまつわるもの(「ご飯系」)はすべて女子の役割

  • 東大男子だけが主要な幹部になれる

  • クイズ合戦で、東大男子から他大学女子への「バカいじり」をする

注意しておく必要があるのは、当時から東大側も対策を取っていること。また、当然ながらこれが東大生のすべてではないことです。男子学生も含め、論文執筆時から著者を応援する学生は多数いたそうです。

そもそも差別を認識していない

Bf1:うちら結構バカバカバカバカ⾔われたりするんですけど
*:バカバカ⾔われるんですか
Bf1:全然⾔われますよ、でも全然ネタで、B ⼥〜
*:これだから〜みたいな
Bf1:そうですそうです、みたいな、いや本当にみたいな感じなんですけど、悪い気はしな いんですけど

「3-3-2.バカいじり⽂化」から引用

Bf1はインカレサークルの他大学の女子学生で、「*」は論文執筆者です。「バカ」と言われる文化を、男子も女子も当たり前のこととして内面化している様子が見られます。

Df2:あはは。なんか、何て⾔ったらいいんだろう……⾃分で⾔うのもアレなんですけど、 結構、私が本当に抜けてるのもあるんですけど、そういうのもあって、なんか、この漢字分 かるとかいう質問とかされたり。あはは
*:何やってんの f の男⼦
Df2:あはは。 本当に分かんなくて。えーみたいな漢字ばっかり。なんかふとした時にやっ ぱアホだよねみたいな感じは(とにかく笑いながら)。それがやっぱり仲良くなる、うふふ
*:なるほど、漢字聞くの⾯⽩いですね
Df2:漢字というかそういう広報みたいのがあって、そこで、なんか、簡潔に⾔うとクイズ ⼤会みたいな。東⼤男⼦ 2 名、A ⼥、B ⼥、D ⼥から⼀⼈ずつ出すみたいな。⼀⼈ずつ出し て誰が⼀番⾼いかみたいな
*:へえー
Df2:うふふ、なんかもうただの⾒世物みたいな感じで。⾯⽩いですけどねでも。ふふ

「3-3-2.バカいじり⽂化」から引用

インカレサークルの他大学女子学生は、「バカ」にされることを面白いことだと認識しています。実際に、これ事例に出てきた東大インカレサークル男子は通常のふるまいとしては本当に優しく、女性に対する配慮もできているのだと思われます。藤田さんは、次のように分析しています。

男⼦による⼥⼦の「バカいじり」が受け ⼊れられるのは、⾃分達は偏差値ヒエラルキーの下にいるという他⼤⼥⼦の卑下意識と、偏差値ヒエラルキーの「⼀番」上に⽴つ東⼤男⼦への尊敬の念があるからと⾔えよう。裏を返 せば、男⼦は偏差値ヒエラルキーを利⽤して、⾃分達より偏差値序列の低い⼤学に所属する ⼥⼦を「バカいじり」していると⾔える。これは社会に出ると「頭が良い」ことで男性にい じられ、居⼼地の悪い思いをする東⼤⼥⼦(おおた 2018)とは全く状況が異なっている。 「頭のいい」男⼦と「頭の良くない」⼥⼦により構成されるインカレサークルは“男⼦より 知能で劣っている”という差別的な⼥性性を持ち上げるのに⾮常に都合が良い構造をしてい ると⾔える。

太字強調けい先生

ジェンダー秩序の再生産を防ぐ

私が印象深く感じたのは、古くさいジェンダー秩序がいまだにこの社会に根深く残っている、という事実です。

ただ、私たちは自分が差別されていても、声を上げることは中々難しいことだと思います。学校現場でも、子どもたちは色々思うところがあっても教師に面と向かって何かを言うことは、やはり少ないです。それは、彼らが「言ってもしょうがない」と思っているからだそうです。

けい先生は、現場から一時的に離れていますが、子どもたちが目の前にいたとしたら、それでも「おかしいことはおかしいと言おう」と呼びかけると思います。言わなければ何も変わりません。何も言わないでは、また古い、理不尽な秩序を再生産することになるのです。

案外、最近の教師は柔軟だと思っています。子どもたちが真っすぐ、自分に対してものを言えば、耳を傾ける教師は少なくありません。そもそも、私たち教職員は、社会の問題点を認識し、よりよく更新することができる若者たちを育てなくてはなりません。少なくとも、自分たちが受けた理不尽さを、子どもたちに繰り返すことだけは戒めたいと思います。


けい先生は全ての記事を無料で公開し続けます。