見出し画像

【司法試験/予備試験】点数が伸びない論文答案6選(後編)

「学ぶって、楽しすぎる。」-弁護士の岩瀬雄飛です。

本noteでは学ぶことの面白さや学習のノウハウ等を発信するとともに、自分が学んだことの記録を発信しています。

今日のテーマは「点数が伸びない論文答案6選(後編)」。

前編の繰り返しになるが、司法試験において合否を決するのは論文試験である。実際、採点実感では毎年のように答案のレベルには大きな差があることが示されている。

そこで前回と今回のnoteは、点数が伸びない答案を把握し、それを回避することによって良い評価を得ることを目的としたい。前回のnoteは以下を参照されたい。なお、司法試験を念頭において記載しているが、ほとんどは予備試験でも共通する内容である。



点数が伸びない答案④:流れが悪い答案

流れが悪い答案も点数が伸びない。刑法が分かりやすいため、まずは刑法の例を取り上げたい。

刑法をひととおり勉強した人であればご存知のとおり、刑法は構成要件(客観的→主観的)→違法性→責任能力の順で検討していくことになる。なお、違法性(正当防衛等)や責任能力(心神耗弱等)が全く問題にならない事例においてはこれらを検討する必要はない。構成要件さえ充足すれば犯罪は成立するからである。

構成要件について客観的構成要件→主観的構成要件の順で論じる理由についても念のため確認しておこう。例えば、私がある同僚を殺したい(殺人罪の主観的構成要件)を思っていても、実際に殺していなければ殺人罪に問われることはない。このように客観的構成要件の充足がなければ主観的構成要件を検討する必要はないのである。

にもかかわらず、殺意の有無が論点となる場合に、客観的構成要件について言及することなく、殺意の有無から検討する答案は一定数存在する。また、上記のとおり構成要件該当性がなければ違法性の問題を検討する段階にないにもかかわらず、いきなり「正当防衛が成立するか」を検討する答案も一定数存在する。

このような答案は、採点官に対して、そもそも法律の構造が分かっていないのではないかとの心証を与える。明らかに満たすものは一言言及するだけでよい。むしろ一言にすることで、深く論じるべき論点との緩急ができ、全体として流れのある良い答案になる。

なお、似た内容として、民法において要件事実に沿っていない答案も評価が低くなる。ロースクールでも要件事実が必修科目とされており、予備試験でも民事実務が試験科目とされていることからも分かるとおり、司法試験受験者には要件事実の知識・理解が求められている。すなわち、民法という試験科目を介して受験者の要件事実の理解が測られているといっても過言ではないだろう。

点数が伸びない答案⑤:事実しか書いておらず評価を欠いている答案

これも採点実感で再三指摘されている内容ではあるが、事実の列挙にとどまっており、事実の評価がされていない答案は点数が伸びない。事実評価が特に重要になる科目は、憲法、刑法、刑事訴訟法である。

例えば、私が受験した平成28年司法試験の憲法では「GPSを体内に埋め込む」という事実が問題文に登場した。これを「GPSを体内に埋め込むことは、重大な措置」と論ずる答案は少なくない。回答者は「重大な侵害」というワードで評価をしたつもりかもしれないが、これは評価ではなく事実+結論である。

正しくは、「GPSを体内に埋め込むことは、身体への侵襲を伴う重大な措置」である。これが事実+評価+結論になる。下線部で端的にGPSを体内に埋め込むことが何を意味するか(評価)を指摘している。

実際、下線部の有無で評価は大きく異なると思われる。採点実感では以下のとおり記載されている。

「…法目的を達成するためにGPSを体内に埋設するという身体への侵襲を伴う手段を用いるものであるから、…その重大性に着目した論述を期待したが、この点に全く言及されていない答案も少なからず存在した」

なお、手前味噌になるが、私の憲法の答案では上記をクリアしている。その他の例として以下も紹介したい。

自分の答案→「(GPSは)居場所が単なる位置情報にすぎなくとも、点と点をつなぐことによって、その者の行動が具体的に把握できる。」

採点実感→「…取得される個人の位置情報は,単なる「位置(点)」の情報にとどまるものではなく、…これを継続的に取得すること(「線」として把握すること)により個人の行動パターンが知られるなどと、事実に即して具体的検討がなされている…答案には高い評価を与えた」

事実に対する評価を勉強するためには、判例か上位合格者の再現答案を読みこんで、事実評価のストックを増やすのが有効である。基本書や予備校テキストには法律や論点の解説は記載されているが、このような評価や答案上の表現を学ぶことは難しい。

点数が伸びない答案⑥:文字数が足りていない答案

司法試験は8枚分配られ、事実とその評価が比較的少ない民事訴訟法以外は少なくとも7枚目、できれば8枚目に突入するくらいの分量は書きたいものである。そうでない場合、おそらく事実の指摘とその評価が不足している答案になっていると思われる。

実際、私も評価が唯一Bであった民法と民事訴訟法以外は8枚目まで使用した記憶である。再現答案の文字数は各科目以下のとおりである。
憲法→4,304文字
行政法→4,171文字
民法→3,584文字
会社法→4,034文字
民事訴訟法→3,118文字
刑法→4,216文字
刑事訴訟法→4,257文字

2026年以降に受験(すなわち手書きでなくタイピングで受験)予定の人は答案を書く際の文字数の目安としてほしい。私の再現答案を前提とすると、おそらく4,000文字程度が目安になるであろう。なお、2025年までに受験の人は練習のために手書きで過去問を解くことをお勧めする。

終わりに

「短答は合格点を取れるのに論文はなぜか毎年落ちる」という人も一定数いると思われる。もちろん法律の知識は大切であるが、論文は総合格闘技であるため、事実評価や漏れなく要件に言及する視野の広さ等、様々な能力が求められる。論文学習の際は、論点のみにとらわれることなく、あらゆる角度から学習を試みてほしい。

<PR>
自分が受験した平成28年年司法試験の全科目の再現答案を公開しています。論述の流れや事実評価の学習、合格答案のレベルの確認にお役立ていただければと思います。

・民法以外→415円 ※すべてA評価
(タリーズ水出しアイスコーヒー代にさせていただきます。)
・民法→250円  ※民法は評価がBであるため他科目よりも廉価です
(ドトールアイスコーヒー代にさせていただきます。)


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?