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櫛部静二「学問」

箱根駅伝の監督には様々なキャラクターや面白い経歴をたどる人が多くいる。例えば大八木監督に原監督、他にも帝京大学の中野監督。20人も監督がいれば20通りの「人間ドラマ」や「キャラクター」が多く存在しているのだ。

その中でも城西大学の櫛部監督は極めて異色な存在と言える。陸上部の監督でありながら運動生理学の研究者としての側面も持っているのだ。

当然、原監督をはじめとした各大学の監督の中には大学教授としての「肩書」を持っているが、櫛部監督にとって駅伝や陸上競技の指導はさながら「学問」の一つのように思えてならない。

そしてそれが、城西大学という大学のどこか不思議な空気感につながっていると私は感じている次第だ。

挫折と栄光を味わった学生時代

櫛部監督を語るうえで決して欠かせないのが箱根駅伝での挫折だ。1年次から花の2区で起用されながらもレース前の食中毒と体調不良が重なり蛇行を繰り返す様は、その大会のハイライトシーンとして今も語り継がれている。

その悔しさをバネに発奮した翌年は2区を激走、3年次には1区で区間新記録を樹立し、早稲田大学でも監督を務めた渡辺康幸さん・現監督の花田勝彦さんらとともに早稲田大学を箱根駅伝の総合優勝へと導いたのだった。

この挫折は、のちに城西大学でも途中棄権で涙を吞み、後に城西大学のエースとなった石田亮選手への励ましへとつながり、また城西大学が悲願のシード権を獲得へとつながる大きなきっかけともなっていく。

櫛部監督は決して研究者と言えど選手を一人の人間として接していることは言うまでもない(今回の山本くんの「山の妖精」にしてもそうであることは明白だろう)。しかし、その中でもとても素晴らしいのは様々なアプローチから選手を強化していくこと、指導者としての考えを発信し続けていることではないか。

「異例」ともいえるnoteでの発信

現在、多くの大学が中央大学や東洋大学ではYouTubeなどを使うなど発信をしている。またinstagramやFacebookといったSNSを利用した発信を多く行っている指導者が大半だ。

その中で櫛部監督はnoteにおいてチームのことから指導理論や指導者としてのスタンスを発信していることだ。これは多く大学がある中でも極めて珍しいと言える。

国内外の研究や事例報告、他のチーム指導者から学び、そして他競技、多種目からも参考にして、新しいトレーニングを積極的に取り入れるよう努めています。その中で感じたこと、そして私なりのトレーニングの考え方をここで示していきたい

https://note.com/josai_m_ekiden/n/ne28ce5b5e680

こうした面からもアウトプットを行い自らも成長をしていきたいと旺盛な一面を持ち合わせている。

興味深いのは先日引退されたオリンピアンである山口浩勢さんのエピソードについてだ。

中村匠吾選手が駒澤大学を拠点として指導を受けていたことはあったが、城西大学においても山口浩勢選手がこうして指導を直接受けに来るという部分でも非常に興味深いものがあった。

当然、今だからこそお話ができる部分も多々あるのだろうが、自らこうしたエピソードを明かすというスタンスは極めて珍しい。これもまた、櫛部監督の魅力の一つであり、城西大学から「尖った」選手が出てくる要因なのかもしれない。

まだ「何かを起こす」可能性を秘めている

企業と共同でアスリート向けのドリンクを発表したり、2020年には論文の発表をしたりと忙しい日々を過ごす中でも、砂岡拓磨選手や村山紘太選手のような際立った選手を育成するなど、指導者としてもまだまだ進化を続ける櫛部監督。

決して他大学と異なり、戦力が揃う環境にないこともまた事実と言えば事実だ。しかし、時たま箱根の道を沸かせそして衝撃を与え続ける櫛部監督の挑戦はまだまだ終わる気配を見せない。

今回2区を走った斎藤将也くんと留学生のキムタイくんは1年生、そして山の妖精こと山本唯翔くんがそのまま残る来年は、往路でもしかすると優勝候補と呼ばれている大学をまた脅かすだけの可能性を十分に秘めていると私は考えているのだ。

実際に勢いに乗ったら手が付けられない。そういったチームでもある城西大学には来年もまた「何かを起こす」だけの可能性を十二分に秘めているといってもいいだろう。この1年も櫛部監督をはじめとした各部員たちは試行錯誤を繰り返しながらも、着実に前へと進んでいくだろう。

その時櫛部教授の研究結果はいったいどのようなものとなるのか……。箱根路をひっくり返すような驚きを来年の年明け目の当たりにできるのかを私はひそかに期待したいと思う。


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