見出し画像

複数化する教師像その1

「家庭教師」と名乗ることが多いのだけれど、ただ生徒の自宅を訪問して授業してるだけでない。生徒に足りない能力を考えて、環境や学習法を手を替え品を替えさまざまなかたちで教育プログラムを提案してるので、自分がこなしている教育活動全体を見渡すと、一般的なイメージ通りの家庭教師の仕事だけではない。

(ただ、家庭教師がやるべき仕事を抽象化した上で、いろいろ実践しているうちに、役割が複数化しただけの話なんだが。)

これは自分の「ボス」の働き方からヒントを得つつ、自分なりにアレンジした働き方である。

ということで、これを機会に自分が家庭教師としてやってること、またこれからの教育のあるべき姿について、マインドマップを元に話していけたらなと思ってる。

◆そもそも家庭教師は何をすべきか。

まずは自分が家庭教師するとき、子供を変化させるフェーズは以下に分けられる。ただし、番号順にそのフェーズがくるわけではない。むしろこれらを行ったり来たりしながら、総じて子供の能力が上がることを目論んでる。

1 癒す(やる気にさせる)
はじめて教える生徒に共通点があるとすれば、やる気がない、勉強する気がないということかもしれない。家庭教師に指導を依頼するってことは、たいていその前に「集団授業の塾に通ってもうまくいかなくなった」ケースが多い。(そもそもよく考えずに、集団授業に最初に行くことが間違ってるのではという議論は、ここでは触れない)そういう子供は、通塾していた教育機関で劣等感を培い、何が問題なのかも考えられる状態ではない。(ボスはこれを子供が「壊された」と表現している)

なので、こちらとしてはまず通常の状態に戻してあげることが必要だ。そうでなければ、そもそも何か教科科目を仕込みたくても、生産性が上がらない。その方法はといえば、
①カウンセラーのように、悩み相談を聞く。
②嫌いな教科への劣等感を和らげる。
③自然体験ができる場所へ連れて行く。

この3つであるが、①②は、自宅でもできるが、③は出かけるしかない。ということで、この時点で「家庭で教える先生」という名前の通りの意味での家庭教師ではなくなる。
他の誰かが自然体験を子供に十分与えてくれたらいいのだが、それも都会だと難しい場合が多い。共働きの夫婦も多くなってきてるし、また、家族でアウトドアに出かけるというのも、家族みんなの意見が一致しなければいけないわけだから、誰かが反対したら行きづらい。それに、思春期の生徒の場合、家族旅行自体を拒否するし。
ということで、「家族未満近所のおじさん以上」の家庭教師が、自然環境に連れ出すしかない。

自然体験が勉強教えるのに関係あるかって?はい、かなりあります。
そう確信してなければ、家庭教師の指導時間よりも長い時間子供と付き合うような、言ってしまえば割に合わないことを意味もなくやらないでしょう。

子供は学習する以前にまずは癒される必要がある。(でもこれは軽視されがち)意欲がない子供に勉強を仕込むことはナンセンスだ。

2 学習相談(羅針盤代わり)
総じて学習相談ということなんだが、内容は「問題集の選び方、各教科の学習法(自分が教えてる教科に関係なくアドバイスすることが多い)、大学受験以降の進路など多岐にわたる。

あとは、日頃の勉強の力の入れ方だけでなく、逆に力の抜き方も教えて、やりたいことに全力尽くせるようにしてあげる。

ここで一番大切なのは、勉強ではなく、まずは勉強法についてレッスンするということ。

どうやって勉強すれば自分にとって効果的な学びとなるのか、勉強法というのは、最終的には各個人が自力で導き出すものだとは思うけれど、それでもどんなやり方があるのかいくつか試してみないことには独自のやり方は身につかないだろう。

ということで、その子にあってそうな勉強法、ノート作りについてアドバイスすることもまた1対1のレッスンでなきゃできないなあと思ってる。こういうのは集団授業ではなかなか難しい。(ただ、集団だと友達のサンプルを見せて触発させるという手もある。これはこれでおっさんが言うよりうまくいってる同級生の例を見るのは説得力がある。)

あとはモチベーションをキープするために、タイムスケジュールや受験までのメンタルの管理など、アスリートの横に付くコーチのような役割をするのも大切な役割である。(いわゆるコーチングってやつ)これもまた家庭教師の方がやりやすい。(集団授業でもできないこともないが、10人超えると難しいかもね)

3 ノせる

「ノせる」というのは業界用語?なのかな。指導中よく頭に浮かぶ言葉である。ボスと夏合宿(中高生10人10日間古民家勉強合宿のこと)してるときなんかは、「あいつ今ノせてるので、しばらく様子みてください」とか「横にくっついてもっとノせないといけない」とか言って、生徒の状況を報告しあっている。

ノせるというのは「何かに集中させる、没頭させる」ということで、自転車に補助輪なしでノせる的なニュアンスがある。

ちなみに、ノせる必要がある子は自分で集中できない状態にある。「がんばれ!」と号令かけて「はい!」とすぐ勝手にノる子はなかなかいないし、そんな声かけでやる気になるなら、そもそも家庭教師の出番少なめである。

どうして集中できない状態にあるのかといえば、

たとえば、数学の場合なら、公式とか定理をいまいちよく覚えていないせいで、全然前に進まない子っていうのはけっこう多い。

そういう場合、横についてあげて、ここはこの公式だよとすぐアドバイスして、ケアレスミスしていたらすぐに指摘して訂正したり、まあ要するに、運転免許の仮免状態での実技練習みたいに、レッスンしてあげるといずれノっていく。

いきなり公道に出たら事故を起こすので、まずは実際にハンドルを握りながら、プロの注意に耳を傾けて前進する。事故りそうになったら、ブレーキを踏んでもらい、正しい手順を教わる。やがてしばらくすると、一人でも運転できるようになっていくってことかな。

勉強するということは誰だってその単元、学問の初心者からスタートするわけだから、初心者マークの人はそうやって気遣ってあげながら自力でノれるようになる。

4 能力開発

ここまで準備を整えて、いや以上の1〜3を繰り返しながら、教科学習を効果的に行うことができる。これが家庭教師のメインの仕事(だとみんな思ってるやつだ)

ただ、能力開発というのはそんなに狭い定義ではなくって、家事や人間関係、表現活動など幅広く開発するきっかけが眠ってる。

手先が器用になる。歌が上手くなる。前よりお皿をきれいに洗えるようになった。さっき言ったことをちゃんと覚えてる。

そんなの当たり前だろうというところにも、子供の能力が開発されていく姿を観察するのも家庭教師の仕事なんじゃないかなと思う。というかそういう観察から、生徒の不足してる能力と伸びてる能力を見極め、目下勉強で抱えている課題解決の道筋を決めるべきなんじゃないかなあと思う。

なので、家庭教師(いや教育に携わる者全て)が観察力を持つことはマストである。これなしでは、子供の成長の「種火」を見逃すことになる。

「種火」からどんどん火を大きくしていって、もうこれで大丈夫、火は絶えないというところまで、つまりは、自力で学問を学べるレベルにまで子供を育てていくようにする。


ああ、焚き火やり過ぎで、いつの間にか火の話になっていた。失礼。

まあ、まとめると、そうした日常のなかで子供を成長させるようにしていくこともその後もちろん勉強ができるようにすることも全て、能力開発であるってことで、できればそれらを関連づけながら、子供に生活の中にも学びがあることを気づかせることも家庭教師の仕事だってことだ。

ここまでみてきた方は分かると思うが、すでに家庭教師がすべき仕事がただ勉強を教えることだけではない(と筆者が思ってる)と分かったでしょう。次からは家庭教師の枠を明らかに越えてしまってる筆者の教育活動についてもう少し詳しくみていく。

◆家を片付け、教材を揃える環境設定のコンサル

学習意欲を取り戻して、レッスンでいい感じにノせることができても、それは数時間だけの話で、大半の時間を過ごす自習の間にやる気がなくなって、また翌週会うときには、学習意欲がない状態からスタート。。となってしまっては、効率が悪い。本人にとっても余計な勉強時間が増えて手間だろう。

ということで、自宅学習しやすい環境設定するのも、自宅に「潜入できる」家庭教師の仕事である。

ではどんな仕事があるのかといえば、ボスの本『賢い子どもは「家」が違う! 』(https://amzn.to/3gN9OtQ)に詳しいのだけれど、集中しやすいレイアウトにしたり、勉強に最低限必要な書籍を揃えることだったり、ファイル整理、家族と共有する生活空間のなかで、どのように勉強空間を演出するかなども家族と話し合いながら決めていく。そういうことをやっておかないと、自分が帰ってから全く勉強はかどらないなんてことも多々ある。極力そういう状態は避けたいところだ。

◆子供を癒す自然体験を提供するキャンプリーダー

癒すことがまず第一の仕事なので、まずは家庭教師である以前に、キャンプのリーダーでなきゃいけない。

最初は、近くの山や海などいろんなとこ連れて行ってリフレッシュさせてたんだけど、他人に了承を得て場所を毎回借りるのが面倒になって、自分で古民家借りることになった。(2020年で4年目突入)


東京都の奥多摩にあって、中心部から1時間半から2時間くらいかな。他の知ってる先生から「救助要請」があれば、生徒を受け入れることも多い。まあいうなれば、都会の「学習緊急患者の受け入れ先」となってる。

ということで、今はキャンプリーダーを越えて、古民家オーナーに昇格したわけだが、繰り返すが、これもまた教育活動の一環である。

◆一緒にフィールドワークして能力開発するファシリテーター

教えていて、机上ではどうにも理解してもらえない場合、博物館に出かけたり、図書館に出かけたりすることもある。その子が今解いてる問題が分かるようになるならば、どこにでも出かける。(物理的な限界あります)

どんなものでも学習に役立ちそうなら取り入れてしまう。道端でさっきやった問題の説明したりする。家庭教師ならぬ路上教師である。

これは紙に書かれている言葉にリアリティが持てない子供(特に小学生)は同じことを言っても、フィールドワーク中の方が吸収率がハンパない。

筆者は、フィールドワークの学習効果の高さに味をしめた教師である。

◆他塾紹介、オンライン学習の使い方解説など学習プランナー

筆者がどれだけ奔走しても、時間は有限。体もひとつ。なので、できれば、他の多くの人と協力しながら、目の前の子供の能力を伸ばしたい。

生徒の学びたいことも多様化してるので、各生徒にあった先生や塾、教材、オンライン学習などを探し出し、紹介する仕事も、筆者の主な仕事の一つとなっている。

学習ガイドというか学習プランナーというか。海外の学校にいくと、チューターとかホームルーム担当の先生とかが、このポジションを担っているらしいが、これは今後けっこう重要な仕事になるだろう。

自分より教えるのがうまい先生や教材、動画に指導をお願いして、こちらはそのフォローアップに徹する。その教材の説明がわからないところだけ、解説を加えて、次にどのような問題を解くべきかプランをたてる。

オンライン学習が海外のように広がりをみせるにつれて、こうした学習プランナー的な教師は増えることだろう。というか学校の先生の多くがそういう役割を担うのかもしれない。

◆オンライン家庭教師

これは今後の家庭教師の形になるだろうが、筆者も昨年からオンライン家庭教師を本格的にやりはじめた。

同じ1対1の指導でも、対面レッスンとは違う工夫が教師側にも生徒側にも必要になってくる。また機会があったら詳しく説明するが、ちなみに、特にオンライン家庭教師で能力開発するのに向いてるのは言語学習であると思う。

家庭教師していると、子供の身振りや学習の姿勢など周りの情報からその子の学習状態を観察してる。だが、オンラインだと頼りになるのは、子供の言語情報がメインである。

その特徴をうまく生かすことができれば、子供の言語能力をぐんぐん伸ばすことができるし、また、カウンセリング的な役割も果たすことができる。(教会の懺悔に近い効果があるのかも)何より、画面共有で、ウェブの情報源を紹介しやすいので、学習相談などもやりやすい。

こうしたオンラインのメリットを生かすことで、オンライン家庭教師というのも、今後自分の重要な仕事になってくるだろうなあと感じてる。


と、こんなふうに話し続けたが、筆者のやってることが伝わっただろうか。家庭教師といっても科目学習だけでなく、やることがもっと複数化してる。

もちろん、一般的には専門教科を教えるのに特化した家庭教師というのも健在だ。ただ、この場合、単に中学数学が教えられるとかではなく、もっと高度な研究を行っている学者あるいは学者の卵のような人に家庭教師になってもらった方がいいだろう。教養を深め、なおかつ子供の頭もアップデートしてくれるにちがいない。専門的な知識を持った人物との対話は、書籍何百冊分にも相当するくらい、学習初心者にとって何にも代えがたい学習時間だ。

だが、付け加えなきゃいけないのは、それは上記の「癒し」の段階を越えた子供にしか通用しないってことだ。学習意欲が欠如した子を復活させるには、対話以前のもっと身体的な教育が不可欠だ。そしていまみてる子供たち、特に小中学生の場合、学習意欲を取り戻す機会が不足していることが多いと、経験則で感じてる。 

だから、専門知識を伝える家庭教師以外に、多機能万能型の家庭教師が求められる。


1対1の指導をやってもらおうというご家庭に言いたい。まずは、自分の子供が一体どの「段階」か観察すべきだ。専門知識を聞き入れる状態にあるのか、もしそうでないなら、多機能家庭教師を探す他はない。ただ、知識を教えてもらう教師をあてがったところで、子供の能力を伸ばし続けることは困難だ。(もちろん上記家庭教師の仕事をある程度家庭で補完することもできる。自然体験は家族で定期的にやるとか、教育環境は家庭でちゃんと設定するとか、自力でやることもできる。)

また、上記家庭教師の仕事を参考に、個人指導を依頼する先生に何をやってもらうべきか、リストアップするといいかもしれない。値段以上の教育的効果を求めるなら、家庭教師がただ勉強を教えてくれる存在だとは思わない方がいいだろう。

また、一方で家庭教師やる側ももっと仕事の幅は広いものだと考えた方がいい。その方が自分の教師業がおもろくなるし、需要も増えるだろう。上の仕事を全部満遍なくできるなら、塾講師をやるより自分の思った教育活動をやっていける。その方がよくないか?個人的にはもっと多くの教育者が家庭教師をベースにして、個人で起業できるようになったらと思う。世の中にはおもしろい先生がたくさんいるはずで、そういう先生たちが集まって、そこに母親たちも参加するようなサロンができないかなあと最近そうしたシステム作りたいなあと考えてる。そしたら、そこで勝手に個人契約できるし、子供もそこに作文投稿とかもできるし、便利だなあなんて思ってる。

次はオンラインサロンオーナーか。これもまた、もう一つの複数化する教師像になるかもしれない。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?