水族館

俺はしょうた。水族館で働く28歳の独身だ。地方の小さな水族館に勤めてはや2年になる。釣りが好きな親の影響で色々な魚を見ていくうちにこの世界にのめり込んでしまった。危なかったがなんとか大学の海洋学部を卒業し、水産会社の研究員として働き出したものの何か違和感を感じ、というかそもそも勉強好きじゃ無い俺がずっと研究なんて無理で、たまたま応募が出ていた地元から少し離れた水族館に募集がかかっていたので応募したところ海洋学部の肩書きが強かったのか無事に合格、今に至る。ここの仕事は楽しい。俺は基本水質管理や餌の量など表でイルカと泳いでいる奴らからしたら明らかに裏方だが、水族館には入り放題でいつでも美しい魚たちをみることができるし、何より家族連れが多い水族館で小さな子供たちが目をキラキラさせて自分が管理している魚を見てくれていると自分のしていることに誇りを持てる。しかし、そんな俺の働く水族館ももれなく不景気の波に飲まれつつある。餌代は高いし、電気代、水の循環代。水族館の維持にはとてつもない費用がかかる。さらに目玉のイルカショーもイルカの体調が良く無いらしく、獣医の人とはすれ違ったら少し話すレベルで彼らが診察、治療に来る。そうした場合イルカを変えるのが普通らしいのだが、新しいイルカを調達し、ショーを行えるまでにどれだけの時間と費用がかかるのか。世の中は金で動いている。
俺自身にも問題がある。アラサーに差し掛かる俺の婚期のリミットが近い。以前マッチングアプリで知り合った女性と会うことになって、どうしても仕事の後に行かなくては行けなかった。そしたら会った途端磯臭すぎると言われ即解散。俺の月額4000円を返せ。とは言いつつあんなに海水と餌の生魚に囲まれた場所が職場で臭くならないはずもなく、俺の鼻はまるでベビースモーカーのように一定の匂いを嗅ぎ分けられないほど腐っていたのだ。まずい。俺は転職すら考えた。しかし今更入れそうなのは全く大学と関係ない商社か水産会社しかない。くそ。公務員試験に受かっておくべきだった。しかしそんなことを思った翌日にある子供が熱帯魚ゾーンで瞬き一つせずに凝視していたのをみるとやはりこの日ごとが好きだ!そう思ってしまう。水族館と俺の婚期。そして俺の人生。いつまでも行動を起こさないと。タイムリミットは全てに近づいている。

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