月恋
窓を開ければ芳しい夜風が
秘めやかに忍び込んで
古い小部屋を藍色に染める
折れた翼の傷は痛んで
泣きながら帰るべき場所を想う
飛び立てない闇を従えて
浮かび上がる月
堕とされた意味はわからなくても
夢占いで未来はわかる
貴方には会えないのね
もう会えないのね
愛を凍らす確信
膝をついて両手を伸ばし
浴びる月明かりは
貴方の髪のように冷たい色彩
宵闇に冴える美しい絹糸
永遠をめぐり逢いを信じたあの日
貴方がくれた優しい嘘が
どれほどわたしを生かしたか
最期なら伝えたかった
儚い願い
くちびるから溢れる呪文
あの月に還れるのなら
何を失ってもかまわない
滑り落ちる竪琴
あの歌は二度と弾かない
あの歌は二度と歌わない
貴方のためだけに
わたしの調べはあった
胸にしみる切ない恋は
誰もが知る想いでしょうか
会いたくて還りたくて
気がふれるほどこの夜は重い
恋しくて哀しくて
誰にも言えないこの恋は
月の影に隠して知らぬ顔で
捨て去ることが出来るでしょうか
貴方しかいないのに
貴方だけが見えなくて
にじんで崩れゆく月に照らして
力なく下ろす指先に
季節外れの蝶が止まって
やがて小さな指輪になった
秘密の誓いのような
蒼い薔薇が指に咲く
散らない想いがあることを
かたどるように凛として
蒼く蒼く
月明かりに浮かび咲く
花びらに涙
朝露に変わるまで
咲いて咲いて
散り逝けこの恋心
月色に染まって
ERICA