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山口廉「地金」

76年連続の箱根駅伝となる日体大をけん引し、そしてタイムを稼ぐ役割に徹したのは大森椋太くんと、山口廉くんだった。

全体19位で1時間02分24秒とタイムを稼ぎ出した一方で、彼は5000メートルで14分08秒15、10000メートルで29分26秒96と決してスピードがあるランナーとは言えない。それでも玉城監督から信頼され「タイムを稼ぎ出す」という役割を担ったのは、彼が鍛え上げてきた地金にある。


1人で黙々と積み上げてきた強さと才

予選会では15キロ過ぎに東京農業大学の前田和摩くんが飛び出す中、ともに飛び出し前田くんの前を追っていく。彼の夏場でも28分台を出す「才能」とは逆で山口くんは「積み上げてきた努力」で追い上げていった。

「後ろでまとまって集団走をしている仲間のことは信じていました。(10km通過順位は20位という)情報は入っていませんでしたが、絶対に大丈夫だって。僕はタイムを稼ぐことだけを考え、ひたすら前を見て走りました」

https://4years.asahi.com/article/15034254

結果としては前田くんの前に敗れるも、19位という結果。そして厳しいコンディションの中でもハーフマラソンの自己記録をたたき出した「強さ」はこの一年彼がどれだけ積み重ねてきたかを裏付けるものであった。

元々高校時代は名門・大牟田高校で都大路を走り6区区間5位という成績を残した逸材。しかし、大学では思うような結果を出せず苦しんだ。昨年は2か月に1回のペースで故障を繰り返し、予選会さえ走ることができなかった。

距離を踏むために昨年は12月から1月にかけては週に1度、1人だけの「2時間走」を敢行。1km4分ペースで約30kmを走り、土台を築き上げてきた。また、補強トレーニングにも精を出し続けた結果、練習から強さを見せることができるようになっていった。チームで信頼を得ていくことができるようになっていったのは必然のことだろう。

とはいえ、この1年で大きく変貌を遂げたことによるもののようだ。
チームを支える赤池主務によると「昔は少し過信するところがあった」という。結果として伸び悩んでいたのはそれがあった。

本戦で戦うために準備してきた

挫折を味わったからこそ得ることができたものもあったはず。行動で示し、そして結果としてチームの信頼を得ることができた山口くんは恐れることなく攻め続けて日体大の予選通過に大きく貢献したことは今更説明するまでもない。

赤池主務も同じことを感じ、そして彼を「エース」として認識しつつあるようだ。

「少しずつですが、エースになりつつあると思います。また調子に乗ると困るので、本人にはあまり言いたくないんですけどね(笑)」

https://4years.asahi.com/article/15034254

調子に乗るなよ、とくぎを刺しながらではあるが。
とはいえ、彼が挫折を経て鍛え上げてきた地金がそう揺るぐことはないはずだ。何よりも、山口くん自身がまだ満足をしていないからだ。

「僕は本戦で戦うために準備してきました。箱根路では、往路で勝負したいと思っています。希望は1区、2区、3区、4区までの区間。監督に任された場所で、区間5位以内で走り、日本人トップを狙いたいです」

https://4years.asahi.com/article/15034254

その言葉、決意。彼が箱根路で表現するまでにもう2週間は切っている。決して目立つことはないがエース育成に定評のある玉城監督の下で、彼が新たな柱となれるかどうか。それはそのまま日体大の順位にも反映されるはずだ。

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