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小野隆一朗「試練」

誰もが厳しいと思っている帝京大学の今年のチーム状況。しかし、中野孝行監督を始めチームの雰囲気は決して悪いものではないようだ。「全日本に出られない分だけ箱根に向けて余裕をもって調整ができる」と語り、2018年と19年度の練習メニューと同じものが消化できていることからもそれを裏付ける。

そして、その中でエースとして活躍が期待されるのが小野くんだろう。遠藤大地さん、細谷翔馬さんといった絶対的存在が卒業した次を担う存在として。レースの流れを作るのは間違いなく彼になると私は考える。「試練の1年」となった帝京大学の中で絶対的存在となれるだろうか。

都大路での実績を引っ提げ帝京に

小野くんは帝京大学の中でも少し珍しい存在である。基本的に実績はなくともポテンシャルある選手を育てることが上手い帝京大学の中で彼は高校駅伝1区で区間4位の経験を引っ提げて入学した。
区間上位には佐藤一世くんや松山和希くん、そして鶴川正也くん。松山くんは東洋に、佐藤くんと鶴川くんは青学に進学する中で小野くんが選んだのはファイアレッドのユニフォームを纏う帝京大学だった。

その理由はまず、出身地が同じ北海道で白糠町の同郷だったことそして厳しい練習内容が挙げられていた。ハードな練習でチームを成長させることでも有名な帝京大学。周囲からも止められたということもあったが逆にそれを魅力に感じて身を投じると1年時より全日本大学駅伝で1区を走り、昨年も箱根駅伝で1区を担当した。

圧巻の走りとは言えなかったが区間8位でまとめ、往路2位という成績に大きく貢献する素晴らしいスターターぶりを見せた。出雲駅伝にこそ出走しなかったものの、10月の記録会では自己ベストを更新し、ここまでで調整はバッチリ。あとは箱根で結果を出すだけ、という状態にある。

その中で、小野くんが今年求められるのは「良い走り」ではないと私は考える。「快走」と呼べるくらいの強さを求められていると私は思うのだ。もう1ランク上の走りが彼には期待されているし、彼ならばできると私は信じる。

「試練」の1年だったからこそ

今年はこれまでシード権獲得に貢献してきた面々が卒業している。出雲駅伝の結果や前回大会の復路だけ見れば「帝京大学はシード権も危ない」となるだろう。
実際にこの戦国駅伝で一つの取りこぼしが命取りとなる。他大学と比較した時にアドバンテージが少ないと思われているのだろう。

しかし、育成の帝京と呼ばれるだけあって叩き上げの強いランナーたちが育つのがこの大学の侮れない所であり魅力でもある。そして確実にその芽は出始めてきていると言ってもいい。

また、出雲駅伝については小野くんを始め箱根経験者が居なかったことも要因の一つではあった。
駅伝を経験したことがない選手たちに経験を積ませ、じっくりと準備・育成にかける時間を作ってきたことは帝京大学にとってアドバンテージともなるはずだ。

1区から高速レースの展開が予想される今回の箱根においては、彼がさらに良い位置で襷を渡してあげる必要がある、ということだ。
彼が区間上位で襷を渡すことによって、レース全体の「流れ」もまた違ったものになるはずである。

「勝ち切らないといけない」という自覚も持つ小野くん。箱根駅伝でも勝ち切る「強さ」が求められるだろう。

世界一諦めの悪いチームに火をつけろ

しかし、シード権をめぐる状況は極めて厳しいものがある。それだけ他大学のレベルが上昇していると言ってもいい。1区からその「流れ」に乗ることができる選手が居ることはチームにとっては重要なアドバンテージとなる。

小野くんであれば、必ず流れを創り出すことができる。もっと言うなら、ファイアレッドのチームの勢いに火をつけることができるだろう。速さ以上に「強さ」を追い求める帝京大学の重要なエースとして。

試練の1年となった帝京大学。小野くんにとってもこのレースは重要な試練となるはずだ。そしてそれを乗り越えた時、改めて帝京大学と小野くんのランナーとしての実力が見えてくることになるはずだ。

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