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本山雅志「さらば天才」

日本を代表する名手がまた、スパイクを脱ぐこととなった。本山雅志。黄金世代と呼ばれた世代で早くから世界に讃えられた天才だった。

男子の全カテゴリーの中で唯一決勝戦まで進んだワールドユース。小野伸二と並んでベストイレブンに選ばれている天才も気が付けば今年で44歳になる。
黄金世代と呼ばれた彼らはまさに突出していた。同じチームになる中田浩二はもちろんのこと、高原直泰に稲本潤一、小野に小笠原満男までいる。挙げようと思えばいくらでも挙げられるような年代だ。まだ現役を続けている選手だっている。

天才にあった「難」

だが、ジーコジャパン時代には何度も召集されたが、結果を残すことができずに代表から去ることとなった。それでも鹿島での立場はより重要性を増していくばかりとなった。仲間がヨーロッパへと飛び出していく中、弱音を吐かずに本山はプレーをし続けた。
かつて鹿島の黄金時代を築いたオズワルド・オリヴェイラは「フィジカルに難がある」事を除けば戦術的な理解度やゲームを読む力は五本の指に入るほどの力があると評価している。一番相手が使われたくない場所でプレーできる選手であり、サッカーをよく知っている選手として本山はリーグ3連覇に貢献し続けた。

先天性の水腎症に椎間板ヘルニアといった、フィジカル面の問題。オリヴェイラがそれを惜しんだほどの才能はそれでも輝き続けた。50メートル7秒5という足の遅さと体の弱さ、病気との戦い。それさえなければ彼もまた海外へと飛び出していたはずだ。だが、彼はJリーグで証明し続けた。ピッチにいるだけで、違いを生み出すことができる選手として。

仲間にも恵まれた。小笠原満男は3連覇を達成したオリヴェイラ時代に無くてはならない存在であったし、中田浩二に曽ヶ端準もそうだろう。
ジーコから始まった鹿島アントラーズのメンタリティーを伝え続けていく仲間たちによって本山は輝きを放ち続けてきた。

「鹿島のDNA」を受け継いでいた一人

鹿島アントラーズは独特なメンタリティーを持ったJリーグでも数少ないチームだ。鹿島のサッカーは他のクラブにはない唯一無二の雰囲気を感じる。独特のメンタリティー、それを受け継いだ黄金世代、そして内田篤人に大迫勇也。鹿島アントラーズを語るにはその独特な風土から語らなければならない。
それくらいの雰囲気があるクラブはJリーグのトップクラブでも数えるほどしかない。レッズにマリノス、フロンターレ……積み重ねてきた「愛」や「魂」。そういったものを丁寧に重ねてきて気が付くとJリーグも30年という歴史が出来上がった。アントラーズはその中でもずっとトップを走り続けてきた。

培い、育ててきたこの歴史は、若手へと受け継がれていくべきものである。今残る選手たちは鹿島のDNAを受け継いでいく選手であり、そして新しい鹿島アントラーズを作り出していかないといけない。困難な状況にある今だからこそ、なのだ。

かつて本山は間違いなくその中心にいた。18年間で積み上げたタイトルは21を数えた。年を重ねるごとに出場機会を失い、移籍した北九州でも2019年の出場試合数は0。マレーシアへと渡りやり切ったと思うまでサッカーをすることができたのだろうか。
「でも、ずっとそうやって競争してきたわけだから」
本山は言い切って日々練習に励んでいた。

その姿を見て、柴崎岳というゲームをコントロールできるプレーヤーが出てきて、遠藤や土居といった中堅がチームを固めていたかつての鹿島。かつてビスマルクやジーコを追いかけていた本山は、いつしか追いかけられる側となった。そして追い越される時が着て鹿島を去っていった。

そうやってクラブは血を入れ替えていく。思いや強さを残していきながら、老兵は若いプレーヤーに全てを託していく。しかしそれは「もうできない」からではない。本山雅志にはまだまだサッカーに携わってもらわないと困るのだ。

「天才」の煌めきを心から願う

「まだピッチに立ち続けたい」と話し、「ここから新たな挑戦が始まります」と鹿島を出て行った本山。

8年経った今月1日、慣れ親しんだスタジアムで現役を退くことを発表した。それは鹿島アントラーズというクラブが本山雅志にできる最大のリスペクトではなかったか。
「サポーターの皆さまに支えられた。大した選手ではなかったが、ここまでできたことを誇りに思う」
腰の低い本山らしい言葉だがそんなことはない。彼という存在が居なければアントラーズは常勝軍団として今の今まで歴史を重ねることなどできなかったはずだから。

「今後はいろんなことにチャレンジできれば」そう語った本山の次のステージは、まだわからない。選手としての彼の挑戦は終わる。しかし、鹿島の時代を支え続けた天才MFはきっと次の場所でも、また輝かしい活躍をしてくれる。

私は心から信じているし、何よりも心より願っているのは彼を愛した人たちのはずだ。

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