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永山絢斗氏が大麻所持の疑いで逮捕も「東リベ2」公開へ

◆出演者のスキャンダルで映画の公開に暗雲

俳優の永山絢斗(ながやま けんと)容疑者が大麻所持の疑いで逮捕されたことで、今月30日に公開予定の出演作「東京リベンジャーズ2 血のハロウィン編 -決戦-」をこのまま公開していいのか、議論が沸き起こっています。(予定通り公開することが19日に公式に発表されました)

また、「週刊文春」6月8日発売号でW不倫を告発された広末涼子氏が、地元高知県で製作中の映画が事実上製作停止(中止?)となった件も報じられており、奇しくも「出演者のスキャンダルで映画の公開に暗雲」とのテーマが注目されています。

私もMBS毎日放送のテレビ番組でコメントを求められるなど、この間、取材を受けていましたが、今回は自身のメディアであるこの場で解説します。

◆古市憲寿氏もコメントしているが……

『東リベ2』は数十億円の興収を期待される話題作、しかも「2」二部作の完結(後編)ということで、話題は沸騰しています。

私もこの作品はすでに見ておりますし、原作もすべて読んでいますが、永山絢斗演じる場地圭介(ばじけいすけ)は「血のハロウィン編」の主役ともいえるキーキャラクターであり、出演シーンをカットするのは不可能です。

そのため、先述の毎日放送のみならず各局ともワイドショーでこの問題を取り上げ、有名人もSNSなどでコメントしています。

社会学者の古市憲寿氏も

「『出演者の逮捕で映画公開中止』なんて慣習、そろそろ止めたほうがいい。」「もしも映画が公開中止になるのなら、悪しき連帯責任の典型だよね。そういう古臭い社会に生きていると思うとぞっとする」

などと発信、多くの共感とリツイートを得ています。

しかし、古市氏はこの問題を正しく把握しているのか、私から見ると疑問です。

◆「『出演者の逮捕で映画公開中止』なんて慣習」?

その理由は、彼が言う「悪しき連帯責任」「慣習」なんてものが映画業界にあるとは思えないからです。

出演者の逮捕によって「キャンセル」的な動きをするのは、スポンサーに依存するテレビ業界の話であり、映画業界はむしろ、普通に公開しているケースが多いのです。彼はどうもその違いを認識せずにツイートしているように思います。

もっとも古市氏も、検索して自分の間違いに気づいたのか、あるいは誰かに指摘されたのか、すぐさまツイートで

「まあでも「とんかつDJアゲ太郎」もきちんと公開してたし(観てないけど)、心配しなくても大丈夫か」

などと、言い訳のような書き込みで自己フォローしておりました。

映画は入場料によって成り立つ有料メディアであり、テレビとは違います。古市氏のようなインフルエンサーが、「『出演者の逮捕で映画公開中止』なんて慣習」などと、ありもしない慣習が映画業界にあるかのように広めてしまうのは、学者としていかがなものかと思います。

◆性犯罪でも麻薬犯罪でも「公開」が当たり前

近年での実例を挙げると、2016年に高畑裕太氏が強姦致傷容疑で逮捕された際は、すでに7割ほど完成していた『青の帰り道』を、莫大な追加投資をして代役を立てて再撮影、公開しました。

2019年にピエール瀧氏が麻薬取締法違反で逮捕された際には、『麻雀放浪記2020』『宮本から君へ』『引っ越し大名!』『全裸監督』(配信ドラマ)など、出演作品はすべて予定通りに公開しました。『ロマンスドール』も、延期の上で公開しました。

2020年には伊勢谷友介氏が大麻所持で逮捕されましたが、製作途中だった出演作『いのちの停車場』はそのまま製作続行して完成させ、ノーカットで予定通り公開しました。

◆同じワーナー作品の過去の例を見ても「公開」

翌年の作品だった『いのちの停車場』どころか、逮捕の翌月に公開が迫っていた『とんかつDJ揚げ太郎』に至っては、さらにとんでもないスキャンダルが重なりました。

公開月である10月、共演した伊藤健太郎氏がひき逃げ容疑で逮捕される「二度揚げ」状態に陥ったのです。報道冷めやらぬまま、それでも直後の10月30日に映画は公開しました。

『とんかつDJ揚げ太郎』は『東京リベンジャーズ2 血のハロウィン編 -決戦-』と同じくワーナーブラザーズの製作配給です。

おそらく今回の『東リベ2』も、このまま永山氏に新たな重罪容疑などが判明しなければ、ワーナーは予定通り公開するものと私は思います。
(この元原稿を書いたのは17日のメルマガでしたが、その後19日に予定通りに公開することが公式に発表されました)

◆「公開中止」となるのはどんなケースか

一方で、公開中止になった映画も存在します。

たとえば2022年3月9日、週刊文春が文春オンラインで性行為強要疑惑を告発した榊英雄監督による2作品です。

『ハザードランプ』『蜜月』ともに、当時おそらくほぼ完成状態だったと思われ、一部製作委員会は公開する意思を見せていましたが、結局公開中止。現在、データベース等では公開日未定、となっています。

この理由はいくつか考えられます。

榊英雄監督のケースでは雑誌以外でも告発が相次いでおり、本人が逮捕されなかったからこそ、逆に問題の解決と着地点(どこまで広がるのか)が見えなかった事。

榊監督はキャスティング権を含む絶大な権力を自作においてふるっていたと報じられており、主演俳優以上に作品に寄与する存在であったこと。

『蜜月』にいたっては映画の内容が性被害を扱ったものだったこと。

ちなみに2019年2月に強制性交の疑いで逮捕された新井浩文氏(すでに引退)が主演した『善悪の屑』(ほぼ完成状態)も公開中止された映画のひとつですが、こちらも新井氏が演じた人物に、性被害に関わる設定がありました。

その点では、『蜜月』のケースに近い例(作品への寄与度合いが高く、犯罪行為が映画の内容と被る)と言えるでしょう。

こうした特殊なリスク要因が重なったため、公開を強行しても資金回収が困難と判断された可能性が高いと私は見ています。

◆広末涼子氏の新作のゆくえ

一方、広末涼子氏の新作映画については、業界紙のデータを見ても製作状況がわからなかったためあくまで推測ですが、おそらく現在プリプロダクションが終わったあたり、つまり撮影前の段階ではないかと思われます。

映画の製作で最もお金がかかるのは撮影フェーズであり、その意味では「降板」するなら損害が最小限となる今が最後のチャンス、とも言えます。

しかし現実的にはこの作品は彼女の地元高知県を舞台にした作品であり、そのキャスティングの意味からしても、今から代役を探すのは困難とみられます。

このまま製作続行して公開するのか、いったんリスケするのか、それとも中止するのか。関係者は頭を悩ませていることと思います。

◆まとめ

ともあれ、スキャンダルによって映画公開または製作を中止するかどうかは、(関係者が公式なコメントで言うことはまずないですが)たぶんに経済的、ビジネス的な理由によるものです。

ぶっちゃけ、公開したほうが投資額を回収できると判断すれば、無謀に見える再撮影をしてでも公開するものなのです。市川猿之助氏が無理心中騒動を起こして降板した『劇場版「緊急取調室 THE FINAL」』も、その道を選択しました。

日本映画は製作委員会方式が普通であり、多数の構成メンバーの一致を見なければ公開中止は決められません。映画よりもCMで食ってる芸能事務所(タレント価値の毀損に敏感)の力が強ければ中止に傾き、映画で食ってる映画会社が強ければ逆に傾く。

そのような水面下のパワーバランスを想像しながらニュースを読み解くのもありかと思います。

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