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石原翔太郎「葛藤」

ふと思う時がある。石原翔太郎という陸上選手にとって、東海大学のこの4年間はどうだったのだろうか、と。1年時の鮮烈なデビュー、2年時の故障。
3年時のバラバラになってしまったチーム。そして……最終学年。

例えば駒澤大学に進学していたら、彼はどうなっていたのか。例えば青山学院大学に進学していたらどうなっていたのか。例えば……。純粋に「石原翔太郎」というアスリートとしての彼をまだ見ることができていないように思える。

様々な経験をした今、私が石原くんに思うことは一つ。
「本当の石原翔太郎を見たい」ということだ。


押しも押されぬ東海大学の絶対的エース

実績と実力について今更説明するまでもないだろう。そもそも、彼以外で東海大学のエースと呼べる選手はいない。高い能力とそれに見合ったレースでの結果。総合優勝をした時の黄金世代や3学年上の3本柱がそうだったように、東海大学のユニフォームを身に纏った歴代の先輩たちのような「強さ」がにじんでいた。

それとは裏腹に怪我の多い選手でもあった。むしろ怪我との戦いが多くありすぎているようにも思えてならない。常にレースの中で120パーセントの力を出すことができる代償として成長過程にあった体は怪我に冒されてきた。

本当の意味で万全の状態として走ることができたのはおそらく入学後の1年間程度ではないか。体の面である程度問題が無かった大学3年の時にはチームは内部崩壊。結果として前回の箱根駅伝では15位という惨敗を喫した。

「練習のなかでも追い込める選手とそれができない選手がいるんですが、もっと追い込める選手が出てこないといけない。自分はふだんはひとりで練習をしているんですが、そこに誰もついてこない。そこに、どれだけみんながついてこられるか。自分に続いたり、追いかけるレベルの選手が出てこないと来年も厳しい結果になると思います」

https://sportiva.shueisha.co.jp/clm/othersports/rikujo/2023/01/12/

あまりに生々しいSportivaのインタビューの中にはおおよそ「あの厳しい佐久長聖を作り上げた両角監督のチーム」とは思えないほど、堕落した姿を見た気がしていた。

「葛藤」を覚えるのは自分だけかもしれない

東海大学の顛末は詳細が分からないにせよ、あまりにも醜く映る。創価大学へと転校した吉田響くん、その他退部していった有力な選手たち……。学生スポーツとしてまとまり切らない「何か」があったにせよ、ここまでの意識の低さはむしろ石原くんにとって足かせでしかなかったのではないだろうか。

これを覚えるのは自分だけなのかもしれない。結局最終学年となる今シーズンもまた、足底の負傷をしてしまい駅伝にはギリギリという形になった。

結局彼の100パーセントを見ることができたのは1年生の時だけとなる。彼自身の張り切りすぎてしまう性格を加味したとしても、本来の100パーセントの姿を見ることができた時間の少なさを今は少しだけ嘆いている。

ただ言えるのは、彼が今シーズンは孤独に身を置いていないということ。これは確かなことでもある。

残された課題

今季は後輩たちも練習から積極的に取り組み、シード権獲得に向け雰囲気も上がってきている東海大。エースである石原くんの意識の高さは他大学の選手からも一目置かれているほどだ。

だが、彼はどうしても張り切ってしまう性格だ。目一杯やってしまった結果、故障をしてしまうという経験を何度も繰り返してきている。そんな彼を両角監督はこのように評している。

「もちろん五輪を目指すような選手になっていってほしい。ただ、いろいろな部分でまだまだ未開拓なところもある。彼自身が『強くなるにはどうすればいいか』ということをしっかり考えてやっていけば、おもしろい選手になると思う」

https://www.rikujyokyogi.co.jp/archives/124618/

このコメントはおそらく、彼の張り切りすぎた結果伸ばすことができなかった伸びしろを指しているのだろう。伸ばしきることができなかったものは、来年SGホールディングスで伸ばしていくことになるのだろう。

そこはもしかすると、どこよりも彼にとって理想の環境かもしれない。100パーセントの石原翔太郎を見ることができるかもしれない。今もなお、孤高を貫く天才・佐藤悠基選手が在籍しているためだ。天才肌の佐藤選手とがむしゃらにやる石原くんは何でも対極に映るだろう。

だが、同じようにチームで孤高の存在だった彼のことを理解してあげられる先輩はきっと佐藤選手だけのはずだ。何よりも意識の高い選手たちが彼以外にも多くそろっている。

この4年間の葛藤を次のステージで晴らすことができるのか。最後の箱根駅伝が一つ、石原くんの中である程度でもいいので納得できる形となればいいな。そのように思っているのだ。

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