パーマ記念日

人生初の、パーマをかけた。

日曜日にやったので、まだ2日しか経っていないものの、現時点ではすごく満足しているが、自分の頭ひとつに感情のうねりが多々あったので、記録してみようと思う。

大学時代からの友人が、社会人になりオシャレにこだわるようになり、続々とパーマをかけているのを見て、「いいなー」と思っていた。
髪型で冒険をしたことがほとんどない。大学時代、なんだかむしゃくしゃしていっそ坊主にしてみようかとも思ったが未遂に終わったし、一度茶髪に挑戦したこともあるが、当時1000円カットにしか行ったことがなかった僕は美容院に行って髪を染めてもらうということが恥ずかしくてできず、市販のヘアカラーで染めた結果、なんとも中途半端な色ムラが出来、箸にも棒にもかからないような有り様になった。

それが、先日の日曜日、そろそろ髪を切るタイミングだなーとか思ったとき、突如「パーマをかける」と思ったのだ。かけたいではなく、かけるという決定事項として頭に浮かんだ。普段は神など信じていないが、天啓のような思考の発露だったと思う。

決まったからには善は急げだ。社会人になってからずっとお世話になっている美容室に向かう。そこはチェーン店のお店で、美容院特有の緊張感が少なく、予約なしでお手頃価格で切ってもらえるので通わせてもらっている。入り口の受付で、「カットとパーマで」と声にする自分の口がなんとも恥ずかしい。

洗髪が終わり、いつも切ってもらう割合が高い男性の美容師が担当となった。
「あの、初めてでパーマかけたいんですけど、どんな感じかとかあんまりイメージが湧いてなくて…」
僕がそういうと、美容師さんがカタログをペラペラとめくりながら参考となるヘアスタイルを提示してくれる。しかし、美容院のヘアカタログというのは、なんとも参考にならない。顔もファッションも、渋谷とか原宿のストリートにいますみたいなモデルしかいないので、片田舎に住むいなたい自分が顔だけ想像して当てはめてみようにも無理があるというものだ。

僕がなんとなく決めあぐねていると、
「パーマをかけるには長さが短めで選択肢はあまりないので、ざっくりどんなパーマがいいか決めましょうか、クルクルがいいか無造作な感じがいいかとか」
と提案してくれた。なるほど、2択なら分かりやすい。クルクルか無造作かと言われて、前者のクルクルと言われて僕の頭に浮かんだのはミュージカルのアニーだ。ニューヨークの孤児院で生まれた赤髪の少女になっては困る。ならば消去法で無造作ということになろう。まあ、髪型に限らず、作為的なより無造作の方が好感がもてるであろうという考えにより、「じゃあ…無造作な感じで…」とお願いした。

「かしこまりました。じゃあ軽めのツイストパーマみたいな感じでやっていきますねー」と美容師さん。「はいっ」と勢いよく返事をしたが、パーマがかけられはじめてから徐々に、「そうか…無造作な感じというのはツイストパーマのことだったのか…」と冷静に大丈夫かなと不安になり始めた。
髪型事情に疎い僕でも、ツイストパーマというのがどんな髪型なのかは、なんとなくのイメージ図が湧く。僕の頭に真っ先に浮かんだのは、往年の窪塚洋介だ。要は、池袋でダボダボの服を着てスケボー片手に闊歩してそうな髪型になるということ…?窪塚洋介とひとつの共通項も見つけられない僕が…?不安はますます募る。

そんな僕の心情とはよそに、どんどん僕が窪塚洋介に近づく行程は進められているようだ。うっかり眼鏡で来てしまったため、眼鏡を外した僕には何が行われているのか全貌がはっきり見えない。どうやら小さな紙のようなもので髪の毛が捻られ、熱いんだか冷たいんだか分からないような液体がドロドロとかけられている。

なんどかシャンプーをして液体を洗い流し、またつけてを繰り返す。時々美容師さんが僕の髪の状態を確認して、「うーん、まだ全然かかってないので、もう少し待ちましょうか」とさらに時間がおかれる。永遠かと思える時間が過ぎた後、頭から捻り紙が外され、ついに僕のパーマ姿がお披露目となった。

ドライヤーをされ、あらわになった自分の頭を見た僕の正直な感想は、「うわ…やっちまった…」である。普段直毛かつ毛量が多い僕は、美容院に来るとなるべく量を減らしてもらいスッキリさせてもらうことを目的としているのだが、それとはまるで真逆の状態になっていた。無造作というより、頭が無秩序という感じだ。窪塚洋介ならうまく扱えるのかもしれないが、残念ながら、この頭の持ち主は僕である。

「どうですか〜、だいぶイメージ変わりましたね〜」と美容師さん。確かに、イメージを変えるべくパーマをかけたいといった僕のオーダーは叶えられているので、文句を言うわけにはいかない。「確かにイメージは変わりましたねハハハ…」と引きつった顔で笑う僕の声が虚しく響いた。

最終的に、おそろしくボリューミーになった僕の髪の毛は美容師さんのスタイリングによってそれらしくなったものの、家に帰ってシャワーに浴びた途端、無秩序に逆戻りだ。明日の仕事どうしよう…。

別によっぽどの髪型でない限り就業規則にふれることのない僕の職場だが、とにかく恥ずかしい。今まで、自分の中ではきっちり爽やか路線を心がけていた僕のヘアスタイルとは全然違うこのパーマ。絶対笑われる。

ネガティブ一色になっていた僕は、一旦冷静になって、パーマをかけることにした自分自身の気持ちを問い直す。そうだ、僕は変わり映えのしない自分自身に飽きて、パーマをかけることにしたのだ。今までの路線とイメージが変わらなくてどうする。

そして、風呂上がりの今でこそ無秩序だが、パーマはセットをしてこそ完成するとネットに書いてあった。明日は10分早く起きて、髪の毛をセットしよう。そう心に決め眠りにつく。

翌朝、目が覚めた僕は、やはり鏡の前で弱気になっていた。
「パーマをかけると今までより数センチ短く見えるので、センターパートにするにはちょっと短いかもですね。」
昨日セットしてくれた美容師さんに言われた言葉を思い出しつつも、僕は慣れた前髪センター分けのヘアスタイルを直毛の時と同じように試みる。
ダメだ。前髪のニュアンスはパーマがいい感じだが、サイドやトップのボリュームがなんとも抑えられない…。しかし時間がない…。文字通り、後ろ髪を引かれつつ家を出る。

職場に着いた僕。先に出勤している同僚に挨拶をするが、いつものように目がみれない。完全に自意識過剰だ。しかし、みんな大して気にしていないというか、たまに「あれ…?」みたいな顔をする人もいるが、僕の髪型の変化に触れてくる人はごくわずかだ。まあ、他人は思うほど自分のことに興味がないとはよく言うが、本当にそういうものなのだ。

数少ない僕の髪型の変化に触れてくれた人にたいして、「そうなんですよパーマかけたんですけど自分でも見慣れなくて恥ずかしい恥ずかしい〜!」と一方的にまくし立てる僕。みんな、「イメチェンだね〜」とは言ってくれたものの、似合うとかは誰も言ってくれなかった。結局褒めてほしいんかいっ、と我ながら自分で自分がめんどくさい。

そんな中、僕の直属の上司である先輩が出勤してきた。この先輩はよくも悪くもおしゃべりなお調子者なので、僕の脳内ファーストリアクションだは、「なにじんすけ、色気づいちゃって〜モテようとしてんの?笑」とひとイジり、という流れを予想していた。
しかし、先輩は、就業時間後しばらく経ってから、「あれ…?じんすけさ…」と口火を切った。
続きを引き受けるかのように「そうなんです、パーマかけました!」と答える僕。
「え〜オシャレじゃん、いいな〜!おれもパーマかけようかな〜」と先輩。
予想外のリアクションに面食らうも、内心僕は「これだよコレコレっ!あんたよく言ってくれたよ」と先輩を大絶賛。一気に気を良くしてしまった。
その後、お姉様の女性社員に「じんすけさん朝見たときさー、あれ、いつもと違うなと思ったの、でもさ寝癖なのかイメチェンなのか判断つかなくてスルーしちゃった笑」と言われたときも、
「朝、時間がなくて…笑まだ模索中ですね〜」と笑顔で返せる余裕が出てきた。
「いいね、これから試行錯誤するの楽しみだねっ」とのポジティブな返しにますます嬉しくなった。

その日の帰宅後、シャワーを浴びた僕は昨日とはまったく真逆の気分だ。水に濡れると、よりウネウネする自分の髪を見てるだけで楽しい。ドライヤーで乾かした時に、ボリューミーになる髪の毛を見ても、ニヤニヤしてしまうほど愉快だ。

人間というのは至って単純なもので、気持ち次第でこうも上がったり下がったりするものなのか。パーマをした初日こそ、自分の見慣れなさに戸惑い恥ずかしかったものの、いつもの自虐癖で、「パーマかけたけど失敗です…もとに戻したい…」みたいなことは言わなくて本当に良かった。誰がなんと言おうが、本人が満足している様子ならばそれは失敗ではなく成功なのだ。

パーマをかけるという、小さなチャレンジでも、僕にとっては大きな出来事だった。妙に生真面目で、かしこまってしまう自分から、少しは脱皮できるのではないか、みたいな気さえしてきてしまう。だって、僕の頭は今、チリチリでウネウネなんだもの。直毛のキッチリした髪型の人が真面目に話す内容より、よっぽど話の真面目度合いは下がるはず…だ。

というわけで、7月14日は、パーマ記念日として、来年の今日覚えていたら、ケーキでも買ってささやかにお祝いでもしようかと思う。ただ、髪型を変えた日、ではなく、自分の中で大きくメンタルチェンジをした日として、記念碑的な出来事になる気がしてならないのだ。

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