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すり傷作ってこそ人生〜「哀れなるものたち」感想〜

エマ・ストーンが結構好き。
「ラ・ラ・ランド」とか「アメイジング・スパイダーマン」とかでわりと日本人にも名の知られたスターになったイメージだけど、僕は「ヘルプ〜心がつなぐストーリー〜」で初めて観た時からいい女優だなーと思っていた(と古参アピールをしてみる)。

「女王陛下のお気に入り」では、さっぱりと明るい快活なイメージを覆すような、したたかで腹黒い役を演じていて、すごく印象的だった。今回の「哀れなるものたち」は「女王陛下のお気に入り」に続いてヨルゴス・ランティモス作品。予告編を観て以来、数ヶ月めっちゃ楽しみにしてたのだ。

主人公のベラは、天才外科医ゴッドウィンが、自殺した女性の身体に、その女性が身籠っていた赤ちゃんの脳を移植して蘇らせた女性。つまり、身体は成人女性だが、中身は完全に子供。冒頭、登場するベラのあどけない表情や言動、動きはまさに幼児そのもので、ここでまずエマ・ストーンの演技力に脱帽する。

まだ社会的規範や道徳性、それらが備わっていない見た目成人女性のベラの様子はときに不気味で、異様な存在に映るが、そこはエマ・ストーンの力、ギリギリ愛らしさが勝っている。赤ちゃんがいきなり大人の身体を与えられたらこのような動きになってしまうかも、と思ってしまうようなリアル。そして、忖度、良識、そういったものに一切囚われず興味の赴くままに行動するベラの姿は、ある意味爽快でもある。

そういう、子どものような無垢な心をもった大人、みたいなキャラクターを描いた作品がなぜかスルーしてきたのが、性の目覚め。この映画では、そういった性に対する強い好奇心の発芽も何も隠さず描いていて、ベラが初めてオナニーを覚えて、強く感動するシーンは笑っちゃうけど、そりゃそうだよなぁなんて妙に納得したり。知識や良いとされるふるまいを知らないまま大人の身体を持ってしまったベラは、性に関する方向でも大暴れ。これが、この映画がR18になった理由である。

この世のすべてを見たいというベラの探究心に対して、最初は危機感を覚えるゴッドウィンだったが、最終的にベラの強靭すぎる意思に負けてからは、案外きちんと子離れしようと彼女の成長を見守る方向に。一方で、ベラの美貌と無垢さに惹かれ、彼女を外の世界に連れ出すことになるダンカンという男は、この世に蔓延る無意識に女性に対する蔑視的な態度を取る男の代表格のようなもの。もし、ベラが美しくなかったら、または男女逆だったら、このような構図が生まれていたか、ということを考えると、女性の男からの扱われ方の歪さを感じてしまう。

そんな、歪な理由で新たな生命として生まれ変わり、外の世界を知ることになるベラだが、どんな状況に陥ろうと、世界の良い面も悪い面もありのままに受け入れ、成長を人生の目的とはっきり述べる彼女の潔さ、カッコよさには痺れた。結果として、彼女は博士が危惧したように、世界の理を知り、時に傷つき、時に危険にさらされることにもなるのだけれど、どんなときでも探究心と、自分の置かれた状況を少しでも良くしようと考える彼女の成長っぷりは目を見張るものがあった。

色々小難しく書いたが、ものすごいスピードで学習し、成長するベラの旅人生そのもの。博士がベラを蘇生させた動機はかなり歪ではあったものの、自らの目の届く安全圏から外の世界へ飛び出すことを許可したのは、親の子離れそのものだと思った。そして、何よりベラは傷つくことを恐れない。失敗や絶望も、すべて経験として受け入れてどんどんアップデートしていく。生きている以上、どんどん吸収して、変化を受け入れていかなきゃ。このベラの姿勢が、とても今の僕には響いた。

あー映画の感想ってむずい。ストレートに感動や面白ポイントを伝えたいのに、色んな評論や、上手なレビューをたくさん見すぎているせいで、こねくり回して遠回りな表現になってしまう。とにかく、毒気と性描写に抵抗がなければ、ストレートに面白い作品なので、ぜひ観てみてほしい。少なくとも癖強毒まみれのヨルゴス・ランティモス作品の中では、比較的観やすい、はず。

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