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三浦龍司「両立」

全日本大学駅伝のレース展開を見ていて強く感じたことが一つあった。三浦龍司くんから明らかにあの時のような「恐怖」をまるで感じることができなかったということだ。

レース展開的に見ても1区から出遅れ、そこから5人抜きをしたというのは傍から見れば「快走」ではある。しかし区間8位。洛南高校の後輩にあたる佐藤圭汰くんには1分03秒も遅れてしまった。

傍から見ると「凡走」にも映る走りとは裏腹にトラックシーズンについては非常に輝かしい結果も残した。


世界陸上6位・ダイヤモンドリーグ5位

6月9日、ダイヤモンドリーグパリ大会において彼は3000メートル障害の自己ベストを更新した。数字にして0.01秒での自己ベスト更新。
それと同時に日本記録も上回り見事に自己ベストを記録したのだ。

その後も快進撃は続き、今年ブダペストで行われた世界陸上では3000メートル障害において日本人史上初となる6位入賞と大健闘。パリオリンピックへと向けて、確実に表彰台へと近づきつつあることを示してくれた。

早い段階からトラックレースや世界の舞台で結果を出す。これは現在長距離ランナーにおいては極めて難しい「課題」でもある。それはある意味で駅伝というお正月に行われている大会が障害になっている可能性もはらむ。

また、箱根駅伝も大学側からすれば最大のプロモーションとなる。
「世界で活躍する三浦龍司が所属する順天堂大学」というのはある意味でブランドでもあり、また決して避けて通れないものでもある。

駅伝とトラックの兼ね合わせ

世界を転戦し、早くも名が知れた名ランナーとなった三浦くんだが、箱根駅伝での成績は決して芳しいものとは言えない。
1年次は1区区間10位、2年時は2区区間11位、3年時は2区区間12位。本来期待されたような成績を駅伝では残せてはいない。そこには3000メートル障害と駅伝での両立の難しさを物語っている。

2区順天堂大学記録を持つ塩尻和也選手もまた、3000メートル障害と駅伝での両立に悩まされた選手の一人だ。富士通入社後も3000m障害で世界を目指し、2019年ドーハ世界選手権の出場権を得たが、負傷で欠場を余儀なくされた。その後は主戦場を5000メートルと10000メートルに主戦場を移し、昨日10000メートル日本記録を樹立した。

期待されていた3000メートル障害での結果は決して芳しくなく、歴代ベスト10からも漏れてしまった一方、塩尻選手は駅伝での記録は目覚ましいものだった。

出雲および全日本大学駅伝のようなトラックの延長線上にあるレースで活躍できる一方、箱根のような長く特殊な区間では相性も良くないのかもしれない。それでも、だ。最後の箱根では彼本来の切れ味鋭いラストスパートで躍動する様を。

「世界の三浦」は箱根で躍動できるか?

昨年チームの躍進を支えてきた伊豫田選手を始めとした選手たちは卒業している。もう一人のエース候補である石井一希くんも決して駅伝では芳しくない。
「まだかみ合ってないのかな」。そう感じている違和感が全日本にはあったようだが、果たして最後の箱根でどれだけ巻き返すことができるだろうか。

「この危機的な状況を救うのはエースであり、キャプテン」と長門監督からも期待を寄せられる最後の箱根もまた2区出走は決定的だろう。すでに駅伝選手という枠を超えて「世界の三浦」となっている彼が、いくら競技が異なるとはいえこのままで終わるのは個人的にも寂しい。

何より「駅伝との両立」という難しい選択をしたからこそ、得ることができた答え。それを箱根路で表現してほしいのだ。それが終わってからでもパリに思いを馳せるのは決して遅くはない。

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