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「理解し得ない」の存在を受け容れるか否か;科学の定義と差別の素地に関する私観





第1節 祖母からの言い伝え



【1】祖母からの言い伝え


 「人の名前を朱書きしてはならない。」

これは祖母からの言い伝えだ。なぜかといえば、人名を赤色で記すことはその人が死んだことを意味するためだという。(詳しくは割愛する。)





【2】蛙



 大学4年生のある日、この言い伝えを友人に教えたことがあった。「教えた」といえば仰々(ぎょうぎょう)しいが、本当になんでもない、ただの話の流れであったはずだ。そのとき、私のレッスンを聴講し終えた友人は口元に粘っこい蔑(さげす)みを絡ませながら次のように言った。

『意外過ぎて笑っちゃうわ。君がそんな「非科学的」な迷信を信じるなんて。他でもない、知性と理性のアンドロイドと称される君が。』

 ひんやりとした、重力に従った隔(へだ)たりが私達二人の間に滴(したた)り落ちた。何百か、否(いな)、千を超える粘膜的、かつ、残酷性と愛玩性とを併せ持った四肢付きの水袋。

 その滴りは、そう、蛙だったのかもしれない。もしも、そうだったとすれば、私は「それ」が放つ独特な陰湿さによって、二人が出逢った頃から既に「それ」を肌で捉えていた。けれど、それが何であるのかを理解し得なかった。故にそれが怖かった。「自らが理解し得ないこと」=「不可解」は誰だって怖いものだ。今振り返れば、その頃の私は「不可解が存在すること」をある種受け容(い)れられなかったのだろう。だから、その怖(おそ)れを打ち消すためにそれを理解した振る舞いをしていた。しかし、理解者を演じようとも、その不可解は永遠に不可解であり、同時に恐怖であり続けた。そのため、気が付けば私は、不可解を理解すること自体をも拒絶していた。そして、いつしか、事の発端であった不可解に対する怖れへと還(かえ)り、同じ反応の連鎖を終わりなくリピートしていた。驚くことに、その卵が産み落とされてから、それが孵(かえ)り、幼体を経て、さらには生殖機能を備えた成体となった今まで、ずっと。

 このとき、長い時間怖れに凍(い)て付いていた既視感と生まれたばかりで熱い血の巡った未視感とともに落下した個体の数は、ひょっとすれば、私がそれの存在を否定し続けた日の数と同じかもわからなかった。

 ちなみに、私は大のおばあちゃん子だった。





第2節 科学とは何か?



【3】科学の定義としての常時反証可能性



 さて、「科学」とは何であろうか。それを定義付ける条件とは一体何であろうか。この問いに昔、ある男が遺(のこ)した答えが「常時反証可能性」だ。

 このうちの「反証」とは「実証」の反対で、ある命題を誤りだと証明することだ。だから、常時反証可能性の意味は「いつでも(=常時)、誤りだと証明(=反証)し得ること(=可能性)」といったところである。そして、ある命題がこの常時反証可能性を持つとき、その命題は科学的であって、一方で命題にこれがないとき、その命題は非科学的だと彼は唱えた。





【4】命題の科学性の判断例


 具体例を挙げよう。例えば、下の命題A~Dのなかで科学的なのはどれだろうか。ただし、ここでは現代における一般的な認識は思考材料に入れずに、あくまで常時反証可能性の有無に照らして考えてほしい。



  水の沸点【註1】は100℃である。

  カンガルー(哺乳類(ほにゅうるい)【註2】の一種)は胎生(たいせい)【註3】動物である。

  太陽は西から昇り、東に沈む。

  祈りは世界を平和にする。




註1 沸点

 液体が沸騰するときの温度。




註2 哺乳類

 脊椎(せきつい)動物を特徴によって分類したグループの1つ。

 私達「ヒト」を含む。他にはイヌ、ネコ、トラ、ライオン、ブタ、ウシ、ウマ、シマウマ、キツネ、タヌキ、サル、ゴリラ、コアラ、ナマケモノ、パンダ、レッサーパンダ、リス、ハリネズミ、カピバラ、サイ、キリン、クマ、ゾウ……とか、そんな感じ。

 これだけ多くの例を見れば、そのイメージがなんとなく掴(つか)めると思う。(陸の上に暮らす、泳いだり飛んだりしない「THE 動物園」的な生き物。みたいな。)


 ところがどっこい!?

 実はカバ、コウモリ、アルマジロも哺乳類だよ。それから、ラッコにアザラシ、カモノハシ、あとはイルカやクジラもこのグループなんだ。(それと誰も訊いていないが、私は牛乳が大好き。)




註3 胎生

 子どもの生まれ方の1つ。

 子どもが母親の体内で養分を受け取って、ある程度成長した後に生まれること。

 ちなみに胎生と対(つい)である「卵生(らんせい)」とは卵のまま母体から外に産み出されて、その後卵から孵ることをいう。



 ♪ Thinking time ♪

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正解は………


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