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長門俊介「復活の道のり」

「かつては強かった」。スポーツにおいてこうした表現をされることは多々ある。駅伝においても今回2位に入った中央大学もまた、その類いに入るチームであることは間違いない。
日大・大東文化・山梨学院……実名を出して申し訳ないが、こうした大学は「かつての実績」とは裏腹に現在は……といわれてしまうことが多々ある。

山の神を擁するなど、都度11度も箱根駅伝で優勝を果たした順天堂大学もまた、そうした声があったことは事実だ。今井正人選手が卒業後から優勝はおろか、出場さえ危ぶまれるほどチームが弱体化していったことは記憶に新しい。長門監督はそうした危機的状況の中で、監督に就任した。

「最後の優勝メンバー」として。

「個性派集団」順天堂大学の大将

長門監督が箱根駅伝で優勝した際のメンバーであることは多くの人に知られている。
そして、当時の順天堂大学は多くの個性派集団がそろっていた。現在も指導に携わる清野純一さん、10区区間記録保持者でもあった松瀬元太さん、「ダブル佐藤」と呼ばれた逸材・佐藤秀和さん、そして今井正人選手が居た。
才能あふれる「個性派集団」のリーダーだったこともまた、多くの駅伝好きには知られていることだろう。

それぞれに一家言があり、必ずしもまとまらなかったという話もある当時の順天堂大学において長門監督は主将でありながら、1年時より「箱根を知る男」としてチームをまとめ上げてきた大将のような立場でもあった。

当時の順天堂大学を回想するものとしてこういう逸話がある。
「やる時はやる、遊ぶ時は遊ぶ」。こういったメリハリをしっかりと持つことで競技に集中ていたし、一方で私生活では仲良し集団でもなかったという話もある。

ある意味で「勝利」という一点だけに集中していたチームだったがために、それが結果として「悪い伝統」に変化を遂げてしまっていったのが、長門監督がコーチ就任当初に蔓延したチームの状況だったという。

そこの意識改革から始まっても、シード権を争うかどうかという状況のままチームが推移をしていく。一方で、育成という観点においては塩尻和也選手を輩出するなど、実績を残し確実に変化を遂げようとしていた。

そこには順天堂大学にあこがれて入学してきたある選手がいた。

メンタルを大きく変えたある存在

のちにオリンピック日本代表ともなる松枝博輝選手である。長門監督も彼の存在がチームのメンタリティーを大きく変えてくれたと振り返っている。

当初は自信がなさげできつい練習にも「挑戦したくてもできない」と嘆いていたほどの環境だった順天堂が大きく変わるきっかけとなった。

「順大にコーチとして戻って来たころは集団でやるはずのポイント練習も、(選手間の距離が)離れて当たり前という感じでバラバラになっていましたが、今は離れる者の方が少ない状態になっている。中間層のレベルが上がってきたということですね」

https://number.bunshun.jp/articles/-/829348?page=3

彼が主将に就任したのと塩尻選手が入学してきたこと。ここからチームががらりと変化をしていくこととなる。
「シードを狙うチーム」から「優勝を狙っていくチーム」に徐々に変貌を遂げていくためのである。

しかし、その間も2度シード落ちを経験しながらもチームは確実に強くなっていった。
その結果が結実したのが、昨年の箱根駅伝。優勝こそならなかったものの総合2位でのフィニッシュは実に長門監督が現役時代の2007年に優勝した時以来の3位以内という結果。15年かかってようやく、名門は再び「名門」となりそして「優勝候補」と呼ばれるまでになっていったのだ。

優勝まではまだまだ遠いが……

率直な感想を言えば、駒澤大学や青学に中央大学と比較したとき、箱根駅伝で優勝するのはまだまだ「タフ」な状況が続くと個人的には思う。それは松枝選手も三浦龍司くんも、本来は「トラック」の選手であり「駅伝」の選手ではないからだ。

駅伝という競技が日本独特のスポーツである以上はどうしてもそうなるだろうが、殊更箱根駅伝という競技になると本来持ち合わせている能力とは別の能力までも要求されることは確かだ。

しかし、その中でも2人のオリンピアンを育て上げたことは賞賛に値するものであるし、三浦くんはいくら才能がとびぬけていたとはいえ地元開催のオリンピックで見事に入賞まで達成するなど日本を代表する選手にまでなっている。長門監督の育成能力を含めた手腕の賜物といってもいいだろう。

来年より将来有望な生徒が順天堂には多く入学してくるという話もある。大きく覇権が変わるのではないかという話もあるほどだ。もしその有望な選手たちの才能をこれまで通り開花させることができたのならば……。

再びかつて紫紺対決と呼ばれた駒澤大学とのあの激しい戦いを見せた時代がまたやってくるかもしれない。

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