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已己巳己にひびく声

「えらい似てるなあ。お姉ちゃんかと思った」

「せやろ? 声だけ聞いたらどっちか分からんなあ」

お母さんと変わるで、と言ったのち、父と母の会話が受話器の向こうからポツポツと聞こえてきた。

ひとり暮らしを始めたばかりのころ、わたしは頻繁に大阪の実家へ電話をかけていた。

母に料理のコツを教えてもらったり、大阪では放送されないテレビ番組があるから録画してほしいと姉にお願いされたり。父は恥ずかしいのか「元気そうやな。風邪ひきなや」とだけ言うとすぐに受話器を誰かに渡してしまうのだけれど。

はいはい、お待たせと、受話器の先から母の声が聞こえてくる。

「お姉ちゃんと、声似てる?」ちらりと聞こえた会話が気になったので訊ねてみる。母は「そうやねん、びっくりする」と、朗らかにいい、鈴の音色のようにコロコロと笑った。

遠くに離れて暮らしているのに。その笑い声を耳にすると、いつだって目の前で笑っている母の顔が浮かびあがる。




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