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はじまりのカードと白犬

ほかの人にとってどうでも良くても、見えないものであっても、自分にとっては大切だと、絶対に忘れたくないものがきっと一人一つぐらいはある。
わたしにもある。


その大切なものたちを、他の人に笑われるのが、蔑ろにされるのが怖くてずっと誰にも言わないで自分の中に閉じ込めていた。しかし年を重ねるにつれ自分から大切なものたちが少しずつ遠のいていくような・・••・・
まるで宇宙が膨して星々が遠くにいってしまうかのように……

「忘れたくない!」



その気持ちからわたしは作品を作り始めた。生き物っていうのはどんどん忘れていく生き物だから、自分自身がこれから先絶対に忘れたくないものを残すために作り始めた。

自分のために、わたしが忘れたくないものを忘れないために何かを作る。 きっかけはそうだった。ちょうど一年前と少し前、わたしは初めてわたしの大切なものについて口に出し、人に話した。大切なものは作品として初めて具現化された。そのときわたしの話を聞いてくれた人は笑いもせず蔑ろにもせず、それどころか本当に大切に扱ってくれた。大切なものの存在を、初めてほかの人にも知ってもらえた、さらにわたし自身も強くその存在を強く感じることができた。


⟡.*


高校に入るまで、ずっとぼんやりと生きてきた。将来のことをはじめて自分から具体的に考えたのは高校一年の冬、進路を考える授業のときだった。
当時わたしは物理と数Bに苦しめられていて、

「星がすきだから、勉強を頑張って天文学者にでもなれたらよい」

小さなこどもがスーパーヒーローになりたいという、そのぐらいの憧れだったが、それはあっさりと崩れた。もうちょっとがんばれば数学だって物理だってできるようになったかもしれないのに、わたしはもっとイバラの道の方を選んでしまったのだ。

「最近勉強の調子わるいし、思い切って藝大目指しちゃおうかな!」

むかしから何かを作ることはずっとすきだった。いわゆる、美術予備校と言われるところで油絵を描いたり彫刻をしたり映像を作ったりもした。色々試して全部楽しかったことは確かなのだが、どれかひとつの媒体にしぼるのがしんどかった。漠然ではあるけれどわたしには表現したいと強く思うものがあり、それらはときによって形がいろいろで、

絵にしたい!
大きな像にしたい!
日記にしたい!
うたをうたいたい!
劇にしたい!


わたしはわがままだから、ぜんぶやりたい。
絵も映像も膨刻も演劇も音楽もみんな、人々が生み出すもの全て愛おしく感じていた。小学生の頃からずっと友だちだった文学や、いまも憧れのままの天文学、一つの答えを出さないでいられる哲学、全て大切にしていきたい。

ここならわたしはきっとわたしなりの答えを見つけられる、そう思える学科を見つけた。そこ入るために、たくさんの作品を作り、ポートフォリオにまとめる。それからの一年はあっというまで、本当に楽しくて楽しくて仕方がなかった。

⟡.*

わたしにとっての大切なものたちがあるようにほかの人にだってそういうものがきっとある。思いつかないのならそれはきっと忘れちゃっているだけで……

わたしはみんなのそれを大切に、大事にとっておきたい。もし忘れちゃったら思い出す手伝いをしたい。初めは馬鹿みたいだと笑われるかもしれない。でも人はそういうちょっとぐらい夢を見ていなきゃきっと生きられないと思うから、わたしはずっとそれに本当に救われてきたから、ほかの誰かにもお裾分けしたい。
その願望は、他人のためではない。そうすることで、自分と、自分の大切なものたちが救われるからである。

最後に、こんなことは夢みたいなはなしだけれど、いつかの未来にわたしと、わたしを覚えている人もみんないなくなったとき、わたしが作り出したものだけはまだ宇宙に残っていて、どこか遠い誰かにとっておとぎ話みたいになったら本当にいいなと思う。



ここまで、大学に提出したポートフォリオに書いた志望動機を、もう一度自分向けに書き直した文章でした。
結局わたしは一次試験で落ちてしまい、この文章も、わたしの作品も、一瞬たりとも見られることなく終わってしまいました。
人生で初めて、本気で頑張ったのに、あっけなく落ちました。今までの人生で失敗というものを経験したことがなかったけれど、本来人生とは思い通りにいかないことの方が大半なはずです。むしろ今までがうまくいきすぎていたのです。それは今まで何かを目指したり、欲したりせず生きていたからかもしれませんが……
五月の頭ぐらいまで、引き摺って、ずっと元気でいられませんでした。
最近ようやく復活してきたので今こうして文字を書くことができています。

第一志望に入ることが目標だったわけではないという、当たり前のことを忘れていました。今は、大学受験の段階で、燃え尽きなくて済んでよかったとまで思っています。わたしは、作品を作らせていただける環境と、今まで出会ったすてきな人たちと風景さえあれば、きっと何かを作り続けることができるでしょう。

いつかのおとぎ話をつくるその日まで、わたしが忘れたくないことをここに残していこうと思います。

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