見出し画像

玉城良二「活気」

75年連続出場という現在続いている連続出場記録の中でも最多の記録を持つ日本体育大学。しかしながら近年は「監督不在」の時期もあるなど常に出場の危機にさらされてきた。

その中で女子駅伝の監督として多大なる実績を残してきた名監督、玉城良二さんが就任したのが2020年からである。駅伝王国と呼ばれる長野県の公立校、長野東高校を都大路で2度2位に導く実績を残した彼が就任したのは一通りの引継ぎなどが完了した6月からのことだ。

混迷を極めていたが、この数年シードは逃しながらも着実にチームに変化が起きていることは間違いない。

伝統校らしからぬ「活気」

「学生は親元を離れて、日体大で頑張っている。私は親の立場となって学生のことを考えたい。ちゃんとご飯を食べているだろうか、けがなく練習しているだろうか、勉強もやっているだろうか、選手の親御さんは常に子供のことを心配しながら一生懸命に仕送りをしている。親と同じ気持ちで学生に接しています」

https://hochi.news/articles/20200730-OHT1T50239.html

就任当初、玉城監督を紹介する記事にはその暖かな人柄が触れられていた。前任監督の渡辺正昭さんは高い指導力と保護者に慕われていた一方で、大変厳しい人柄で有名だった。
彼を比較対象としてあげるのは忍びないが、遅かれ早かれもし続いていれば……。東海大学のように内部崩壊が起きていても何ら不思議ではなかっただろう。

というのも、解任された理由が選手への暴行およびパワハラと認定されるほどの行き過ぎた暴言。実際に豊川工業高校でも体罰で退職となっているなどある意味で「対極」にいる存在だ。

元より性別の異なる選手を指導し、時には下宿をさせていた玉城監督はなおのこと一方通行のやり方では選手たちの心も動かない。それを分かっていたのだろう。そうしたものが積み重なり、長野東高校は前回の都大路を制するなど着実に力を付けている。

また、日体大でもこれまでの旧態依然とした体育会系からメリハリを重視した風通しの良い組織に変化を遂げている。緩和された上下関係とともに現在健志台キャンパスには活気あふれる声が戻ってきている。

では、肝心の競技の結果はどうだろうか。

まだまだ。だが確実に……

率直な意見を伝えるならば、まだ箱根駅伝優勝・シード獲得という面では程遠い。渡辺氏が率いていた時と実績という面では明らかに異なる。
一方で個々の力という点においては池田耀平選手に今年春に卒業した藤本珠輝くんなど、きらりと光る選手たちが出てきている。

また、前回は「思い出したくない」と玉城監督が後悔した箱根駅伝でも1区の山崎丞くんが次期エース候補に名乗りを上げる好走を見せ、3区まではシード権が見える辺りまでのレース運びを見せた。結果としてレースは総合17位と前回と変わらぬ成績に終わったが、その中でも復路11位という結果は来季に向けての希望といっても良い。

「4区、5区が……」と玉城監督が悔やんだのも納得いくほど、あと一歩が足りなかっただけに、来期はさらに力を付けてくるはずだ。
特に往路を経験した選手は藤本くん以外来期に残る。男女混合駅伝でも優勝を成し遂げただけに、さらなるレベルアップも期待できるだろう。

何よりも。渡辺氏より大きく変わった……。そう思えるシーンが「もうひとつの箱根駅伝」で感じ取ることができた。

「父」として

1区を走った山崎君が発した一言。「タスキかけてもらえますか?」

その言葉に「なんとも光栄な」と語りながら嬉しそうにかける玉城監督。おそらくだが、これまでの日体大ならばなかった光景だった。選手との関係性の改善などが図られ、確実に日体大は強くなってきていることがわかる。

今回の予選会ではエースだった藤本くんの欠場もあった中で5位での予選通過だった。藤本くんを欠きながらもチームとして強くなっている今、日体大も着実に上位を狙う力が付き始めていると感じる。

全員一丸となって76年連続の出場を狙う日体大。チームの風通しが徐々に良くなっていく中において「父」でもある玉城監督の存在は欠かせない。就任当初、彼はこのように語った。

速くはないけど、弱くないチームをつくります

https://hochi.news/articles/20200730-OHT1T50239.html?page=1

決して「弱くはない」チームに徐々になってきている日体大がさらに上へと進むには、もう何ランクもレベルアップをする必要がある。しかし、それすらも可能にできるだけのチームに今なりつつある。

優しくどっしりと見守る玉城監督の優しさと想いが、浸透しつつあることを誰もが知っているからだ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?