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「UPRIGHT」日本人とベビーチェアについて考える

エポックメイキング!トリップトラップ

1972年、尊敬するノルウェーのインダストリアルデザイナー、ピーター・オプスヴィックによってSTOKKE社からトリップトラップチェアがこの世に誕生しました。ご存知の方も多いと思いますが、住宅番組には常連で登場するあの椅子です!

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エルゴグラフィックの知識をも持つ作者は、自分の幼い息子が大人の椅子に座り脚をぶらつかせながら落ち着かない様子を目撃し、その様子を観察することからこのベビーチェアの開発が始まりました。座面と足置きの高さや奥行きを変えることが可能で、子供の成長とともに正しい姿勢を保てるよう椅子も成長するという発想は、まさに時代のエポックメイキング!これまでのベビーチェアの常識を覆すものでした。また荷姿を小さくし輸送コストを削減したり、不具合時などパーツ交換のしやすさを考えたフルノックダウン(現地組み立て)のアイディアは、質実ともにこの椅子を世界のスタンダードまで成長させました。製造国の変更による品質が不安定な時期があったり、「ベビーチェアは決して子守はしてくれないので、、」は通用しない、訴訟の国米国のPL法への対策によって「赤ちゃんの体の動きを奪い拘束してはいけない」という作者の意図には反し、ベビーガードのデザイン変更を余儀なくされたり、様々な紆余曲折がありながも世界が認めた今も現役の逸品です。

3バリアブル


作者が1970年に独立してまもない’72年に世界のスタンダードになる作品を世に送り出したわけですからこれは凄いことです。以前のエッセイでもご紹介しましたがバランスチェアの開発の中で唯一彼だけが、人の体を動きで捉えた「ムーブメント&ヴァリエーション」を着眼点としてヴァリアブルバランスを1979年に発表、その他プロのJAZZのサックスプレーヤーとしての顔も持っていたり、確か八人だったと思いますが身寄りのない子供たちを養子縁組して育てたり、まさにデザイン力としても人間力としても大尊敬に値する人物です。以前彼の来日時、あるセミナーでお目にかかる機会がありましたが、「人からオーラが出ているというのはこういうことか!」と彼を見ていて感じました。
本当にオーラが見えたんですよ~。

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トリップトラップチェアの存在は世界のベビーチェアのマーケットに影響を与え様々な国で模倣品やそれにインスパイアされたものが現在でも数知れず製造されています。先程のセミナーではヨーロッパだけでコピーファイティング(訴訟)は年間100件もあるとSTOKKE社の方が言ってました。
日本でもその影響を受けた様々なものが製造販売されてきました。強度が心配な粗悪なものから、ツール&トイの発想でデザインされたものまで、まさに品質は一流から三流まで様々です。

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UPRIGHT をご紹介する訳

そして2009年また新たな国産のベビーチェア UPRIGHTが登場しました。そして2015年さらにブラッシュアップされ、現在のモデルに至りました。2021年12月現状況では注文後納品まで二か月待ちの状況という大ヒット商品となっています。

さて今回このアップライトについてご紹介致しますがそれには大きな理由があります。簡単に言ってしまうと「正しい座り方を理屈ではなくて無意識のうちに体で覚えてしまえるから!」「椅子は腰で座るもの!を座り癖にできるから」です。特徴的な大きな背もたれには三次曲線を持つ支持面があり、座面と足置きの高さと奥行きを、お子様の体とテーブルの高さとの相性を見ながら決めセットし、お子様のお腹が向かい合うテーブルのエッジに触るくらいにいまで椅子をテーブルに近づけてあげると、自然に正しい座り方になってしまいます。

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これまで椅子に対してうっかり浅く座り、作業時においては背もたれの性能をほどんど使わずにきた私たち日本人。弱点と言えるこの「座り癖」は、なかなか改善されずにいるのが現状です。以前のエッセイでも何度かお話しましたが「デザインする人」も「作る人」も「売る人」も「買う人」も私たち日本人の多くが今「座り心地が大切だ!」と言うようになりました。テーブルや机にばかり意識が向けられていたことからすると、ついに気づきの時代の到来と言えるでしょう。ただ残念ながら座り方を知らない、、。
戦後本格的に一般の生活に椅子が入りだして半世紀以上経つわけですが、座り方が未成熟のままで、あまり問題意識もないまま来てしまっているようです。座り方が間違っているということは、何千何万の椅子に試座したところで、自分に合う椅子には出会えない、出会っていても気づけない。ということです。

トリップトラップチェアには、かつてセールスキャッチコピーに「教育が入っている椅子」というのがありました。大人が何を話ししているか理解できない年齢から、大人と同じ食卓で同じ目線の高さで暮らすことで、コミュニケーションの練習をさせるという意味でした。UPRIGHT はさらに踏み込んでいて、今の私達日本人にはとても大切な「座り方教育」が入っていて、弱点であった座り癖を改善するための椅子と言えると思います。

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その他の特徴

■簡単な高さ調整
座面は12㎜刻みで14段・足置きは15㎜刻みで16段
首が座ってお座りができ身長が90センチくらいから利用することが可能で、成長に合わせて高さ調整が出来ます。高さによって最大公約数で計算された奥行も変化します。工具を使わずにネジグリップ式なのでお母さんでも簡単に高さ調整が出来ます。

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調節の度に工具を使い、椅子のフレームにゆがみがないか?またちゃんと水平が取れてるかをチェックしながらネジを均等に締めなくてはいけないことが一度面倒に思ってしまうと、せっかくの高さ調整機能がついているのに、こまめにそれを利用していない宝の持ち腐れになってしまう現象から解放されます!
正しく美しい姿勢へのせっかくの投資!お子様の成長を実感しながら、お子様と一緒にこまめに調整しましょう。

※注意する点は①左右の段が同じ高さか必ず確認することと ②必ずお子様が椅子から降りた状態で高さ調整をすることです!

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■広い座面と足置き
広い背もたれに広い座面と広い足置きの組み合わせは、椅子の中のお子様の体の動きを遮ることなく自然に多々しい姿勢に導いてくれます。
座面には体圧を分散させるため、作業性を邪魔しない程度の必要最小限のシートクッション(カバーリング)がセットされています。腰掛けたお子様の肘かテーブルに対して直角になるよう高さを決めましょう。
広い足置きはかなり重要で、お子様の膝と足首が直角になり足の裏がしっかりと着くようにセットしましょう。心の安定と椅子の中での動きをサポートします。歯科医の研究では高い椅子に座り足が地に付かない状態では咬合力が約15%下がるとか。

※時々非常に狭い足置きや、格好重視なのでしょうか?棒状の足置きを見かけますが、あまりいや!かなり感心しません。
ベビーガードを利用する年齢を卒業した後から四歳児位までの、危険を察知する経験値がまだまだ浅く、元気いっぱい動き盛りのお子様は誤って足を踏み外すことがかなりの確率で考えられます。フォルムが美しくてもお子様に怪我をさせては元もこもありません。

■もう一度大切な背もたれについて

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面積が広く体の自由度を残しながら沿うようにつけられた三次曲線は体に優しく疲れに難い様にデザインされています。①上から下に向けてのたての曲面は背骨を自然なS字のラインを描くように導き、特徴的な部位の②の曲線は背の筋肉を休めます。そして③は骨盤を支えます。立っている状態と座った状態の骨盤の角度を一定にするためのベルビックサポートはドイツの名門ウィルクハーン社などが採用していますが、これに近い考え方がベビーチェアに取り入れられています。

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美しい成形合板
ブナ材の成形合板は背もたれの三次曲線をも実現させ、この椅子の持つ効用を知れば知れほどそのフォルムの美しさが際立たせます。脚は畳や毛足のの長いじゅうたんなどを痛めにくい床摺り構造で、お子様がテーブルを蹴った反動で後方に転倒する事をなるべく防ぐ為、脚後部に三角の隅木を付ける配慮がなされています。

UPRIGHTは完成品
UPRIGHTは耐久性を高め完成度を上げるためにメーカー工場内で完成品にして出荷されます。国内流通のみを考えれば輸送コストの軽減より完成度を上げることを優先しております。製品到着後高さだけ調整してお使いください。
※背もたれの特徴をまずは投資を考えている親御さんに体感してもらうため、くらし座のUPRIGHTはあえて大人用の高さに設定しております。大人が体感した後お子様用に設定しお子様に体感していただきます。

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付属トレイはありません!
UPRIGHTには乳幼児期用のベビーガード付きシート(奥行調整可能)は用意されていますが、付属トレイは用意されておりません。前にお話ししました、大人が何を話ししているのか分からない年齢から同じ食卓で同じ目線によるコミュニケーション練習という意味からすると、トレーを付けることによってお子さんが孤立してしまうという観点からこれは正しい選択だと思います。

※かつてトリップトラップチェアにもトレーは用意されておりませんでした。上に書いた理由から作者も不要と考えたわけです。しかしながらメーカーからの強い要望で現在ではオプションとして用意されています。トレーの名前は「ストッケトレー」であり「トリップトラップトレー」ではありません。作者ピーター・オプスヴィックのデザインポリシーによる強い抵抗がこういったところに垣間見れます!

■UPRIGHT
価格:¥49,500(税込み)フレームウレタン仕上げ(8色ご用意)
対象:身長90㎝~大人まで
サイズ:W46 D55 H83/㎝
重さ:8.1㎏
素材:ブナ
シート:布(10色ご用意)・合成皮革(10色ご用意)
耐荷重:100㎏
対応テーブル高 67~73㎝推奨
※オイル仕上げ¥51,700 (税込み)※ウォールナット¥57,200 (税込み)

UPRIGHTロータイプ
価格:¥49,500(税込み)フレームウレタン仕上げ(8色ご用意)
対象:身長90㎝~大人まで
サイズ:W46 D53H76 /㎝
重さ:7,9㎏
素材:ブナ
シート:布(10色ご用意)・合成皮革(10色ご用意)
耐荷重:100㎏
対応テーブル高 60~66㎝推奨
※オイル仕上げ¥51,700(税込み)※ウォールナット¥57,200(税込み)

ベビーシート(3歳未満の方は必ず装着してください)
価格:¥11,000(税込み)フレームウレタン仕上げ(8色ご用意)
対象:生後7か月~身長90㎝まで
シート:合成皮革のみ(10色ご用意)
※オイル仕上げ¥11,550(税込み)※ウォールナット¥13,200(税込み)
〇その他オプションについてはお問合せ下さい

Design:朝倉芳満
製造販売:豊橋木工株式会社

最後に

トリップトラップのヒットの後、単なる模倣品をはじめとする品質より価格訴求を狙ったものの他にも、もっとオシャレに見せようとするスタイリングの焼き直し等、コピーファイティングから免れるギリギリのところでデザイン開発というよりもスタイリングがなされ世界中で色々なものが売られています。
そんな中、今回ご紹介しましたUPRIGHTのデザインをされた朝倉芳満氏の本質の部分で踏み込もうとした開発へ向き合い方にとても好感を持てます。またその素晴らしさを見抜き、開発ならびにプロモーションをしたチーム力にたいしても心から尊敬しています。
このような椅子で正しい座姿勢を身に着けたお子さんが今後増え続け、私たち日本人の座姿勢が改善が行き届くのはあと何世代後のことでしょうかね?

エッセイ「トヨさんの椅子」の中でお話した「正しく座るから自由に座る」の前提条件が早く整うことを心から期待しています。そしてまたその頃には自由に座る為の受け皿となる椅子も今よりは数多く開発されていることも期待しております。


くらし座 大村正







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