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イチゴ狩りで私が狩ってしまったもの

「〇〇狩り」というフレーズで私が思い出すのは、弟たね吉が小さかった頃、彼は「狩り」とつくと、美味しい体験ができるものだと思っていて、祖母の入っていたお達者クラブ(老人会)のもみじ狩りについて行き、

「ゆで卵喰って、そば喰っただけだった」

と、帰って来て呟いた大層がっかりした顔である。


ひと口に〇〇狩りといっても色々ある。

1990年代後半には「オヤジ狩り」なんて物騒なものも取り沙汰されたことがあった。
オヤジを狩ってはいけない。

最近だと、スタエフのライブではコメントのみならず、ネタまでも求める「欲しがり」と自ら名乗るオヤジもいる。
いつの世も、愉快なオヤジに蔓延はびこってほしい。


閑話休題何のハナシ


今年もあちこちで「〇〇狩り」をよく見る季節になった。

『○○狩りランキング』の1位といえば、未だこれがキライという人に出会ったことがないコレ。

『とっておき』


みんな大好きイチゴ。

義妹に誘われて何十年かぶりにイチゴ狩りへ行った。
こんな近場にあることさえ、多忙過ぎてずっと知らずにいた。

しかも『あきひめ』という品種を改良した『とっておき』の農園である。

『とっておき』は私がここ数年、スーパーで見かけるたびに気になっていた地元の品種だ。

実は大ぶりで、6~7粒ほど詰められたパックにつけられている値段シールには目が「ぎょっ」と音を立てそうなくらいの数字が印字されている。

ドヤ顔の『とっておき』いつか成敗してやらねばと思っていた。

ということで、UNIQLOのエアリズム以上に滅多に脱ぐことはない「出不精」を引きはいで、私は迎えに来てくれた義妹のクルマにいそいそと乗り込んだ。

半透明の温床の中に入るやいなや、甘い香りが全身をふ~んわりと包み込む。

その香りをまとって一気に体温が上昇するような感覚になる。

とにかく大粒!


この赤い実はなぜにこんなにも人のテンションを揺さぶるのだろう。

私と義妹の目は宝石のような赤い色をそこら中に捉えて、ふだんならカラオケでも出せないようなキーで感嘆の声を漏らす。

そしてテンションとは逆に、急に互いに無口になって、小高い畝の間をずんずん進み始める。

よりもっこりした、より赤く輝く実を瞬時に厳選しつつ指を伸ばす。

口がもぐもぐ動いている最中でも、視線は次の赤い実を捉え、狙いを定める。

粛々と繰り返される、ちぎっては食べ、ちぎっては食べ。

一心不乱の時。

イチゴ狩りは瞑想だ。

ひと口ではとても食べられない大きさ💦


「お義姉さん、何個くらい食べました?」
制限時間も残り10分を切ったところで義妹が私の傍らへ来て言った。

「たぶん25~6ってとこかなぁ。もうお腹いっぱいになってきたよ」

「粒が大っきいから、なかなか数は食べられないですねえ」

そう言いながら義妹も満足そうに笑う。

そうして私たちはおもむろにスマホを取り出し、たわわな実の写真を撮り始める。

甘い香り、つぶらな赤い宝石たちに囲まれて至福のとき。


「これって何個くらい食べたら元が取れるもんなんですかねえ」

ふと、義妹が漏らした言葉に、私はスマホの計算機を立ち上げ、1パックの市場価格を税抜きして、そこに推定される掛け率を入力し、ひと粒当たりの原価を計算してみる。

「ひと粒こんなカンジですかしら、奥さま」
義妹にスマホ画面の数字を見せる。

「えっ!あらやだ!って、ことは元を取ろうと思ったら…?」
義妹も大げさに片手を口に持って行く。

さらに私は文字盤の数字をタップして行く。

「40個、そこが損益分岐点とみましたわ」

「ヤバい!あと10個は食べないと!」

途端に義妹の眉と目じりが20年分ほど引き上がる。

そうか。
こういう緊張感があれば目元に高い美容液は不要かもしれない。

「こんなもんかしらね~」なんて、さっきまで写真を撮っていた優雅さから一転、義妹は再び、ちぎっては食べちぎっては食べ。

ほおばるその横顔は、もう瞑想中の僧侶ではなく、戦国のサムライのような勇ましさを醸し出している。

ふと、視線に気づいてそちらを見ると、畝を挟んで対面にいた若いカップルの女性が私からサッと視線を外した。

「ね、今何個食べた?あと何分?」
傍らの男性の腕をつついて囁くのが聞こえる。

義妹の近くで、イチゴの苗について談笑していた80代とおぼしき男女が義妹と視線が合うと微笑んで話しかけて来た。

「うちは…とてもムリですかな」

「孫も一緒に来れればよかったんですけどねえ」

「あっ、おほほほ… こういうのは多い方が、ねえ」

義妹は甘いイチゴをほおばっているのに苦笑いして答える。


「ちょっとあんたたち!いちいち選ばなくていいからもっと食べなさい!!」

私の後ろ側からは、親子連れのお母さんらしき人の焦る声。

「お父さん、あと20個くらいイケるよね⁉」

「いや、もうムリ」

「何言ってんの、お父さんが一番来たがってたんでしょ!」

「結構食べたからもうええわ」

「結構って何個よ?何個食べたの?ちょっと、あんたたち!遊んでる時間はないんだから!食べなさい!」


甘い香りの温床内に殺気が漂う。


・・・


時間が終了して私と義妹は農園の事務所へ向かう。

お土産にと、量り売りしてもらったイチゴの入ったビニール袋をぶら下げて
さっきの温床の前を通りかかると、私たちと行き違いにさっきの若いカップルが事務所へ向かって行った。

心なしか、男性の顔色が冴えない。

そして温床の中からは、やはりさっき居合わせた子供たちの声が響いている。

「お父さん、あと7ふ~ん!」
「あと17コぉ!」

「あと16コぉぉ!」



私と義妹は一瞬視線を合わせ、こそこそと足早に駐車場へ急いだ。



同じイチゴなのに、何で持ち帰ったのは
洗ってから食べるんだろうw



この時期になるとnoteのTLでもチラホラ増える可愛いイチゴのサムネ。
イチゴは眺めているだけでワクワクする果物№1だと本気で思う。

『イチゴ狩り』ひとつでも記事ごとに様々な視点、個性があって面白い。
このお二人の記事に感化されて思い出した昨年のエピソードを私も書いてみました。

私たちの共通項はハッシュタグ『いちご狩り』なんだけど…?

最後の補足部分に、子供のというより、父親の微笑ましさがのぞく。
実はそこが一番書きたかったところかも?


お仕事なのに、誰よりいちご農園を満喫するほっしーさん(笑)
こんなスタッフが、実は「イチゴの糖度を上げている」説。

愉快、愉快

やっぱりオジサンは愉快が一番。



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