山本唯翔「妖精」
番狂わせの準備は整ったと言える。出雲駅伝でのチームの大躍進に全日本で余裕を持った5位入賞。科学的アプローチで箱根駅伝に迫った城西大学の一つの集大成がいよいよ見え始めている。
その熱狂のるつぼにいるのが山本唯翔くんだ。覚えているだろうか?彼が昨年箱根駅伝の5区山中で「妖精でいいんだからね」と声掛けをされ5区区間記録を樹立した彼である。
彼がその熱狂の中、快走を見せられるかどうかが大きなカギとなる。
高い登坂能力は1年次から
驚異的な登坂能力はすでに1年次から見られていた。新型コロナと強風に煽られながらタイムが全体的に伸び悩んだ97回箱根駅伝。激坂王を制した三上雄太選手の活躍も見られた中、城西大学は下位に沈んだ。
その中で数少ない奮闘を見せたのが山本くんだった。強風が吹き荒れる中、区間6位でまとめ上げて3人抜きの快走を見せた。標高874メートルを海抜0メートルから登る強さ。最高到達点に達した後の下りでの切り替え。教えてできるものではない難しさを彼は元来持っているのである。
そう語る幼少期から「登る」強さを鍛え上げていた山本くん。十日町の山間出身の彼がおのずと持っていた強さを日常の中で磨き上げ、その原石として入った城西大学で1つ、答えは出したと言える。
持っているポテンシャルの高さとは裏腹に、城西大学は決して選手層が厚い学校ではない。2年時の箱根駅伝予選会では予選落ちをしているように激しい予選会争いで抜け出すのは容易ではない。
しかし、驚異的なルーキーが入ってきたことで、山本くんは「エース」から「ゲームチェンジャー」の役割に変わることとなる。
ヴィクター・キムタイくんと斎藤将也くんだ。
二人の「柱」が彼を妖精にした
昨年こそともに1年生だったということもあって結果は残せなかったが、しかし持っている能力は極めて高い。昨年斎藤くんは、山本くんとともに激坂王に挑戦して見事に勝利を収めているほど。
そうしたチームとして勝てずとも戦える状況に移ったからこそ、山本くんは前回大会の箱根で見事な躍進を見せ、そして「妖精」になることができたのだろう。
トラックシーズンも絶好調だった。8月に中国の成都で開かれたワールドユニバーシティゲームズ男子10000mで3位に入賞。蒸し暑いコンディションの中で初の世界大会。メダルを獲得したことや石原翔太郎くん、安原太陽くんらとの親交を温めながらトラックでも実力を付けてきた。
今シーズンはすでにキムタイくんもインカレで2冠を達成。駅伝シーズンに入れば出雲駅伝と全日本大学駅伝でも区間賞を獲得している。斎藤くんもきっちりエースとしての役割を果たすほどにまで成長を遂げた。駅伝に慣れたエース格がいる意味はとても大きい。
山本くんが「妖精」から「神」へと変化するためにも。
「妖精」から「神」へ
今シーズン目指しているのは、同じ距離での区間記録保持者である今井正人選手の1時間9分12秒。亡くなられた河村亮アナウンサーからも「山の神、ここに降臨!」と言わしめた箱根の山に愛されたあの男の記録に、である。
当然妖精でとどまる気はない。そのために越えなければいけない壁もあることはわかっている。今年の山は相当厳しい。駒澤大学からは山川拓馬くん、中央大学は阿部陽樹くん、青学からは若の神こと若林宏樹くん。そして創価大学には吉田響くんと多くの対抗馬が揃っている。
また、山本くんだからこそ厳しいマークを受けることは必至だ。
語る言葉は頼もしく力強く心地よい。卒業後に目指す世界へと向け、最後の箱根路。彼は妖精のように軽やかに駆け上がるのか。それか神のように力強く駆け上がるのか。
正直どちらも見てみたいなと思ってします。そういったスター性も彼の魅力だろう。
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