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怪談の著作権は誰のものか?弁理士が怪談知財を考える

夏の暑い時期に寒気がするような怪談をひとつ、ではございませんが、ちょうど一年くらい前にこういったもめ事がございました。

Amazon primeで配信されていたエンタメ~テレの番組「超ムーの世界R」で芸人のキック氏が披露した怪談が他人の著作権を侵害しているというのです。

作家の小原猛氏の著作物である書籍の内容をそのまま用い、番組側も著作権侵害である可能性が高いと判断して配信を中止したようです。

沖縄の小原氏といえばこの怪談界隈では有名ですから、普通はパクってしまおうという発想にはならないはずですが・・・。問題が発覚したのも、ファンからの通知であったようですので、怪談ファンは細かくウォッチしているということです。

当初小原氏は訴訟も辞さないような姿勢であったようですが、その後の情報は聞きません。番組の配信自体が中止されたということで訴訟対象物がなくなったわけですから、訴訟は行わなかったか、取り下げられたのかもしれません。


当時かなり話題になっていました。大変興味深く見守っていたので、風化しないように記事にしようと思いました。

そもそも怪談に著作権は発生するのか?

基本的に起きた事実を記録しただけのものなら著作権は発生しないと考えられます。上記の事件についてもこの分野では著名な弁護士の福井健作先生が的確なコメントをされていますので私のような一弁理士がこれ以上申し上げることはないかもしれません。

怪談蒐集家が本を出版するときに具体的な表現でどこまで創意工夫できるかは頭を悩ませるところではないでしょうか?
「新耳袋」のように、淡々と事実が書かれているような方が怖く感じるということもあります。

また「実話怪談」というワードも大変語弊があるワードです。
怪談ファンであれば、「実話怪談」のほとんどが実話ではなく、実話をベースに創作され実話のように話されるものであることはよく理解しています。
したがって「実話怪談」と銘打っていても、実際にはフィクションである可能性が高く、勝手に利用することは避けた方がいいでしょう。
このように、「実話怪談」と「創作怪談」の境界があいまいであるというのも問題の所在の一つであるといえます。

人間が一生に体験する怪談的経験には限りがあり、沢山の怪談を集めるには、誠実な怪談蒐集家の方や、怪談の語り手は、不思議な体験をした人に取材を行い、何らかの契約を行って素材を集める必要があります。

そうやって足で稼いで得たものが、簡単に侵害されてしまうということはなかなか厳しい面があります。
そのため当時業界には激震が走り、オカルトエンタメ大学でも怪談の著作権については特集動画が組まれていました。


おわりに

最近は「呪術廻戦」のヒットもあり、呪物ブームもあるようです。メルカリやオークションで呪物が高値で取引されているとも聞きます。
「特級呪物」を商標登録して呪物マーケットを開けば業界が盛り上がるかもしれません(商標トロールを推奨しているわけではありません。単なるネタです。)。

前川知的財産事務所
弁理士 砥綿洋佑