見出し画像

弁理士が画像生成AIと著作権の今後について文化庁の文化審議会小委員会の資料から少しだけ読み取れることを書いてみる

昨日、文化庁で文化審議会著作権分科会法制度小委員会の会合が開かれたみたいです。
筆者は趣味で画像生成AIも嗜んでいるので、これらの動きには強い関心を持っています。

議事録が出ていませんので、現時点では何が話し合われたかわかっていませんが、配布した資料には文化庁の考えていることがにじみ出ているので、それらを1つ1つ見ていこうと思います。

https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkashingikai/chosakuken/hoseido/r05_01/pdf/93918801_03.pdf

論点になっているのは3つ

(1)学習用データとして用いられた元の著作物と類似するAI生成物が利用される場合の著作権侵害に関する基本的な考え方
例えばAIでイラストを生成したときに、元のイラストと似ていたら著作権侵害になるの?という点

(2)AI(学習済みモデル)を作成するために著作物を利用する際の基本的な考え方
→今回の資料にはこの論点の内容はなかったように思います。
 日本においては著作権法30条の4で非享受利用(つまり学習済みモデルを作成するまで(AI生成物の生成までは含まない)は基本的に許容されています。

(3)AI生成物が著作物と認められるための基本的な考え方
→AIが作ったイラストは著作権が発生するの?という点


https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkashingikai/chosakuken/hoseido/r05_01/pdf/93918801_03.pdf

まずこの図は初めて見たかもしれません。
かなり具体的な事例に踏み込んでいますね。
詳しい人のために事例を当てはめてみると、「AI開発者」は、例えばStabilityAI、「AIサービス提供者」は、例えばNovelAI、「AI利用者」はもちろんただの個人も含むそれらのユーザーといったところでしょう。

「基盤モデル」は何なのかわかりませんが、脚注で「それ自体はコンテンツ生成には用いられない」と記載されていることからすると、
「Stable diffusion 1.5」や「SDXL1.0」かそれらの上位の概念を表しているのかもしれません。

ここで「生成AI(推論用プログラム)」が、「AIサービス提供者」と「AI利用者」にまたがっており、かつ、「追加学習プログラム」も載せられていることからすると、例えば「Stable diffusion web UI AUTOMATIC 1111」のような、ソフトウェアを指しているのかもしれません。

複製行為はかなり複雑に類型が分けられています。
例えば一般人がNovelAIなどを使ってイラストを作る場合は、図中の「複製⑤」に該当するのでしょう。
「複製⑤」に関するこの図上の説明からは、それが、t2i(text to image)によって生成されるものなのか、i2i(image to image)によって生成されるものなのかはわかりません。

また、生成した主体についても、「AIサービス提供者」と「AI利用者」の両方について論じる用意があることが、この図から分かります。

この図をつかってどのような話し合いが行われたのかは今後明らかになっていくでしょう。今回はこの図はある程度スルーして次ページ以降の論点に触れていきたいと思います。


https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkashingikai/chosakuken/hoseido/r05_01/pdf/93918801_03.pdf

著作物が複製されたかどうかを判断するには、類似性と依拠性の2つの観点が重要であるとされています。
そのうち、類似性については、まあこれまで通りでもいいですよね?人間が描いたイラストとAIが生成したイラストで何か違いますか?ということを文化庁は言いたい感じに書いてあるように思います。このスライドの趣旨はそういうことでしょう。

https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkashingikai/chosakuken/hoseido/r05_01/pdf/93918801_03.pdf

一方で依拠性については、AIイラストの生成時には、t2i(text to image)による場合と、i2i(image to image)による場合があることから、それらを場合を分けて論じています。
ここで、上側の青線で囲まれたボックスではi2i(image to image)について論じており、簡単に言えば、i2i(image to image)では、イラストを生成する際に、別のイラストを下敷きにして生成するものですから、そもそもその下敷きになるイラストを知っていますよね?依拠していますよね?依拠していると言っても過言ではないですよね?といった感じが読み取れます。

この点については、AIイラストコミュニティなどでも従来から論じられてきたことであり、新しい論点ではないように思います。

しかし、下側のオレンジ色の線で囲まれたボックスでは、
t2i(text to image)において、生成を指示した人間が、元のイラストを知らなくても依拠する場合があるのではないか?
と指摘されています。

特に、「AI利用者が当該既存の著作物を知らないことのみをもって、依拠性が否定されるか」との記載からは、
「あなたが知らないと言ったからといって、このAIは学習済みですよね?」とでも言いたげな雰囲気を感じます。

そこで、《依拠性が認められる場合に当たるか今後検討することが考えられる例》として、
① AIが当該既存の著作物を学習に用いていた場合
② AIが当該既存の著作物を学習に用いたことに加えて、当該既存の著作物をそのまま生成するような状態になっていた場合
について、今後検討していくようです。

②は学習データの範囲が狭い場合ですよね。
Civitaiに上がっているような特定キャラクター特化LoRAや、ふつうにモデルとしてのcheckpointやsafetonsorファイルとしてもそういものはあるので、まあ依拠してるんじゃないかな、という感じは理解できます。
①の場合の、使用者(人)は知らなくて…依拠となってしまうケースには強い懸念と関心があります。
実際流通しているモデルがどんな出自のものなのかはさっぱりわかりませんし、そのモデルが特定のイラストを学習したかどうかなんて、どうやって証明するのだろう、机上論では?という気もします。

また、さらっと「(⇒学習に用いてすらいない場合は、依拠性なしと考えてよいか)」とも述べられており、そもそも学習データにそのイラストが含まれていなかったら依拠もなにもないですよね、ということかと思います。

続いて、最後に、

https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkashingikai/chosakuken/hoseido/r05_01/pdf/93918801_03.pdf

AI生成物の著作物性についてですね。
これも新たな論点は上がっていないようで、過去の委員会報告書の列挙に留まっていますが、最後にオレンジ色のボックス。
「昨今の生成AIの利用の実態を踏まえた「創作的寄与」の更なる具体化は可能か(指示・入力(プロンプト等)の分量・内容、生成の試行回数、複数
の生成物からの選択、生成後の加筆・修正等はどのような影響を与えるか。著作物性は生成物全体に限らず部分的に認められる場合があることに留意。)」
との記載は、示唆に富んでいます。

まだ判決はありませんので、界隈の学者さんや判事さんが考えていることですが、「テキストプロンプト」のみから出力されたAIイラストは著作物性を獲得するのは難しいのでは?加筆・修正などが必要では?と言われています。
しかし、この文化庁の資料には、「プロンプトの分量」、「生成の試行回数」、「複数の生成物からの選択」が明記されたという点で、朗報になる方には朗報かもしれません。今後の議論を見守りましょう。
また、「著作物性は生成物全体に限らず部分的に認められる場合がある」という記載は、例の米国著作権局の「夜明けのザーリャ」の例のように、明らかに人間が書いた部分だけ著作物性を認める、例えば手書きで修正した部分だけ認める、といった著作物性の獲得の仕方があるのかもしれません。

手書き修正したら、その修正部分だけ著作権を認める…というのはちょっとしょっぱいなとは思います。

本日はここまでで、また議事録が出たり新たな会合が行われたら追っていきたいと思います。

前川知的財産事務所
弁理士 砥綿洋佑