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【司法試験/予備試験】独学攻略法⑦~最後の科目「行政法」

「学ぶって、楽しすぎる。」-弁護士の岩瀬雄飛です。

本noteでは学ぶことの面白さや学習のノウハウ等を発信するとともに、自分が学んだことの記録を発信しています。

今日のテーマは「行政法の勉強法(初学者)」。

前回までのnoteで、行政法以外の必須科目(いわゆる「六法」)で独学での勉強法を紹介した(前回の民事訴訟法のnoteは以下参照。その他の科目についても民事訴訟法からアクセス可能)。

今回は最後の科目である行政法について記載したいと思う。行政法も民事訴訟法同様多くの受験生が苦手としている。しかし、民事訴訟法は内容が小難しいため苦手という受験生が多いのに対し、行政法の場合は、単純に学習に時間がとれず司法試験までに完成できない受験生が多いように思う。

そのため、基本的な学習に十分時間を確保できれば、合格に必要なレベルに到達することは難しくない。


(1)行政法はこれまでの学習の総集編


行政法はこれまで学んできたことの総集編である。そのため、六法を学んだ後に学習すべきであるし、多くのロースクールでも行政法は最後に勉強するカリキュラムが組まれていると思われる(私は未修者コース1年目のときは行政法の授業はなかったと記憶している)。

例えば、行政法は初見の法律や条例の条文が掲載されてその解釈が求められるため、「法律を正しく読む」力が必要になる。より具体的な例を挙げると、「A。但し、B。」という条文の場合、当然のことながらAが原則、Bが例外になる。しかし、無意識な場合も含め、原則であるAの検討を怠る(Bから出発してしまう)受験生は少なくない。

また、より具体的に他の科目と結びつけると、以下のような例が挙げられる。

・会社法:ある処分に手続的瑕疵があった場合、当該処分が違法になるか、という論点については、会社法で学習した、取締役会の招集手続に瑕疵があった場合、当該取締役会が違法になるかという論点に近い。
・刑事訴訟法:先行する行政処分の瑕疵を後行の行政処分の取消訴訟で争えるか、という論点については、刑事訴訟法で学習した違法性の承継の論点に近い。

このように、行政法の学習には法曹に求められる基本的な能力の素地が必要になり、また、他科目と結びつけることで有機的な学習が可能になる。そのため、六法の理解に十分な自信がない方は、まずは六法を固めることをお勧めする。

(2)行政法はどれだけ早くアウトプットに移行できるかが重要


また、行政法はインプットよりもアウトプットが重要ということについて触れておきたい。

行政法にはいくつか重要な概念が存在する。例えば「行政裁量」である。これは、行政がある処分について行うか行わないかの裁量のことである。典型的には、「処分を行うことができる」という条文であれば、行政は処分を行うこともできる一方、行わないこともできる。他方、「処分を行わなければならない」という条文であれば、行政に処分を行わない自由はない。他にも「A、B、C等に照らして重要と認める場合」等も重要性の判断に行政の裁量が認められることが多いだろう(※ただし、条文の文言だけで行政裁量の有無が決まるわけではない点は留意されたい)。

また、行政規則と要綱(内部基準)の関係も重要な概念になる。例えば、以下のような構造を考えてみよう。
法律→行政は、規則の基準を満たす限り工場の建築の許可をしなければならない。
規則→環境に著しい被害を与えないこと(※一例)
要綱→河川から100m以上離れていること

上記の場合において、申請者が河川から120m離れた箇所に工場を建築したいと考えている場合、行政は「環境に著しい被害を与える」という理由で許可しないことができるか、という論点である。

「行政裁量」や「行政規則と要綱(内部基準)の関係」等、行政法で学習する重要な概念(論点)は実はそこまで多くない。しかし、実際には上記のように分かりやすい例ばかりとは限らず、この条文は行政裁量を認めているか否か、これは要綱に該当するか否か等の判断が難しいものも少なくない。この感覚を磨くためには演習が不可欠である。基本書を読んで概念だけ吸収していても本番で太刀打ちができなくなってしまう。

アウトプットがインプットよりも重要であることは他の科目でも同様であるが、行政法は特にアウトプットが重要であることを意識されたい。

(3)行政法の学習方法


上記のとおり、行政法については早くアウトプットに移行することが重要になる。そのため、効率よく必要な学習をする観点から、基本書は『LEGAL QUEST』をおすすめする。

『LEGAL QUEST』を読んで必要な学習をした後は、早々に過去問をつかって法令を操作する練習(アウトプット)に移行することが重要である。他の科目に比べて、行政法の問題は受験生のレベルを考慮して基本的な問題が出題されている印象である。

最初のうちはほとんど解けない、時間が足りないと思われるが、「基本書を読む→過去問を解く→基本書を読み直す」を繰り返しておくと、問われていること自体はあまり変わらないことに気づくだろう。本番でどんな法令が出題されたとしても演習の過程で行政法の考え方が身についていれば対応できるようになるはずである。

なお、予備試験を受験する方は短答試験も必要になる。他の科目同様、短答テキストはどこの出版社のもの、また、肢別でも問題ないが、私はWセミナーのものを使用していた。


(4)(ご参考)行政法は実務でも重要…ただし…


私は実務でも会社法とトップタイで行政法を使用することが多い。行政事件訴訟法や行政手続法それ自体を使うというよりも、条例の解釈や届出・許可の違い等、行政法で学んだ考え方のようなものは仕事の上でもかなり重宝している。

もっとも、実際に行政法で学習した理論どおりに実務が行われているかと聞かれるとそうでもない。

例えば、届出であっても当局は届出書類の中身の審査を平然と行ったりする(※届出の場合、本来は形式的不備がない限り当局は受理しなければならない)。

また、当局から行政裁量の範囲外である点についても修正を求められることがある。行政指導に強制力はないはずであるが、実際には従わない限り許可が下りないことも少なくない。

このように実務上は、行政の運用にやむなく従うことも少なくないが、こういった違和感を覚えることは重要である。行政法は学習が難しいが、実務でも必要な知識ととらえて学習を続けてほしい。

終わりに


選択科目はあるものの、行政法の勉強を終えたことで司法試験科目ひととおりの学習は済んだことになる。これまでは知識の吸収に重点を置いてきたが、これからは論文のためのアウトプットの練習や実際の試験問題に対応できるようにするため理解を深めていくフェーズである。

アウトプットや理解力を深める勉強はこれまで以上に労力のいる学習になる。もっとも、ここまでしっかりと「基本書を読む→問題を解く→基本書を読み直す」のプロセスで勉強してきた読者であれば、学習の基礎体力はついていると思われる。合格を勝ち取ることができるよう、一層の学習に励まれることに期待したい。

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自分が受験した平成28年年司法試験の全科目の再現答案を公開しています。
本note投稿日現在、憲法と刑事訴訟法は解説付きです(他の科目についても今後追加予定)。
論述の流れや事実評価の学習、合格答案のレベルの確認にお役立ていただければと思います。

・民法以外→415円 ※すべてA評価
(タリーズ水出しアイスコーヒー代にさせていただきます。)
・民法→250円  ※民法は評価がBであるため他科目よりも廉価です
(ドトールアイスコーヒー代にさせていただきます。)

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