bathroom__1-3
僕ら暮らしている街はコンビニの
レジ袋みたいなうるささで
ガソリンみたいな色した夕焼けが
うるさい街をドボドボと染めた
君の秘密になりたい-PK Shampoo
白のニットは肌を時々刺激して、どこかくすぐったくなるときがあります。それでなくてもブラジャーが擦れ、インターや下に着ている服が擦れてくすぐったさとも違う感覚が生まれてきます。同じ日を繰り返しているにもかかわらず、ぼくは日常の中でも心と体が解けそうになってしまう。そんなことが最近は良くあります。瞬間的にグッと我慢すると、解けそうになったぼくの顔を見て、彼女が笑うのです。
「良いのよ、その呆けた顔が好きだから」
「そうなの?」
首をかしげて、ぼくは鍋へと目を落とすと、また彼女は笑います。鶏肉と野菜が入った鍋を、また食べ始めました。こらえた顔から少し、体が解けそうになるのを堪えることができません。
「おいしい」
こぼした言葉に彼女は笑います。出汁を吸った白菜にきのこと、なんといっても豆腐が良い。豆腐がうまい鍋はいい鍋だと、そういえば昔、中野竜哉が笑って言っていたのを思い出します。その意見はまったく正しいと、ふと気が付き思い出すのです。その意見に限って、ならばですが。
またぼくは笑みをこぼし、それに彼女も笑い返してくれました。循環していくのが分かります。ぼくは鍋に白飯を、彼女は鍋でビールを。食し、それからゆっくりして、ぼくたちはいつも夜の街へと繰り出します。その繰り返しをただただやっているだけなのです。こうして何度も何度も同じ空間で同じように循環している間に、気が付けばぼくたちの世界は様々な景色を様変わりさせていました。それでもぼくたち二人の空間は、ただ時間が止まったかのようにここに存在しているのも、ぼくは知っています。
「良く昼間からビール飲めるよね」
「あら、鍋の時にはビールこそ最高よ」
「そういうものかな」
「だってきみも、朝から白飯をもりもり食べているじゃない」
「鍋の時にはご飯を食べるのが好きなんだ」
「そういうものなのね」
「そういうことさ」
また、会話が途切れて、鍋へと視線を落とした。彼女は白菜と肉、ぼくは豆腐とキノコ。ビールと白飯。別に呑めないわけではないけれど、昼からは遠慮をしたいと感じておりました。そうして棲み分けをしながら、ぼくたちは今も互いにこの世界を循環させていたのです。しかし、確実にぼくと彼女の境界線は崩れて行っていることも事実でした。穏やかに、循環は終わり始めているのです。取り皿にぼくの顔が映ります。ぼくは彼女という女の手によって、まるで違うぼくへと化えられている事を分かっていました。つけまつげを付けられて重たくなった目で、ぼくはぼくをただ見つめてそれから箸を進めます。
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