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井上尚弥は一通り語りつくしているので、そろそろノニト・ドナイレのすごさも語りませんか。

ということで、WBSSは大方の目論見通り井上尚弥が見事に決勝まで歩を進めた。

率直に言えば、ローマン・ゴンサレスという一つの目標が潰えたことで、彼のボクシングへの情熱は冷めてしまったのではないか……。と少しばかり不安になった。

何故かと言えば、彼自身が望んでいた「世界一強い選手」の一人であることに変わりはなかったからだ。だからこそ、よくぞ立て直したと私は心から拍手を送りたいと思う。

さて、今回はそんな井上尚弥と対決するノニト・ドナイレ(ドネア)について話そうと思う。大体井上の話はどこでも語られているので、そろそろこっちでも話そうかな、と。

◆ノニト・ドナイレとは誰なのか?

1982年生まれのノニト・ドナイレは、フィリピン生まれのプロボクサー。通称は「フィリピーノ・フラッシュ」。

軽量級とはおおよそ思えないほどのパンチの破壊力と、天性のカウンターのタイミングの良さで多くのKO勝利を奪った5階級制覇王者である。

特に衝撃的だったのはビック・ダルチニャン戦

当時、全盛期だったビック・ダルチニャンを圧倒し、最終的には一撃でガクガクにさせた試合は世界中を驚かせたことは記憶に新しい。

他にも、長谷川穂積と対戦したフェルナンド・モンティエル戦。

長谷川穂積を圧倒したモンティエルが、立ち上がれずにふらつく姿は文字通り衝撃的だったのは記憶に新しい。

この試合を境に、ノニト・ドナイレの「必殺の左フック」が徐々にクローズアップされていく。

◆「必殺の左」の幻想

後にウィルフレド・バスケス・ジュニアやホルヘ・アルセ、ギレルモ・リゴンドウ、ニコラス・ウォータースといった世界的な強豪と対戦するドナイレ。

だが、ここ数年は近年のキャリアの低迷はその「必殺の左」があったからではないかと考えている。

彼のファイトスタイルは、アマチュアボクシングで培った技術に裏打ちされた強打と高い左フックの破壊力だった。それはフライ級からバンタム級まではある種彼自身を大きく助ける強打となっていたのは事実だ。

しかし、スーパーバンタム級へと階級を上げたことで、同様にこれまでの戦い方が通用しなくなってしまったことはデータが示している。

2011年のオマール・ナルバエス戦までの実績では26勝1敗でKO数は17KOと軽量級では破格の数字ともいえる。しかし、ウィルフレド・バスケス・ジュニア戦以降からは14勝4敗で、KO数は9。多いといえば多いが、明確にKOで勝利しているのは格下で、格上相手には敗戦か判定が多い。

それは単純に体重の差とも言い切れる。恐らく彼がバンタム級に戻ってきたのはそれが理由だろう。

しかし、それ以上にスーパーバンタムへと階級を上げた彼は、あからさまに左フックで相手を倒すボクシングに終始するようになってしまった。結果としてボクシングが雑になり、相手は倒れなくなってしまったのだ。

良くも悪くも彼が持っていた「左フック」という強烈な一撃が、彼のボクシングキャリアを苦しめてしまっていたことは間違いない。

肩の手術によって、バランスが崩れたともいえるかもしれないが。

◆井上尚弥はドナイレを倒せるのか?

こうしてみると、井上は本当にドナイレとよく似ている。

かつてドナイレは怖いもの知らずでバッタバッタと相手を倒してきた。井上も「強い相手と戦いたい」と望み、そして相手を確実に蹂躙してきた。

相手がゾラニ・テテではなく、36歳のドナイレというかつてのスターであるという点は少しばかり残念ではあるが、興業的にはむしろこれはおいしいだろう。

ただ、忘れてはならないのは二人とも技術は極めて高いということである。

私は井上の中で高く評価したいのは右ストレートだ。非常にきれいで、かつハンドスピードが速い。だからこそ、ショットの左フックが非常に活きるのだ。

実はそれはドナイレも同じなのだ。ドナイレの左フックを食らったモンティエルはそのパンチの強さよりも「タイミングのうまさ」を説明。つまり「当て感」が抜群にいいのだ。かつ、ストレートなどを打つ技術は高い。

ただ、年齢がどうかという点で、勝利するのは井上だと私は思う。

さて、「日本のモンスター」か「フィリピーノ・フラッシュ」か。WBSSの決勝は9月になるようだが、今から楽しみでもある。

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